第13話 二人に最高の思い出を!開催

 都市アルキナは過去に見ないほど、賑わっていた。


「ご主人様、これはどうなっているんですか?」


「俺にもわからん」


 賑わう民衆、都市アルキナの国民たちから、外から訪れた民衆たちまでこぞって入ってきては祭りを楽しんでいる。


 あいつら、いったい何をしたんだ。


「ボス~~~~~~~~」


 すると、指揮していた張本人が飛び出してきた。


「だ、誰ですかこの人は!?」


「ああ、仲間になった」


「フユナ・ストローグです。かわいらしいメイドさん」


「かわいらしいなんてそんな…………」


 いきなり、初対面に対してのきつい言葉にアルルはなぜか、照れた。


「それで、何をしたんだ?」


「何をしたって、祭りを開く以上、やはり、都市アルキナの人口では足りないと判断し、いろいろと手をまわしたんですよ」


 キリッとやりましたと、親指を立てた。


 いやいや、限られたお金と時間でここまで大きな祭りになるか普通?


 だが、これだけの賑わいだ。きっとかなり努力をしただろう。上のものとしてこれをめないのはナンセンス。


「そうか、よくがんばったな」


「はいっ!!」


 瞳を輝かせながら見つめてくるフユナ。


 アルルとは違うが、なんかとても犬っぽい。


 幻覚なのか、犬耳いぬみみとブンブン横に振るしっぽまで見える。


「これで少しでも罪の償いになれば、俺はうれしいですっ!!」


 その笑顔は純粋でとても元盗賊とは思えなかった。


 そうか、こんだけあいつら頑張っていたのももしかしたら、罪悪感からくる罪の償い意識があったからなのかもな。


 その傍らで、アルルは。


「なにかに、目覚めそうですっ!ふんっ!!」


「何言ってんだ」


 っと頭を叩いた。


「いてっ」


「とにかく、お疲れ、フユナ。しっかりと休めよ」


「はいっ!!」


「それじゃあ、俺たちは二人を出迎えるぞ」


「はいっ!ご主人様っ!!」


□■□


 二人で迎えに来ると外の賑やかさに驚いていた。


「お母さん、なんだろう?」


「私もわからない」


「お二人とも元気そうでなによりです」


「ああ、ラインだぁ!!」


「これは、ラインさん。これはいったい…………」


「お二人の思い出のためにご用意しました。それじゃあ、一緒に外に出ましょう。ミストンさんもずっとベットの上で退屈だったでしょうし」


「え~~~もしかして、ラインが用意したの?」


「企画が俺ですけど、頑張ったのは元バエルの盗賊たちです」


「え…………」


「これは一種の元バエルの盗賊たちの償いもあるのですが、そんなことは気にせず、楽しんでください」


「ありがとうございます、ラインさん。それじゃあ、ノータ。外に出よっか」


「うんっ!!」


「アルル、二人のことは頼んだぞ」


「え、ご主人様は一緒に行かないんですか?」


「俺がいるのは場違いだろ?」


 っとそういうと、ノータが抱き着いてきた。


「な、なんだ?」


「ラインも一緒に行こ?」


 上目遣いで、瞳を輝かせながら、来てほしいっと迫ってくるノータ。


 正直、可愛すぎる。


 まるで、甘える猫のようだ。


「…………」


「照れてます?」


「照れてないわっ!!…………はぁ、わかった、一緒に回ろう」


「うんっ!!」


 こうして、4人で祭りを楽しむことになった。


□■□


 祭りに関して屋台というもの提案し、その詳細すべてを説明し、参考になればいいなと思った。


 だが。


「お母さん、これおいしいよっ!」


「うん、食べたことない味だけど、いったいどんな料理なんだろう?」


 茶色に輝くめんに香るソースの香り、焼きそば。


 この世界に焼きそばがあるのかよっ!っとツッコミたくなる。


「これは焼きそばという食べ物だ」


「聞いたことありませんね」


「まぁ、簡単に言うと特別なソースを麵と絡めて食べる料理だな」


「なるほど、このソースが味の決め手なんですね。覚えておこう」


 この賑わいは下手をすれば、大きな都市の行事の数に匹敵するかもしれない。


 よく見れば、商人から貴族まで様々。


 しかも、この屋台の数、完全に俺の想像を超えたお祭りだ。


「あれか、フユナは指揮官の才能以外にも才能があったのか?そうとしか考えられん」


 じゃなきゃ、この状況の説明がつかない。


「ラインっ!次はあっちいこよっ!!」


「ああ、そうだな」


 まぁ、二人が楽しんでもらえているならいいか。


 ノータに振り回されながら、祭りを楽しんだ。


