第24話 カルミー無残
「うふふっ、楽しんできてね…今日は遅くなっても良いし、泊まって来ても良いからね」
「ちゃんと帰ってくるから…お酒位は飲んでくるかも知れないけどね…」
意味深な顔のルミナスさんに見送られながら俺はカルミーさんの元へ向かった。
反対されるかも知れない…そう思っていたのに拍子抜け。
ルミナスさんには許可を得たからこれで堂々と訪問出来る。
しかし…なんで、こんな場所にカルミーさんが住んでいるのか解らない。
夫婦揃ってCランク冒険者だったし、かなり金銭的には余裕のある生活をしていた筈だし…あの頃は良く、奢って貰った。
此処は完全にスラムだし…しかも進むにつれどんどん環境が酷くなる。
『ドブ臭い』
卵の腐った様な臭いと異臭。
そこら辺にあるゲロやおしっこの後…
酒瓶を持って横たわる親父に痩せたガリガリの子供…
間違いない…此処がスラムの最底辺だ。
俺は冒険者として顔が売れている、だからこそ誰も襲ってこないが…
こんな危ない場所…女性が1人で住める場所じゃない。
可笑しいな…この辺りに住んでいる筈なのに家が見当たらない。
しいて、言えば…前世でいうブルーシートハウスみたいな物が幾つかあるだけだ。
異世界なので、更に劣悪な物だ。
「この辺りにカルミーという女性は住んでいませんか?」
「「「…」」」
此処はスラムだ、無料じゃ動かない。
「この辺りに住んでいる女の情報が欲しい、何処にいるか教えてくれないか、教えてくれたら銅貨1枚やる…」
「僕知っているよ」
「私、知っている」
「どけーーーーっ! それは俺のだーーっ そこのテントに頭の可かしいゴミ豚女ならいるぜ…死んでいるかもしれないけどな…ほら約束だ…その銅貨寄越せーーっ」
俺は銅貨1枚放って…そのテントに近づいた。
『うぷっ』
吐き気がする程の異臭。
男なら良く嗅いだことのある栗の花の様な臭い。
だが、それとは比べられない程…臭い…
それだけじゃない、死んだ魚が腐った様な臭いまでしてきた。
「うぷっうげぇぇぇぇえぇーー」
我慢できずに吐いた…人が住んで良い環境じゃない。
奥にボロキレの様な布があり…ハエがたかっている。
そればかりじゃない…近くにある…皹の入った器には…蛆とハエの死骸が沢山ある…
まさか…死んでいるのか?
俺はボロキレを勢いよく捲った。
『死んでいる』
嘘だろう…栗の花の臭いに、吐き気を覚える魚の腐ったような臭いは彼女からしていた。
これをスラムの人間がやったのか…
殺してやる…皆殺しにしてやる…
「助けて…」
「…生きているのか?」
「死にたくない…」
かすかだが声が聞こえる。
「生きている…」
よく見ると片手でハエを払っていた…
だが、駄目だ…もう死にかけだ…
右足が膝から無い。
左手も肘から先が無い
目も左目が…嘘だろう…眼球が潰れている。
これだけじゃない…嘘だよな性器から腐った様な臭いがしてくる。
教会に連れて行く間に死んでしまう。
『やるしかない』
俺は上級ポーションを収納袋から取り出し…口移しで流し込んだ。
口からも腐った栗の花の様な匂いがし…口づけした瞬間に吐き気がもようしてくる…
「うぷっ…」
頼むから飲んでくれ…頼む…
「うぐっうぐっ…」
彼女の生きようとする本能からか、どうにか飲んでくれた。
『彼奴らが死にかけたら』そう思って救急処置や治療の勉強をしてきた。
聖女が倒れた時の為に勉強はしてきたんだ…
『だが、やった事はない』
何処から手を付ければ良い?
見落としが無い様に頭から掛った方が良い。
頭は虫がたかっているが、大丈夫そうだ…目か…
俺は小型ナイフを取り出し…潰れた眼球を取り出そうとした…
手を少し動かすだけだ。
凄い痛みなのに…体を震わせ弱い力で手を動かすしかしない…
『カルミーさんゴメン』
俺じゃ綺麗には治せない…
吐き気を押さえながら、潰れて固まっている目をポーションをかけながら取りだした。
顔にも大きな怪我はあるが、これは後回しだ…大丈夫だ。
体は痣だらけだが、大きな怪我は性器位しかない。
「ウォーターボール」
水で汚物を洗い流しながら掻きだした。
前からも後ろからもドロッと気持ち悪いねばねばした液体が出てくる...これは人間の物じゃない...まさかオークか...手を止めたら終わりだ。
手を止めず…掻きだし…上級ポーションを振りかけた。
後は手足だな…
左手は…傷が完全に壊死している切断されたんじゃない引きちぎられたのか…酷い。
虫迄湧いている。
右足もか…
『ゴメン…』
俺は傷口から上から再度切断した。
「ううっ…うう」
恐らく、凄い痛みが走っている筈だが最早抵抗する気力もないんだろう。
「ファイヤーナイフ」
「うぐっ…」
傷口を炎を纏ったナイフで焼き、上級ポーションを振りかけた。
これで良い…後は包帯を巻きつけた。
「カルミーさん、何があっか知らないけど行こう…此処はカルミーさんの居る場所じゃないから…」
俺はカルミーさんをおぶって出た。
外には沢山のスラムの人間がいたが…
「お前らがこれをやったんじゃねーよな!」
「しし知らねー…その女はその状態でここに流れ着いてきたんだ」
さっきのジジイだけじゃなく…近くの子供も首を振っているから嘘じゃないのだろう…
「なら良い…」
助けなかった此奴らに腹も立ったが…此処はスラムだ。
自分が生きるのが精いっぱいの場所でそれを求めるのは酷だ。
俺は、その場を黙って後にした。
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