第36話 復讐②

毒を井戸に放り込んだ。


恐らく1日分の水は既にかめに溜めているから、被害が出るのは明日からだろう。


今日は汲んだ水を使う筈だから被害は余りでない可能性が高い。


村長の家は…と。


「すいません、村長の家を…教えてくれな」


そう近くの子供に話かけようとした瞬間、彼奴が居た。


絶対に俺がこの手で殺したい相手…ケビンだ!


手が震える。


体が早く、此奴を殺せと訴えかけてくる。


駄目だ…


今は、耐えろ。


顔にだすな…


憎しみを笑顔に変えて誤魔化せ...


「ケビンさん、この村に居たんですか?」


憎しみを押さえ、笑顔を無理やりつくり話しかけた。


「リ、リヒトじゃないか?! 久しぶりだな…今日はどうしたんだ?」


多分、俺が何も知らないと思っているんだろうな…


ケビンの奴、笑顔で話し掛けて来た。


「この辺りに大きなオークの巣があると聞いて、討伐依頼を受けて来たんだ…それでケビンさんはなんでこの村に? なにかの依頼ですか?」


笑顔だ、顔を引き攣らせるな。


「まぁ、そんな所だ、ただ守秘義務がある依頼なんで詳しくは話せない…悪いな」


盗賊に落ちただけだろう...がっ。


「冒険者なんだから当たり前じゃないですか? そう言えばカルミーさんは元気ですか? 今回は一緒じゃないんですか?」


顔色が曇った、少しは良心の呵責があったのか。


違うな、すぐに明るくなった。


俺が知らないと思って安心した、それだけだ。


「今は、カルミーは別の依頼で動いているんだ!今は別行動だ」


「そうですか、残念です、師匠は別行動なんですね!それでケビンさんは今夜暇ですか?」


「暇は暇だが…」


「なら、久しぶりに一緒に飲みませんか? 良い酒ありますから」


「そうだな、久々に飲むか?」


「今夜は一杯やりましょう!それでこの村には宿屋が無いそうなので村長さんの所に行こうと思うのですが、案内して頂けますか?」


「あっ、それなら、俺の家に泊まれば良いだろう」


家…持っているんだ。


完全に村の人間じゃないか...


「それじゃお願いします」


そのまま、ケビンの家に上がり込む。


大きな家ではないがちゃんとした一軒家だ。


「どうした、キョロキョロして」


「良い家ですね」


「まぁな」


さて此奴をどうするかだ…失敗は出来ない。


大きな声でもあげられたら、となりの家には聞こえそうだ。


叫ばれたら、そこで終わりだ。


「ケビンさん…俺知っているんですよ!」


「どうした? ぐふっ…お前…うんぐ」


俺はケビンの口を押えて手持ちのナイフで腹を刺した。


「俺はあんた達夫婦に憧れていたんだ!それが命欲しさにカルミーさんを犠牲にして情けないですよ…そんなに怖かったんですか!」


「うぐっうぐっ」


首を縦に振った。


「そうですか?自分の大切な妻を、罵倒して落としてまでも、命が欲しかったんですね!まぁ良いや、あんたとは楽しかった思い出もある。このまま楽に殺してあげるよ…それじゃあな」


俺はそのままナイフを横にひいた。


内臓がはみ出して飛び出す。


「うんぐっううん」


「苦しいんだな、介錯してやるよ…」


一旦ケビンから手を離し、剣を抜いてケビンの首を斬り落とした。


顔見知りを殺すのは相手がクズでも少し堪えるな。


地獄を見せてやる!


