第14話 夜這いの作法

もう日が暮れようとしている。


今日は恥ずかしさから、朝食を食べると宿を後にした。


ルミナスさんの目が真面に見られなかった。


それはルミナスさんも同じで、目が合うと逸らされ…気まずかった。


夜這いの作法を頭のなかで復習した。


法律ではないが、マナーは絶対に守らないといけないルールらしい。


「良いか、リヒトさん!ちゃんと作法は守るんだぞ...守らないと大変な事になるからな…そして本当にやるなら女に絶対に恥をかかせるなよ!」


そう説明を受けた後に釘を刺された。


昔、夜這いと風習が出来始めた頃…若い男の中でいざとなった時に、大人の女性の裸を見て、体型や容姿を罵倒する様な人間が居たそうだ。


その為『女性に恥をかかせない』『傷つけない』それが明確化されたのだそうだ。


夜這いにルールがあるなんて知らなかったな。


1. 相手が24歳以上か未亡人である事

2. プレゼントを持参し相手の布団の横に正座して座り女性が起きるまで待つこと

3. プレゼントを渡し、女を驚かせない為、女から話しかけてくるまで自分から話し掛けない事

4. 受け入れてくれた女性には絶対に恥をかかせない事

5. 受け入れられなければ、罵倒などせず速やかに立ち去る事

6. 関係を断られたら、きっぱりと諦める事


概ねこんな感じだ。


4~6は俺は絶対にない。


1はルミナスさんはクリアしている筈だ。


だから2.3の手順をしっかりと間違いない様にしない様に気を付ける…それだけだ。


夜這いと言うが俺が考えていた様な物とは随分違い、かなりソフトなものだ。


見知らぬ男が枕元に立っていたら怖いだろうが、そこは小さな街社会…知らない人は殆どいないご近所さん同士…全く知らない奴が夜這いに来るわけない…ルールさえしっかりして守るなら…さほど問題にならないのかも知れないな。



だが…この風習その物が昔の風習で今は…夜這いその物が殆ど無いそうだ。


『女性が少なく男性が多かった』そう言う時代の風習で、今は女性が多く男性が減ったせいか…行われた話は余り聞いていない…そう説明してくれた冒険者は言っていた。


この夜這いだが冒険者の話では6割近く成功するらしい。


女性が大人で『相手に恵まれない少年への哀れみから拒むことはない』そう言っていた。


ちなみに、ルールを破り無理やり等したのがバレたら街から追い出されるのだとか…


そう考えたら、この世界の夜這いと言うのはちゃんとルールに則った恋愛の手段と言えるのかも知れない。


※このルールは本当にあったとされる昔の夜這いのルールを参考にしています、但し誠実な方を採用して、多少アレンジはしています。


◆◆◆


早目に湯に浸かり体を清めた。


プレゼントも奮発して買ったし、ついでに花束も用意した。


下着は勿論、新品だ。


夜になるまでの時間がなんでこんなに長いんだ。


ルミナスさんに顔を合わせづらいから…部屋に籠った。


心臓の鼓動が…ドキドキと大きな音をあげている。


前世ではそれなりに女性経験はある…だが、体が若返ったせいか、緊張で手が震えてきた。


『これから、あのルミナスさんを抱くんだ』


そう思うと…下半身も元気になった。


現金な物だ…カイトに行為を見せつけられても元気になんてなった事は無い。


心は38歳のおじさんでも体は15歳…そして新品の体。


体に引っ張られるのか…少し精神も若返った気がする。


そして、夜になった。


昔でいう22時位だ、この世界の朝は早いからこの位にはもう皆寝ている。


宿屋も完全に明かりを落としていて、ルミナスさんの部屋の明かりも消えていた。


俺はゆっくりと静かにドアノブをまわした。


カギが掛っていない。


当たり前だ…今日のこの時を指定したのはルミナスさん、なんだから…


やはり体に引っ張られる…前世の38年間の経験なんて意味が無いのかも知れない。


心臓の鼓動が大きくなり、ドキドキが止まらない。


やはり大人の女性は違う…お香でも炊いていたのか良い香りがするし…それに交じり女性の良い香りもする。


幼馴染の子供女とは全然違う…香りだ。


目を凝らして先のベッドにルミナスさんが眠っていた。


「…」


本当は解らないが、寝ている様子なので、ベッドの横、床に正座をして座った。


起こさないで起きるまで待つのが男の誠意だ。


例え足が痺れようが起こさずに待たなくちゃいけない。


起きなければ何時間も正座を続けなくてはならないから結構大変なルールだ。


女の所に無理やり押しかけるのだから、恐らく、この正座で誠意を現すのかも知れない。


この世界の街や村では男女の数が釣り合わない事が多い。


カイトが勇者にならなければ俺達は男が2人に女が3人だから、実際に女が1人余る。


この場合は別に困らない、あぶれた1人が他の村へでも嫁げば話は終わる。


大変なのは男の方が多い場合だ。


俺は親無しだから関係ないが、男の場合は基本村から出て行かない事が多い。


農民なら畑を耕して生活、つまり土地持ちだから跡継ぎと嫁が必要になる。


商売人でも村で商売しているなら跡継ぎが必要になるし、俺の故郷の村は裕福だから次男、三男であっても畑を分けて貰える。


『男が余った時にどうにかしないと』


そこから、旦那を亡くした未亡人とかと婚姻をさせたらどうか?


