第22話 ウエディングドレス

「ルミナスさん、これ買ってきたんだけど着てくれないかな」


最近のリヒトくんには本当に驚かせられるわ…


まさか、こんな物まで買ってくるなんて…


「あのリヒトくん…」


思わず声が詰まってしまった。


だってリヒトくんが持っているのはウエディングドレスだから。


「ルミナスさんは人前でこれを着るのが恥ずかしいんでしょう? 俺と二人きりなら恥ずかしくないでしょう?」


「全く、リヒトくんはおばさんに何着させようとするのよ…大体教会婚なんて貴族様か余程裕福じゃないとしないわよ…そんな服勿体ないわよ」


「もう買って来ちゃったから…だけどこれはルミナスさんの為じゃ無くて、この服を着たルミナスさんが見たいから…どちらかと言えば俺の為なんだ…いつも我儘ばかりで悪いけど着てくれないかな? どうしても見たいんだよ」


「仕方ないなリヒトくんは…本当に恥ずかしいんだからね…」


ううん、本当は凄く嬉しい。


最近のリヒトくんは…もうどうして良いか解らない位素敵すぎる。


実際の私はもうおばさんだからこんなドレスは似合わない。


だけど…リヒトくんは似合うと思っている。


最近、リヒトくんの目に私はどう映っているのか気になる。


手を繋ぐと嬉しそうだし腕迄組んでくれる。


私とリヒトくんは母子程の年齢差がある。


血がつながった母子でもこんなに大切にしてくれる人は居ないと思う。


これでも私は真剣に旦那を愛していたつもりだったけど…違ったんじゃないかなとさえ思えてしまう。


毎日の様に女として求められて、愛されて優しくされて…こんなの人生の中で一度もない。


多分、ウエディングドレスなんて、リヒトくん以外に言われても絶対に着ないわね。


「リヒトくんに言われたから来たけど…ほら似合わないでしょう? 私おばさんだから」


「そんな事ないよ…ルミナスさんは凄く綺麗だよ」


「全くもう…そんな事言っても何も出ないんだからね」


ウエディングドレスなんて着なくても…私、リヒトくんの…妻なんだよね。


そう思うと凄く恥ずかしくなる。


齢が倍近く離れている。


そればかり考えていたけど…目の前の男の子、リヒトくんは…


それだけじゃないのよね。


よく考えたら…歳が同じ15歳でも釣り合わないじゃない。


だって目の前のリヒトくんは…この世に10人も居ないS級冒険者。


そして『英雄リヒト』って呼ばれる皆の人気者なんだもん。


「ほうら、これで良いの? 恥ずかしいからもう脱ぐからね」


「駄目、ちょっと待って…私、リヒトは生涯、妻ルミナスさんを愛し笑顔を絶やすことなく幸せにする事を誓います」


「リヒトくん…嘘」


「ルミナスさんはどの様な時も夫リヒトの支えになり愛し続ける事を誓いますか…」


「誓います」


「それでは愛の証として指輪の交換を…ルミナスさん左手を出して」


「はい…」


嘘、これ指輪じゃない…


「それじゃ…ルミナスさんはこの指輪を俺の左手の薬指に嵌めて」


「はい…これで良いのかな」


「うん…あははっ此処からは覚えてないや…生涯、死ぬまで離れないで一緒に暮らしてねルミナスさん…」


「うふふっ、凄く嬉しいわ…だけどね…グスッこんな事しなくても私、リヒトくんを離さないわ…だって…だって凄く愛しているんだから…もうどうしようもない位…」


「そう、凄く嬉しいよ」


照れながら頭を掻くリヒトくんが凄く愛おしい。


こんな愛し方をされたら…もうリヒトくんしか愛せなくなっちゃうよ…


「そういえばリヒトくん、何でもう一個指輪をくれたの?」


「前のが婚約指輪で、今回のは結婚指輪…ルミナスさんにはお揃いの指輪をして…欲しいな…なんて」


「うっ…」


いつも私が思っている以上なんだから…もう、どうして良いか解らないわ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る