第27話 フレンチキス 【修正】
カルミーさんの泣き声が聞こえてくる。
今は何を言っても慰められない気がする。
カルミーさんだってきっと俺に傍に居て欲しいとは思わない筈だ。
それより今はどうするかだ…
俺はカルミーさんの力になりたい。
だが、俺は妻帯者でもあるんだ。
ルミナスさんの意見を聞かない事には…結論は出せない。
俺がカルミーさんの傍に居ると言う事はルミナスさんも傍に居る。
そういう事だからだ。
◆◆◆
ルミナスさんは当事者だから、そう思いカルミーさんの事を話した。
「そうね…オークの話は私にも想像はついたけど…その前があったのね…」
「はい…それで」
「それで私に相談? 私の事は気にする必要はないわよ」
「あのルミナスさん?」
「だから、気にしないでよいわ…助けたいんでしょう?」
「確かにそうだけど…」
「あのね…リヒトくん!『私のリヒトくんは傷ついた女を助けない訳無いじゃない?』だから私に相談は要らないわ、リヒトくんがカルミーを救わない訳ない…だからリヒトくんの好きにして良いわ。私はそんなリヒトくんに付いていくだけだから」
「ルミナスさん、ありがとう」
「リヒトくんは『英雄』だもん、カルミーを救わないリヒトくんなんて私が見たくないから…それに言ったでしょう? カルミーは私にとって数少ない友達だから、私だって助けてあげたいわ…頑張ってね!リヒトくん」
「頑張るよ」
とは言うもののどうして良いか解らない。
前世の38年…多分、そんなに俺はモテていた記憶が無い。
◆◆◆
「ほうら、頑張って…行ってらっしゃい」
夕飯は本来は外食の日だったが、カルミーさんが居るので、俺が作る事にした。
用意したのはスープにパン。
それとちょっとしたデザート。
多分、体調の事を考えたらこの位の方が良い。
今回もルミナスさんはついてきてくれない。
黙っている俺をルミナスさんが背中を叩いて送り出してくれた。
「頑張ってね」
「はい」
俺は今…本当の意味での冒険をする。
◆◆◆
「カルミーさん、夕飯を持ってきました」
今迄泣いていたのか目が腫れている。
いつも元気で活発に見えるカルミーさんだからこそ、凄く痛々しい。
「悪いな、リヒト、凄く迷惑かけて…」
「気にしないで下さい、昔剣や冒険者の心得を教えてくれたじゃないですか!」
「あれは冒険者としてだな、お金を貰って受けた事だ、あの場で清算はは終わっているから関係ないだろう?」
「ですが、勇者パーティから孤立している俺を気にかけてくれて飯や酒を奢ってくれましたよね」
「良い歳したおばさんが若い子と飲むのに金を出させる訳いかないだろう…それだけだ」
「そうかも知れませんが、それで救われたのは事実です」
「たかが酒飲んで飯くっただけじゃない」
「あの頃、もう既に勇者パーティの他のメンバーと上手くいって無かったですから…」
相手は俺から見たら子供だし、三人の幼馴染は別に好みではない。
それでも、あからさまな態度をとられれば傷もつく。
例えば、遠足で偶々一緒になった5人組の班であって、そんなに仲が深い相手じゃなくても差別されれば辛い。
その状態だ。
あの頃はまだ『レベリング』とか心で完全には割り切ってなかった。
姪っ子甥っ子に嫌われた状態が近いかも知れない。
案外、それなりには心が傷つく。
「まぁ、確かに寂しそうだから、気にかけていたのは事実だけど? それがどうかしたの?」
さてどうやって切り出そうかな…
「まぁ冷めちゃうといけないから、まずは食事をしちゃいましょう? 話はそれからで良いから…食べれます?」
「そうか…悪いな、利き腕の右手はちゃんと残っている、大丈夫だよ…ほらな」
「そうですね…ゆっくりで良いですからね」
「本当に何からなにまで…うっすまない…リヒトは食べないのか?」
「俺は後で食べるから大丈夫です」
食事の介助をするつもりだったけど、ちゃんと食べられるみたいだ。
これなら、食事が終わるまで待つだけで良い…
◆◆◆
「美味しかったありがとう…久々に美味しい物を食べたよ…ありがとう」
「どう致しまして…」
何から話そうか?