という考えから出来たのかも知れない。


更に時代が進み、未亡人だけじゃなく、子供を作り妻としての役目を終えた女性も含むようになった。


この世界は20歳じゃもう年増扱いだからこその制度かも知れない。


最も、この制度は多少の違いはあるが、あちこちにあるそうだ。


ただ、行う人間は今は相当少なく余り居ないらしい。


俺からしたら勿体ない話だが、この世界では24歳はもう完全におばさん。


こんな制度があっても男の方がやや少ない為、殆どの若者は使わない。


確かに、カイトを見ていたら10代半ばの少年だと、この世界だと好んで年上を選ぶ者は余り居ない様に思える。


※この世界の人族の寿命は50年位、見栄えは別ですが現代の日本だと18歳の少年が40~50歳の女性を相手にするのに意味合いは近い感じに作者は考えています。


確かにそう考えれば、いざ事に及んで、女性を罵倒する者がいたのかも知れない。


だから罵倒しない等の約束ごとが出来たのかも知れないな。


今では、夜這いする位なら、多くの人が若い奴隷を奴隷商から買う、そういう選択をするそうだ。


その為、制度として残ってはいるが以上の理由から、行う人間は近年では、ほぼいないらしい。


確かに人がお金で買える世界なんだから…そうするよな。


まぁ冒険者から買った情報だ…


◆◆◆


起きるまで正座。


これを我慢するのは案外辛い物がある。


ルミナスさんはさっきから寝息を立てて寝ている。


多分、本当は起きている筈だ。


今夜を指定したのはルミナスさんだ…だからこれは試されているんだと思う…


しかし、ルミナスさんの恰好は…エロい。


黒いパンティに…異世界だからかブラをしていない。


そしてやや透けたベビードルみたいな物を着ている。


寝返りをうつたびに、形の良い大きな胸が見えるし、ムチムチした太腿や大きなお尻も見えて凄くそそられる物がある。


手を出しちゃいけない…それがルールだ。


『ううっ痛っ』


足が痺れて我慢が効かなくなってきた。


駄目だ、我慢だ。


『ハァハァ、足が痺れて痛いな』


そう思っていたら、ルミナスさんと目があった。


「リヒトくん、本当に来たんだ…おばさん本当に来るなんて思わなかったわ…意地悪してごめん…」


好きになって良かった。


本当にそう思った。


来ないかも知れない…そう思っていたのかも知れないが…


来た場合の事を考えてくれていた…それが嬉しい。


ルミナスさんの顔は薄っすらとメイクされていて、下着も真新しい物なのが一目で解かる。


『歓迎されている』


それが凄く嬉しい。


「ルミナスさん…凄く綺麗だ…」


「全く…ちゃんと夜這いの正式ルール迄調べて、本当に困ったわ…もうおばさんこれじゃもう、断れないじゃない?」


優しい嘘だ。


夜這いを受けてくれるかどうか『女性に権限』がある。


拒まれたら俺は黙って帰るしかない。


「ルミナスさん…これプレゼントです…結構悩んで買ったんです…受け取って下さい」


「私、本当に困ったのよ? この年齢で若いリヒトくんの前で肌を晒すの今でも凄く抵抗があるのよ…わたしおばさんだし、多分、リヒトくんのお母さんが生きていたら同じ位の齢なのよ…それが成人したばかりの15歳の若い男の子を迎え入れなくちゃいけないなんて…どうして良いか解らなくなって…不安で仕方がないの…ガッカリさせたらどうしよう…そんな子の初めての相手が私みたいなおばさんだなんて…正直いまでも申し訳ないわ」


「ごめんなさい…」


「謝る必要はないわ、リヒトくんは悪くない…だけどね…もしかしたらリヒトくんは年上の女だから、何か期待があるのかも知れないけど…私...結婚していた時も、すぐに夫婦仲が冷え込んだから…経験も実は少ないのよ…リヒトくん…なんで私なのかな?」


「それは、俺が今までみた中で一番ルミナスさんが綺麗だからです…外見だけじゃなく性格やしぐさ、その全てが好きだからです」



「そう?! 嬉しいわ…もうこれ以上は言わないわ…だけど、最後に確認させて…本当に私が良いのね!私じゃないと駄目なのね…」


「俺はルミナスさんが良い…ルミナスさんじゃないと駄目です」


「本当に仕方のない子ね…もうしょうがないわ、ほら…こっちに来なさい」


ルミナスさんが毛布をどかして手招きしてくれた。


我慢が限界に来ていた、俺はルミナスさんを抱きしめた。


「あのね…リヒトくん…私本当に久しぶりだから…そのね優しくしてね」


ルミナスさんが愛おしく思え…俺は強くルミナスさんを抱きしめた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る