第25話 考察

治療は終わっている。


もうこれで死ぬ事はない。


だが、これ以上治す事は俺にも出来ない。


切断された足や手の再生は魔法があるこの世界でも困難だ。


『パーフェクトヒール』という究極呪文があるが…あれは聖女の中でも才能がある物が、魔王との戦い迄に覚えられたら良い方で、聖女でも覚える事は困難だ。


今の聖女、ミルカじゃきっと取得できないだろう。


それは、これ以上カルミーさんの治療は出来ないという事だ。


俺はこれでもポーションさえ使えば並みのヒーラー並みの事は出来る。


そう自負している。


だから教会に行っても無駄だ。


なんでこんな事になったんだよ…


今日はカルミーさんを食事か酒に誘って昔ばなしでもするつもりだったのに…


それがこれか。


こんな姿のカルミーさんは人に見せたくないから布をかぶせて歩いている。


だが、異臭がするからか、注目が集まる。


腹が立つから殺気を放ちながら歩いた。


S級だからこの位は出来る。


周りの人間は…何も話さず、静かに道を開けていく。


◆◆◆


「ルミナスさん、事情は後で話すからお風呂借りるね」


「リヒトくん、今日は遅くなるんじゃなかったの…うっそれってカルミー…」


「ああっ、詳しい事は後で話すから、取り敢えず、お風呂借りるね」


「そうね…私も手伝った方が良いよね…」


「取り敢えずは大丈夫、俺なりに頑張ってみて、その後で手を貸してくれるかな?」


「解ったわ」


聞きたい事は沢山ある筈だ。


いきなりボロボロのカルミーさんを背負って来たんだからな…


それなのに、それを押さえてくれるルミナスさんはやっぱり大人の良い女だ…


勇者パーティならきっと根掘り葉掘り聞いてくる。


◆◆◆


カルミーさんを置いて、まずは俺が頭から体まで洗った。


カルミーさんを背負ってきたから俺にもついた可能性がある。


見た感じはついていないように見える。


一通り薬品を混ぜたもので体を洗った。


虫の死骸がお湯を浴びると出てきたから…やはり集られていたんだな。


カルミーさんは…


髪はシラミだらけだった。


なんで、こんなになっているんだ…可笑しい…


確かに冒険者や傭兵なら何日も風呂に入らない日もあるがカルミーさんは割と清潔好きだった気がする。


勇者パーティで雑用ばかりやらされていて良かった。


勇者パーティは山も歩くから、この手の物も用意している。


シラミ取りの粉を振りかけた。


体も…よく見ると凄い…体のいたるところにダニやら、他の寄生虫が…気持ち悪い位寄生している…耳の裏に脇の下から股間、お尻の間まで…これには寄生虫専用の軟膏を塗って置く。


どちらも10分置いてからお湯を流すと綺麗に落ちていくはずだ。


流して見て解ったが…両手一杯以上の寄生虫が寄生していた。


『こんな状態じゃ痒くて仕方なかっただろうに』


まぁこれで虫は大丈夫だ。


カルミーさんは俺の治療が痛かったのか、疲れたのかまだ眠ったままだ。


体の汚れを石鹸で落としてみたが、なかなか落ちない。


湯舟に浸からせてみると…お湯が一瞬で泥水の様に濁り異臭を放ち始めた。


宿屋用の大き目の湯舟でこれなのか…だが、そのおかげで体におこびりついた白い粉や黄色い粉などはある程度落ちた。


『これは決して不純な事ではない 介護だ』


そう言い聞かせ、股間の穴や肛門に指を入れ掻きだした。


『ううっ』


男なら良く嗅いだ事がある栗の花の臭い…それを更に腐らせた様な臭いがする黄色い液が大量に湯舟の中にカルミーの体から出てきた。


どれ位洗い流したか解らない。


ハーブ水から何から使ってようやくある程度の臭いは消えたし目視した感じ寄生虫もいないし、汚くも見えない。


ただ、臭いだけはこの程度じゃ完全に消せてないようだ。


体を簡単に拭きあげて、ルミナスさんから服を借りて着せるのを手伝って貰った。


安心したのか疲れ切っているのかカルミーさんは死んだ様に起きない。


再び俺はカルミーさんを背負い…部屋まで運びベッドへ寝かせた。



◆◆◆

ルミナスさんにお茶を入れて貰い飲み始めた。


カルミーさんはベッドで寝ている。


「話を聞いても良いかしら」


「ああっ」


何だか凄く疲れた気がする。


「何があったの?」


真剣な顔でルミナスさんが聞いてくる…


「詳しい事は俺にも解らない、前に話した通り、冒険者ギルドにカルミーさんの居場所を調べて貰い…その場所に行ってみたら、死にかけのカルミーさんが居て…治療をして連れてきた、簡単に言うとそんな感じだよ…」


「そう…だけどあの状態、リヒトくんなら何があったのか解るよね」


「解るよ…体のあちこちから、臭うあの臭い…体にこびりついていた液に股から流れ出した物…恐らくはオークの苗床として生活していたのだと思う…」


「そうよね」


「ただ、それだけじゃないと思う…それが解らない」


余りに可笑しすぎる。


オークは繁殖の為に人間の女を苗床として使う。


確かに女としては悲惨だが、繁殖の為の道具だから『壊れない様に』使う。


だから、片手片足を千切る様な事をしない。


それに体全体にある痣は…小さい。


オークみたいな大きな生物でなく、人間位の大きさの生物によって付けられた様に思える。


「苗床」にされる以前にきっと何かあった筈だ。


「どう言う事?」


「カルミーさんは『苗床』にされる前に恐らく何かのトラブルに巻き込まれたんだと思います」


これ以上は解らない。


詳しい事は…当人に聞いてみるしかないな。







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