ルミナスさんは俺に任せる。
そう言っていたし、この事態になる前に婚姻相手にカルミーさんを勧めていた。
どうしたら良いんだ。
「リヒト…ルミナスが此処に居ないと言う事は、さっきの話の続き、そういう事なんじゃないか?」
「はい」
「なんだか、悪いな…それで…私はこれからどうすれば良い? 早めに出て行った方が良いよな? さっきはああ話したけど、私なんか要らないよな? 私はおばさんだから、そう言った需要は無いだろう…それに手足がこれじゃ戦闘奴隷にもならないよ…折角助けて貰ったけど…なんの価値もないよ…ごめんね…なるべく早く出ていくからね…お金は、うん何かして稼いで払うよ」
このまま、此処を出て言ったらカルミーさんは『死ぬ』そんな気がしてならなかった。
死に掛けのカルミーさんは…
『助けて…』『死にたくない…』
そう言っていた時のカルミーさんの目には光があった。
だが、今のカルミーさんにはその光が無い。
恐らく…此処から出て行ったら『死んでしまう』そう思えてならなかった。
「お金は払う必要は無いよ」
「あははっ、そうだね私に払えない、解りきった事だね…ごめんね、すぐに出て行くから…」
「出て行かせません」
「どう言う事?」
「カルミーさんの所有権は俺にあるんですよね? それならこのまま暮らして下さい」
「それ…同情だろう? 絶対に後悔するから…やめた方が良いよ」
「確かに同情もありますが…折角美人な…え~とお姉さんが手に入るのにみすみす捨てるのは勿体ないじゃないですか?」
「いやいや…お姉さんって私とじゃ母子位の差があるでしょう? なに考えているか解らないけど、私おばさんだよ…それに手足は1本ずつ無いし…体だってあんな事があったから崩れているし…」
そうか…
流石に当人には言えないがエロイ。
ルミナスさんが清楚な奥さんという感じなら…野性味のある明らかにエロイ奥さん…そんな感じに見える。
あんなひどい目にあったカルミーさんには絶対に言えないけど…
「まず、年齢の事は無し…俺の妻はルミナスさんですから…きっと子供の頃に母親を失ったせいか、年上が好きなんだと思います」
「えっ、ルミナスの宿を借りているんじゃなくてリヒト…あんたルミナスと結婚しているの?」
「はい…だから年齢は気になりません」
「ふぅ~そう…だけど、私は胸だって大きいし、お尻だってまるでオークみたいに大きいわ…ほら気持ち悪いでしょう」
確かにこの世界は小柄で小さいのが好まれているみたいだけど…
俺には関係ないな。
巨乳で巨尻、太腿がむちっとしていて、2.5次元のややヤンキー掛ったヒロインのお母さんみたいでドストライク。
是非ヒョウ柄のTバックの下着を身につけて欲しい。
どう言った方が良いのか解らない。
酷い目にあったカルミーさんの気持ちを考え…オブラートに包むか。
それとも、女として自信を失ったカルミーさんに自信をとり戻させる為に言うべきなのか…
解らない。
どっちの心に寄り添うべきなのか解らない。
「あの…昔から俺は、その大きい胸とかお尻とか、太腿が綺麗だ…そう思っていました…ごめんなさい…」
あれ…間違えたのか…
急にカルミーさんの目から光が無くなった気がした。
「リヒトは優しいね…こんな醜い肉の塊が綺麗な訳ない…あはははっ沢山の男に言われたよ…オークみたいだって、ババアは気持ち悪いって…んなわけあるか? 綺麗だ! 美人だ…違う、私は醜いババアなんだよ、体はオークみたいに醜くて本当は誰も抱きたくない…ゴミなんだ、だれも抱きたいなんて思わない醜いババアだ!裸で転がっていても、暴力は振るっても女とは見えないゴミなんだよ。旦那ですら馬鹿にする位醜い、ケビンだって目を瞑って他の女を考えながら抱くゴミ女…なんだよ…同情は良いよ…リヒトが言い奴なのは解る…だけど、やめて、本当にやめてくれよ…『ゴミを褒めるのは優しさじゃない、もっと惨めになるんだ』…酷いよ…残酷だよ…そんな嘘…罵られるより辛いよ…」
「そんな事は…」
「あるよ…私は最悪の女だ! 元から誰も抱きたくない位醜くてキモイのに…沢山の男にううっううっおもちゃにされて、おもちゃや家畜の様に扱われて、裸で放置されていた状態でも暴力だけを延々振るわれ『誰もが抱く価値も無い』そう言っていたよ?『金を貰えても気持ち悪くて抱くのもゴメンなんだってさぁ』便所の横に放置されていても犯される事も無かった…ご飯は豚のエサ以下だった…それに…話したでしょう…沢山の男から、最後は浮浪者の様な奴からも抱くどころか見るのも嫌だと言われていたんだよ?ただ殴られたり蹴られていただけの存在…性欲じゃ無く暴力の捌け口にしかならない、それが私なんだ…最後には、それすら使いたくなくなって…オークのゴミのように巣穴に捨てられて…オークに抱かれて苗床になっていたんだ…私が抱きたいなんてオークやゴブリンしか居ない!私が綺麗で美人なら絶対にこうはならない…なるわけ無いだろうーーーーっ、うわぁぁぁぁーーんグスッ…お世辞やめろよな…やめてくれよ…惨めだよ…気を使われれば使われる程、惨めになるんだよぉぉぉぉーーーーー」
「それでも俺はカルミーさんは綺麗だと思うし素敵だと思う」
「嘘ばっかり!もう良いんだ嘘は…私はゴミ…うぐっ?! ぷはぁなな…」
俺はベッドで暴れていたカルミーさんを押さえつけ濃厚なフレンチキスをした。
「ぷはぁ…落ち着いて…ゴミにキスする奴は居ないよな? 俺がルミナスさん以外でキスしたのはカルミーさんだけだから…」
「…」
「カルミーさんがどう思っているかはもう良いや…俺にカルミーさんの所有権はあるんだよね…なら手放さないから…」
「あっあっ…リヒト…」
「ゴメンね、顔が赤くなって上手く話せないから…あとでまた来る」
「リリリヒト…うわぁぁぁぁぁーーん」
立ち去ろうとしたら袖を掴まれ、俺はただ、その場に立ち尽くす事しか出来なかった。
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