第21話 師匠と勇者達 【加筆】

「そう言えば、カルミーさんを見かけないんだけど、どうかしたの?」


俺の知り合いのもう一人はカルミーさんだ。


赤髪に大きな胸、鍛え上げた太腿に健康的な褐色の肌。


ボーイッシュな笑顔が何とも言えない。


ルミナスさんが家庭的な美人だとすれば、彼女は、野性的な自由奔放な感じだ。


元傭兵出身で冒険者になった。


そう考えたら、その奔放さも頷ける。


俺が前にこの街に来た時に、剣の指導と冒険者の心得をギルドに依頼した。


その時指導してくれたのがカルミーさんだ。


カイト達四職は、城で騎士や宮廷魔導士から1か月位指導を受けていたが、俺はそれに加わる事は出来なかった。


の街に来るまで、自己流で工夫しながら頑張っていたがどうも上手くいかなかってきた。


そこで、身銭を切って、冒険者ギルドに指導を頼んだ際に紹介され、俺に剣の指導をしてくれたのがカルミーさんだった。


期間はたったの七日間だが、俺の人生においてもし『師匠』という人物が居るとしたら、カルミーさんなのかも知れない。


家庭的なルミナスさんと違い野性的な美人で凄くセクシーだった。


ただ、残念な事に既婚者で夫婦で冒険者をしていたから、恋愛の対象外。


残念な事に夫婦仲は凄く良く、馴れ初めは、当時、傭兵だったカルミーさんに一目惚れした、旦那のケビンさんが告白してあっと言う間に結婚。


本当に凄く残念だった。


ケビンさんにもカルミーさん程では無いけど、色々教わった。


まぁ酒とか、博打とか碌でもないものだけどね…


今思えば凄く懐かしい、勿論カルミーさんとだけじゃなくケビンさんも、俺にとって数少ない友人だ、久々に一緒にお酒を飲みたい…そう思った。


ルミナスさんを紹介してWデートしても楽しいかも知れない。


なんだ、かんだ言って勇者パーティを除く数少ない友人だ。


だが、この街で、冒険者をしている筈なのだが、不思議と会えない。


だから、凄く気になったんだ。


「カルミーなら、もう…冒険者を辞めました」


「そうですか」


確かにカルミーさんは良い齢だし、そろそろ子作りして引退していても可笑しくないな。


「はい…」


だけど、何だか受付嬢の顔色が悪く感じるのは何故だ?


「それじゃケビンさんはどうしています?」


「ケビンももう、このギルドに居ません」


なんか引っかかる言い方だな。


「それじゃ、カルミーさんもケビンさんもこの街には居ないのですか…」


「…ケビンは居ませんが、カルミーは居ると思います、ですが事情があり、詳しくは話せません。ですが、依頼であれば居場所を探しますが...」


なんだか、凄く歯切れが悪い。


「それじゃ、依頼しますのでカルミーさんの居場所を探して下さい」


「…解りました、銀貨3枚になります」


銀貨3枚を支払いカルミーさんの居場所探しを頼んだ。


だけど、いつも明るいギルドの受付嬢が何故か目を伏せ暗い顔で話している。


一抹の不安があるが、今はどうする事も出来ない...まぁ暫く待てば全部解るだろう。




◆◆勇者SIDE◆◆


何だよこれ!


「煩いカイト話掛けないでよ!あ~凄く面倒くさいよ…なにこれ! 次の目標、目的地、予算を計上…なんでこんな事を...あ~もう」


おい...


「フリージア…」


「何よ! 私はこれからポーションと道具の買い出しに行くのよ」


何だよこれ...いつもの光景じゃない。


「リダ」


「私は武器の手入れ、悪いけどカイトは食事の用意を頼むよ」


嘘だろう…リヒトが居なくなった途端に急に忙しくなった。


イチャつくどころか、ゆっくりお茶を飲む時間すら無くなってしまった。


まさか、こんなに忙しくなるなんて思っても居なかった...


リヒトはこうなると解っていたのか小冊子を置いて行った。


『楽しい冒険の書』と書いてありリヒトの似顔絵が書いてあった。


凄く満面な笑みをしている。


最初、どうして良いか解らなかったが、リヒトはこの本に必要な事はほぼ全部書いて残していった。


確かに事細かに書かれていて、この通りにやれば全部解決…そう思っていたのだが…


何だよ!この仕事の量。


実際にやってみたら、凄く大変だった。


休む暇なんて殆ど無い。


こんな事をしていたら、体も心も休まらない。


狩りが終わって帰ってきたら、冒険者ギルドで成果報告。


国から予算を貰う為の各種申請書類の作成、提出。


目標の設定に…冒険に必要な各種薬品や装備の準備。


それが終わったら、装備の手入れ。


全部丁寧に書いてあるが…これは手分けしても大変だ。


それ以外にも生活に必要な事は沢山ある。


宿屋の予約に…身だしなみ...食事の手配。


俺の自慢の髪も、此奴ら三人の髪も全部彼奴がカットしてくれていた。


風呂に入れない時の体を拭くハーブ水の用意。


全部彼奴1人でやっていたのか…


「カイト…逆らうようで悪いけど、この量の書類仕事を私がやっていたら、旅に支障をきたすよ…もうヘトヘト」


「そうね、聖女だから薬品に詳しいだろうって買い出しばかり…疲れるわよ」


「毎回武器の手入れは私…ハァもう嫌だよ」


「そうだな…やっぱりリヒトは必要だな…直ぐにギルドを通して、リヒトに伝言を頼むよ」


「そうして…この書類本当に面倒くさいの」


「狩が終わったら、すぐに宿で休みたいわ」


「魔剣や聖剣の手入れは私じゃ満足にできないからね…駄目にしちゃう前に頼むよ」


「解ったよ」


だが、俺は大きな勘違いをしていた。


幼馴染だから、名誉ある勇者パーティだから…絶対に戻ってくる。


そう思っていたのに…


『カイテキダカラ カエラナイ マオウトウバツヲココロカラオウエンシテイマス  リヒト』


たった1行の文章…が返って来ただけだった。


『魔王討伐を心から応援しています』


もう彼奴にとって俺達の冒険は『他人事』なのだと、この文章だけでも良く解った。


今思えば、この旅を強制されるのは俺達だけ...リヒトは強制なんてされていない。


それでも彼奴は、ついてきてくれた。


幼馴染だからか...


そんな彼奴を追い出したのは俺達…だから、こう言われても文句は言えない。


『きっと彼奴は帰って来ないだろう』


それだけは良く解かる。


自分がリヒトの立場なら...戻りたいと思わないからな。








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