そう思っていたが、いざとなると情けが出てしまった。


こんなクズでも、過去に俺に良くしてくれた数少ない人だ。


殺さない選択は無かった…だが殺す瞬間に優しかった兄のような笑顔が一瞬浮かんだ!だから楽に殺してしまった。


俺も、甘いな…


だが、此処からは『なんの借りも無い只の敵だ』


こんな嫌な思いをする事は無いだろう。


そのまま朝まで待って一旦村を離れた…


「おはようございます!おやお出かけですか? そう言えば村長さんの家はどうでしたか?」


「それが、顔見知りの冒険者に会ったのでそちらに泊めてもらいました」


「そうですか」


「はい…それじゃ行ってきます」


◆◆◆


俺が向かlったのはオークの巣。


俺はケビンの死体を解体した物を収納袋に入れている。


され、行くか…


俺はオークの巣に突っ込んでいく…


俺の実力ならこんな巣、簡単に全滅させる事が出来る。


だが、今回は違う。


なるべく傷をつけない様に怒らせなければならない。


そのままオークの巣に入り暴れる…流石に1頭も殺さずには無理だ。


だが、最低限の殺しで押さえながら巣の中を進んでいく…王に会うのが目標だ。


「ぐわぁぁぁぁーーーっ」


「臭ええええーーんだよ、豚野郎がーーっ」


そのまま進むと扉が見えてきた…開けると苗床だった。


「た、た…助けて…」


「此処から出して…」


僅かに残っている服から、恐らく村人に間違いない…


「楽にしてあげるよ…」


俺は剣で首筋を切り…2人を楽にしてやった。


あの村の女だ、元から助ける気はない。


どうせ、此処から逃がして村に戻っても毒で死ぬし、その後生きても碌な事は無い、これは施しだ。


これで良い筈だ…


それにこれはオークを怒らせるのに必要な事だ。


苗床の女を殺されたオークが更に怒っている気がする…


だが、まだだ…怒りが足りない。


更に奥に進むと…居た…まるで小さな山の様な大きさのオーク。


オークキングだ。


そのまま…俺はオークキングを切りつけ…腕を切り落とした。


「うがぁぁぁーーーーっ」


完全に怒っている…これで良い。


怒れ、怒れ、怒れーーーっ


俺はそのまま踵を返すと巣の外に向かった。


◆◆◆


怒ったオークの集団が追いかけてきた。


これで良い。


もしかしたら、オークキングから『必ず殺せ』その様な命令が出されたのかも知れない。


巣からかなり離れたと言うのに追ってきている。


よく見ると後方にはオークキングも居た…


苗床の女を殺されキングの片腕を奪った。


我を忘れて襲って来るのも当たり前だな…


俺はそのまま村まで走った。


門番は…居ない。


だが、門は閉まっている。


この大きな門が壊れればオークが入り放題だ。


「ファイヤーソード」


「ファイヤーソード」


俺の技2の撃で門は瓦解した。


そしてそのまま俺は突っ込む様に村に入った。


村の大通りには人が居ない。


恐らく体調を壊して家に引っ込んでいるのかも知れない。


俺のしたいのは復讐だ。


片端からドアを壊していく。


そして俺はケビンの肉を家の中に放り込んでいった。


目指すはあそこだ…あの大きな家、村長の家だ。


ドアを蹴破った…


「リヒト様…」


顔色が青い。


毒が聞いているようだ。


「今、この村にオークが襲い掛かってきています」


「そんな…今朝から皆、体の調子が悪くなり…動けない者も多く…居るのです」


「そうか?それで一つ聞く!少し前にこの村で、女の冒険者を凌辱していた。そういう話しがあるのだが、それは本当の事か?」


「うぐわぁぁぁぁーー」


オークはそこ迄来ている。


「どうやら、そこ迄オークが来ているようだな、素直に言わないならこのまま放置していく!そしたらお前だけじゃなく家族が全員死ぬんじゃないか?」


「した…確かにした…だが、それは盗賊に言われて仕方がなかったんだ…」


「助けに来てくれた相手を裏切ったあげく襲い暴行したんだな!」


「ああっ…話したぞ、助けてくれ…」


「そうか…」


どうやら、大型のオークが先頭で襲ってきたらしくこの家に入れずにいる。


村長を素通りして奥の部屋に向かった。


「何事ですか?リヒト様」


「…リヒト様」


母子が居た。


玄関を見た時から家族が居ると気が付いていた。


「今、この村は多くのオークに襲われている、だから来てくれ」


「「はい」」


俺は母子の手を取り走り出した。


「貴方…」


「お父さん…」


「リヒト様…何を」


「こうするんだよーーーっ」


子供をオークの方に放り投げた。



「いやぁぁぁぁーーーっ」


「何故だぁぁぁぁーーっ」


「お前達が手を出した女冒険者はな!俺にとって大切な人だったんだ…同じ思いをさせてやる…それだけだ…それじゃ」


俺は母親の手をとり、放り投げようと思った瞬間、入り口は壊されオークが入ってきた。


このままで良いや。


「た、助けて…頼む…」


「いやぁぁぁぁーーー」


「お前等は盗賊じゃなさそうだな!だが見捨てた。お前がその気になったら逃がしてあげることは出来た筈だ。だがしなかった!だから俺は逃がす手伝いはしない。それじゃ頑張れよ…」


「「「ぐわぁぁぁぁぁーーー」」」


「「ああっああああーーーーっ」」


オークに押さえつけられ殺される村長と担がれていく、その妻や子供を黙って俺は見つめていた。













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