第三十八話 レイの紹介

 その日の夜。

 少しずつだが心が落ち着いてきたレイを連れ、バラックはルイと共に洞窟の外へと向かう。今頃、皆は夕食の準備をしている所だろう。

 そうして外へ出ると、案の定、皆は焚火を囲って食事の準備をしていた。

 焚火で昼間に狩って来たであろう魔物の肉を焼く者、食器類の準備をする者等、皆しっかりと役割分担をしているようで、その様子はある意味洗練されているように見える。


「あ、お頭! そろそろ準備が終わりやす」


 1人がルイの存在に気づき、声を上げる。すると、他の人たちもその声に反応して、次々とルイの方へ視線を向ける。

 そうすると、自然とその隣にいるバラック、そしてバラックにくっつくレイにも視線が行く。


「ん? あの子供はなんだ?」


「お頭の隠し子か……へぶっ」


「おいおい。そんなわけねーだろ」


 ざわざわと、次第に騒ぎは大きくなっていき、それに伴いレイの方に向かう視線も多くなる。


「……」


 そんな視線を、レイは無表情のまま受けていた。これも、あの影響なのだろう。

 すると、ルイがパンパンと手を叩いて皆を静かにさせると、口を開いた。


「この子供の名前はレイ。昼間襲った馬車の主が保有していたであろう奴隷で、今日から”黒の支配者”の一員だ」


 ルイの言葉に、盗賊たちはまた口々に喋り出す。


「まあ、素直そうだし、雑用には使えそうだな」


「流石に非戦闘員を入れるのはどうかと思うんだけどなぁ……」


「だな。でも、頭が情だけで入れるとは思いにくいし、何か考えがあるかもよ」


 盗賊たちの意見は総じて、レイを入れることに快くは思わないが、頭のルイが言った手前、激しく拒絶するつもりはないといった感じだった。

 そこに、ルイが決定打となる言葉を投入する。


「落ち着いて聞いてくれ! 実は、このレイ君。光属性魔法が使えるんだ」


 直後、辺りは静寂に包まれる。

 そして――


「おお! マジかよ。そりゃ入れて当然だわ」


「だな。まさか襲撃でこんな掘り出し物があるなんて」


「回復薬にかかっていた費用が大幅に削減できるな」


 レイが光属性魔法師であることに、ほとんどの人が喜びの声を上げる。

 そこには、レイが元奴隷で、自分たちを裏切る可能性がほぼないことも関係しているのだろう。

 ルイは皆がレイのことを歓迎している事実に笑みを浮かべると、口を開く。


「さて、今日はレイ君を歓迎しながら食事にするとしよう。レイ君も、皆と一緒に食事の用意をしてくれないかな?」


「分かりました」


 朗らかな笑みを浮かべるルイの言葉に、レイはあまり感情のない顔で頷くと、食事の用意をしていた盗賊たちの下へ向かう。


「おう。そんじゃ、早速だがそれを手伝――「待ってください」……ん?」


 歩み寄ってきたレイに、盗賊の1人が声をかけた直後、落ち着いた口調の男の声が聞こえた。

 その盗賊が振り向くと、そこにいたのは引き締まった肉体を持つ、中年の男だ。

 男の名前はノイズ。バラックと同じ、”黒の支配者”の幹部だ。

 男――ノイズはゆっくりとレイに向かって歩み寄ると、皆に聞こえるような声で口を開く。


「私は自分で見たものしか基本信じない。私はまだ、彼が光属性魔法を使っている所を見ていない。使っている所を見せてくれないと、納得できない」


 ノイズの言葉に、数人が小さく頷く。

 一方、そんなノイズの言葉を聞いていたルイは「なるほど」と頷くと口を開く。


「それはもっともだ。なら、レイ。早速だが、適当に光属性魔法を使ってみてくれ」


「分かりました」


 ルイの言葉に、レイはコクリと頷くと、詠唱を唱える。


「魔力よ。5本の光の矢となりて敵を穿て。光矢ホーリーアロー


 直後、レイの目の前の5本の光り輝く矢が現れたかと思えば、それぞれ別々の軌道で天へと向かって飛んでいき、ふっと消えた。

 その様子に、盗賊たちは「おお……」と感心したように息を吐いた。

 数秒の静寂の後、ルイが口を開く。


「ほら、使えるでしょ? てか、結構凄いね。あれなら文句はないだろう?」


「はい。使えることが確認できただけで、私は満足ですね。にしても、あれほどとは……いい逸材だ」


 ルイの言葉に、ノイズは半ば感心したようにそう言うと、くるりと背を向け、元居た場所へと戻る。


「さて、これでいいかな……? うん。いいみたいだね。それじゃ、今度こそ食事の準備を頼むよ」


「分かりました」


 ルイの言葉に頷くと、レイは今度こそ食事の準備に混ざる。

 盗賊たちからの教えにそって、要領よく肉を焼いたり、机椅子を並べたりと、料理の準備に勤しむ。

 盗賊たちはそんなレイを見て、「勤勉だな~」と言い、ほっこりする人もいれば、「人形みたいだ」と言い、若干気味悪がる人もいた。

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