第37話 復讐の終わり

俺は村長の家を二頭のオークを斬り伏せ脱出した。


入口の門が破壊されているからオークは入り放題だ。


今では、何処からともなく、血の臭いを嗅ぎつけたゴブリンも混ざり始めた。


体が自由に動かないから男は片端から殺され食われていく。


女はきっと、苗床にされるか、殺されるかオーク次第だ。


死んだ方がましと思えるような状態でオークに押さえつけられている。


正に地獄絵図だ。


見ていて、つい思いついてしまった。


俺の復讐はまだ終わらない。


再び、俺はオークの群れに飛び込んでいく。


まさに目の前では女が1人オーク3頭に犯され掛かっていた。


俺を見た女の濁った眼に光が宿ったように見えた。


「助けてーーーーっ、リヒト様―――っ」


渾身の気を振り絞って女は叫び助けを求めた。


俺は女を助ける様にオーク三頭を斬り伏せた。


「ありがとう…ありがとうリヒト様」


「大丈夫か?」


「…はい」


お前に言ったんじゃねーよ。


ゴブリンに言ったんだ。


「オークに独占されて辛かっただろう?そら、持っていきな!」


「きゃぁぁぁぁーーーっ嫌ぁぁぁぁーーー」


俺はゴブリンの方に女を放り投げた。


ゴブリンは一瞬不思議そうな顔で俺を眺めていたが、意味が解ったのか俺に笑顔を浮かべて女を担いでいった。


ゴブリンはもしかしたら頭が結構良いのかも知れない。


俺が味方だと思ったのか、俺の邪魔をしない。


それ処か、俺と距離をとりくっついて来る。


俺はオークを殺し、オークが犯している女や食べている男をその度に放り投げた。


それをゴブリンは嬉しそうに担いでいくか、かぶり付いて食べていた。


多分、前の世界で言うなら『ライオンとハイエナ』状態で、しかもそのライオンが『獲物をそっくりハイエナにあげている』状態なのかも知れない。


ゴブリンには多分それが解っている可能性がある。


今では明らかに俺を見守る様に遠巻きから見つめている。



どれだけ狩ったか解らない位殺した。


人間の女は運び出されていった。


人間の男はもう肉状態でゴブリンが美味しそうにかじっている…


あとは、オークキングを殺せば、オークへの復讐も完了。


あはははっゴブリンの上位種に襲われて死ぬのは時間の問題だ。


会えばすぐに殺すゴブリンだが、実は案外知能が高いのかも知れない。


油断した。


ゴブリンの上位種がこちらに来ている。


ゴブリンナイトにゴブリンキング…アーチャー数匹まで居る。


殺せるし余裕だが、アーチャーが居るからかすり傷は負うかも知れない。


だが…


他のゴブリンを制してキングが俺の前に頭をさげた…


「コンカイノケン レイヲイウ…ウケトレ」


そう言うとお金の入った袋を投げてきた。


「これは…」


「ワレワレニハイチバンヒツヨウガナイガ ニンゲンハホシガル…レイダ…」


そう言うとゴブリンを引き連れ去っていった。


確かに上位種は喋れると聞いた事はある。


だが、まさか報酬をくれるとは思わなかった。


依頼は失敗。


オークやゴブリンに襲われ死んでいた。


これで良い。


一番波風が立たないで済む、最高の終わり方だ。



なんてな…


まだ終わりじゃない…


村長も村の人間も平和に暮らしていた。


盗賊は居ない様に思えた。


居ないんじゃない。


村人になっていたんだ。


俺が区別がつかない位に。


そして、元盗賊は怯えた生活をしていなかった。


そこから解った事は…


『領主が盗賊を許していた』そういう事だ。


◆◆◆


「おや、英雄と呼ばれる貴方が私に隠れて会いにくるとは?魔族絡みですか」


こういう時、勇者パーティだった事は凄く都合が良い。


見た瞬間から信頼される。


俺が住む街の領主で、あの村を支配に置く。


ハルス伯爵。


「いや、今日はお前を殺しにきたんだ」


「なっ、私は魔族に与していませんぞ!潔白です」


『魔族に内通していると疑われている』と勘違いしたんだな。


だが、違う。


「とある村が盗賊に襲われた。そしてその盗賊は、その村で暴力の限りを尽くした!それをお前は許したんだよな?」


さっきの話しぶりだと俺が勇者パーティを離れたのを知らなさそうだ。


「確かに、許したかもしれぬ!だが、それは魔族絡みじゃない、確かに褒められた事ではないが!勇者パーティが出てくる話ではない」


「確かめたのか? 村の現状を」


確かめていない筈だ。


確かめていたら、カルミーさんは多分保護された筈だからな。


「確かめていない…」


正直だな。


「その盗賊、魔族に通じていたよ!村は魔族の物になっていたよ」


実際は違うが…あいつ等の行いは『魔族や魔物以下だ』


「嘘だ…」


「村人も感化され、女をいたぶるような魔物や魔族みたいな生活をしていたぞ」


「そんな事が、私は知らなかった」


「知らないで済む事か?! 悪いがこの事は勇者を通して国王に話す!お前等一族は『異端審問』に掛ける!妻も子も家臣も全員な」


異端審問は怖い…吐くまで拷問される。


つまり掛けられた時点で終わり。


余程の意思がなければ、やって無くても罪を認めて死を願う。


「それだけは、それだけはやめてくれ」


「俺も人の子、悪魔じゃない…今回の件をあんたは知らなかった、それは知っている!だが、報告はもう決まった事だ!そうだ、良かったら自殺してくれないか? 見ていてやるから!そうだな『魔族と通じていたのは私一人で家族や家臣は絡んでいない』そう遺書に書けよ、それでどうにか丸く治めてやる!何処まで出来るか解らないが異端審問だけは食い止めてやる」


「リヒト殿、感謝します…」


騙されたとも気が付かずにハルス伯爵は遺書を書き、毒をあおり自殺した。


悪いとは思わない。


あの村の人間は『魔族』みたいな腐ったやつらだ。


それを許すなら…魔族と手を組んだのと変わらない…




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る