第46話 旅立ち(加筆)

ルミナスさんにお願いしたい事がある。


前々から考えていたんだ…


だけど、この宿を大切にしている、ルミナスさんの事を思うと、なかなか言い出せない。


『この宿を手放しませんか』何回言おうと思って言えなかったか...


だけど、そろそろ言うしか無いか…


ハァ~


この場所に居たら、そのうちカイト達に嗅ぎつけられて見つかる可能性がある。


勿論、すぐにとはならないが…カイト達が探す気になれば一度立ち寄った場所なのだから見つかる可能性は高い。


魔王討伐。


そこには、確実な死が待っている。


絶対に戻りたくない。


悪いが、恐らくあいつ等は魔王に勝てない。


今の段階で俺より僅かに強い位じゃ全然話にならない。


あくまで書物で読んだ話だから信憑性は微妙だが、前やその前の勇者なら今の段階で俺位、簡単に瞬殺できる位の強さは持っていた。


一番、能力を高められる今の時期にサボったつけは必ず来る。


彼奴らは恐らく魔王城に辿りつく事は無い。


恐らく幹部にも勝てずに敗退する。


そうなれば、此処は王国の中でも魔国に近い場所だ。


近い未来、戦場になる可能性は高い。


俺としては、そうなる前に此処を離れたい。


だが、此処はルミナスさんの思い出の場所だ。


前の旦那や沢山の思い出のある場所…それが此処だ。


その大切な宿を手放して欲しいとは俺の口からは言いにくい。


だが、何時までもこのままじゃ不味い。


「あの、ちょっと話を聞いて欲しい」


良く考えた末、俺はカルミーさんにまず相談する事にした。


俺は自分の考えをそのままカルミーさんに伝えた。


「成程ね、それがリヒトの悩みか?最近浮かない顔をしていたのはそれなんだね! それで傍に居たリヒトから見て勇者パーティが魔王に勝てる確率はどの位だと思う?」


正直勝てるとは思えない。


もし、此処から成長しても死ぬ未来しか見えない。


いや、今のままじゃその成長も無い。


「恐らく10パーセントも無い、この10パーセントもこれから成長すればで、成長しなければ、限りなく0に近い」


「それマジか?」


世の中の人間は脳味噌お花畑が多い。


勇者は強い…負けない…そんな風に教会が触れ込んでいるからか、まるで洗脳されたみたいに、そう思っている。


だが、実際に調べればかなり多くの勇者が負けて死んでいた。


その死んだ勇者ですら、あいつ等以上に努力し力もあった。


「間違いない、もし負けたら、此処は魔族領から遠いとは言えない、絶対とは言えないが戦場になる可能性もある…だから可能限り早く此処から逃げたいんだ」


「それは絶対に他言できないね」


「ああっ『勇者が負ける』なんていったら非国民扱いされるからなカルミーさん、ルミナスさん以外には内緒の話だよ」


「そう言う事なら、私からも説得してあげるよ」


「ありがとう」


「どう致しまして…」


こうして俺とカルミーさんでルミナスさんを説得する事にした。


◆◆◆


「水臭いわねリヒトくん、私達夫婦でしょう? なんでカルミーを通すのよ…」


「ええと…」


「話は解ったわ!私達の事を心配してくれているのに私が反対する訳ないじゃない? 確かに想い出はあるけど…もうそれだけの物よ! 将来戦場になったら二束三文になっちゃうから直ぐに手放した方が良いわね…そうね、3日間も有れば売れるわ!此処は立地が良いから欲しがる人も多いしね」


「良いの?」


「ええっ」


これならもっと早くに相談すれば良かった。


宿の場所が良かったのか、すぐに買い手がついたらしい。


本当に3日間掛からず宿は売れてしまった。



必要な物は片端から、俺の収納袋に放り込み…旅支度は簡単に終わった。


「それじゃ行こうか」


「はい」


「うん」


俺達は南へと旅立っていく。


これで一安心、南に進めば...勇者からも魔族からも逃げられる。









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