第四十九話 エリーとハリスも……
「……悪いな」
少し僅かに暗い顔をしながらそう言うと、片手剣に付着した剣を振り払う。そして、仲間たちが戦っている方に視線を向ける。
そこでは、かつてレイを圧倒するほどの剣技を見せたハリスを中心に、何とか”黒の支配者”の苛烈な攻撃を防いでいるところだった。だが、全員満身創痍で、いつ死んでもおかしくない。
「くっ……!? マジかよ……」
背後から戦いの音が消えたことに背筋が凍るような思いに陥ったハリスがそっと後ろを見て、顔を青くする。
無理もない。何年も一緒にいた仲間が――あろうことか、かつての仲間に無惨にも殺されていたのだから。
「……エリー。逃げるぞ」
「!?……ええ。分かったわ」
そして、即座にエリーと共に逃走を選択する。ここで逃げれば、依頼主も、今回一緒になった冒険者2人組の冒険者も、確実に死ぬだろう。それに、依頼主を死なせたとして、冒険者ギルドからの評価が大きく下がる可能性だってある。だがそれでも、命あってのものだと2人は馬車の進行していた方向に向かって走り出す。
「な!? あいつら逃げ――くっ」
「くっ 私達も逃げるわよっ!」
「お、おい! 依頼主を置いて行くとは何事だ!」
ハリスとエリーが逃げ出したのを見て、男斧術士と女魔法師も盗賊からの攻撃を防ぎながら、2人とは反対の方向に逃げ出す。依頼主が騒いでいるが、その声が耳に入ることはなかった。
「逃がさない」
レイは即座に地を蹴ると、逃げるハリスとエリーを追う。
ハリスとエリーも、少し拙いが魔闘技を使っているだけあって中々速い。
だが、
「はっ!」
直ぐに追いつき、レイは片手剣をハリスめがけて振り下ろす。
「!? はっ!」
それにより、迎撃せざるを得なくなったハリスは直ぐに振り返ると、レイの片手剣を剣で防ぐ。
片手で振られた剣と両手で構えた剣。本来なら両手で構えている方が力は強い――が、魔法で強化されているのならば話は別。
「ぐっ」
ハリスは押し負け、後ろへ弾き飛ばされることとなった。
「はぁ はぁ……何故、こんなことをするんだ……」
ハリスは態勢を立て直しながらそう言う。すると、そんなハリスに呼応するようにエリーも声を上げた。
「そうよ! 私たちは争うべきじゃないでしょ! ……それとも、忘れちゃったの! あの時のことを!」
エリーは目に涙を浮かべながら、悲痛な声でそう叫ぶ。
だが、それでもレイの心は――動かない。
「忘れてなんかないよ。君たちと共に遊び、学び、鍛錬したあの日々は凄く充実していた。だが、それとこれは話が違う。バルトにも言ったが――」
そこで、レイの顔が変わった。その顔に、2人は思わず息を呑む。
「僕は生きたいんだよ。何を犠牲にしてでもね!」
狂気に染まったその顔に、2人はぞくりと背筋が凍る。そして、この男はレイであってレイではないと察した。
「……まあ、そう言う訳だ。では……死んでくれ」
直後、準備してあった
「はあっ」
「くっ」
2人がそれぞれ持つ剣と槍の素材は、魔力によって強化された鉄――魔鉄だ。
だが、それでは非実体の
故に、こうして避けることしか出来ないのだ。
そこに、レイは更なる追撃を仕掛ける。
「はっ!」
その身体能力により、エリーへ急接近する。
そして、鋭い一閃を首めがけて放った。
「が、は……」
エリーは即座に後ろへ体を逸らそうとしたが、それでは避けきれず、喉を半分ほど切られ、地面に倒れる。
「が、は、あ……」
まだ死んではいない。喉を斬られただけでは、人は死なないのだ。
だが、戦闘不能なのは見ただけで分かる。それどころか――このままなら死ぬということも。
「くっ……レイ! やめろ! 今すぐ止めてくれ!」
ハリスは悲痛な声で、訴えるように声を上げる。
しかし、帰ってきたのは非情な言葉だけだった。
「無理だ」
そして、レイは地を蹴り、ハリスに一閃。
キン
「……流されたか」
レイの片手剣はハリスの剣によって受け流され、レイはそのまま反対側に立つ。
やはり、剣技はハリスの方が上。
そう判断したレイは、剣で戦うことを止め、上へ跳ぶ。
そして、5メートルほど上がったところで、空中に板状の
一方、レイが何をする気なのを察したハリスは、即座に勝てないと判断して、脱兎のごとく逃げ出す。
だが――
「魔力よ。数多の月の光となりて斬りかかれ。敵へ向かって舞踊の如く踊り狂え。
直後、無数の月形の光がレイの頭上に現れたかと思えば不規則な軌道を描いて、逃走するハリスに次々と襲い掛かった。
「ぐっ がはっ ぐふっ」
ハリスは自慢の技量を駆使して必死に避けようとするが、腕を絶たれ、足を絶たれ――
「くっ……死ぬのか……俺……」
首を絶たれ。
ハリスは地面に倒れ込んだ。
「……ああ、エリーが残ってた」
そう言えばまだとどめを刺していなかったなと、レイは地面に下り立つとエリーの下へ歩み寄る。
「な、はん、で……」
エリーは涙を流しながら、掠れてもうほとんど聞き取れない声でそう言う。
レイはエリーが何を言いたいのかを何となく察すると、口を開いた。
「言っただろう。生きる為だと」
そう言って、レイは片手剣をエリーの首に振り下ろした。
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