 気がつけば、日が沈み夜を迎えたころ、ミストンさんの容態が急変する。


「うぅ…………」


「お母さんっ!?」


「ちょっと右手を借りますよ」


 右手に触れ、魔力を流すと、顔色がよくなっていった。


「す、すいません、ラインさん」


「いいんですよ」


 思ったより、容態がよくないな。


 やっぱり急に外に出たことが余計な刺激になったか。


 でも、祭りは終盤だし、ここで投げ出すわけにもいかない。


 すると、突然、都市アルキナに全体に響き渡るほどの声が聞こえてくる。


『もうすぐ、祭りの終盤っ!いよいよ、大本命のあれをお見せする時が来ましたっ!!』


 なんだ?大本命なんて聞いてないぞ。


「大本命ってなんですか、ご主人様?」


「俺が知るわけないだろ」


「え…………」


『それでは、上をご覧くださいっ!!!!!』


 っと祭りに参加した全員が上を見上げた。


 すると、「ひゅ~~~~」っと聞いたことがある音とともに「ばーーーん」っと花咲くような花火が打ちあがった。


「うぅわーーーーーー、きれい」


「これは、花火ね」


「花火?」


「東洋で使われるものだよ、初めて見たわ」


「ご主人様!!花火ですよっ!花火っ!まさか、本物が見れるなんて…………ってご主人様?」


「あ、ああ、そうだな」


 この世界って花火もあるのかよ。知らなかった。


 この世界に転生してまだ1か月も経っていないし、原作でも花火なんて出てきたないし、知らなくて当然だよな、うん。


 自分に言い聞かせ、心を落ち着かせた。


 祭りが終わり、俺たちはかつてノータとミストンさんの家があった場所に向かった。


「楽しんでいただけましたか?」


「はい、本当に最高の思い出でした。本当に、本当にありがとうございます」


 ミストンさんは涙を流しながらお礼を言った。


 これだけ喜んでもらえただけでもやった価値はあった。


 だが、本題はここからだ。


「ミストンさんが一番よくわかっていると思いますが、魔力漏症まりょくろうしょうは現状では治せません。しかし、未来なら可能かもしれません」


「それはどういうことですか?」


「これから数年後、数十年後には魔力漏症を治す手段が見つかるという可能性を信じ、氷の中でミストンさんを冬眠という形、つまり仮死状態で眠らせようと思っているんです」


「んっ!?」


「その意思を確認させてほしいんです。すでにノータには話してあります」


「…………なるほど、よく考えましたね」


 少しの沈黙の後、ミストンさんは口を開いた。


「正直、驚いています。たしかに、仮死状態であれば、病気を遅らせることができます。ただ、維持費はどうするおつもりですか?」


「その点に関しては心配なさらず、俺が責任を持ちます」


「…………本当にラインさんはすごいお方だ。…………その件、受けましょう」


「お母さん!!」


「私もノータが大人になった姿を見たいですし、それにこんな最高の思い出を夢を見させられると、死んでもいいと思っていた自分が死にたくないって思ってしまうんです」


「ありがとうございます。それでは…………」


 あの極寒、0度以下の部屋に入れる前にまず、ミストンさんを仮死状態にしなくてはいけない。


「ノータ、最後にお母さんとしゃべらなくていいのか?」


「うん、大丈夫。だって未来でたくさん話すから」


「なんだそれ、治せる保証もないに」


「うんうん、私が絶対に治す。だから、私は世界で一番の魔法使いになるって決めた」


「そうか…………」


 ベットに横たわるミストンさんに俺は手を触れる。


「ラインさん、本当にお世話になりました」


「お礼はいりません。全部、俺がしたかったことですから。では…………」


 ミストンさんはゆっくりと目を閉じた。


 全身を凍らせ、仮死状態にするには膨大な魔力が必要だ。


 普通の人ならまずできない。


 だが、この勇者に劣らないスペックを持つライン・シノケスハットの内包する魔力なら可能だ。


 それに凍結魔法なら、一度地下室の空間を作る際に試したから問題なはずだ。


「では、フリーズ・フローズン」


 瞬く間にミストンさんは凍りついた。


 その姿はとてもきれいで安心したような笑顔を浮かべていた。


「これでよし。あとは運ぶだけだな。お前らでてこいっ!!」


 っと合図を出すと、元バエルの盗賊たちが姿を見せ、その中にフユナもいた。


「これをあの地下室に運べばいいんですよね」


「そうだ」


「わかりました。おまえらっ!!運ぶぞっ!!」


「「「はいっ!!!」」」


 ミストンさんが運ばれている中、ノータの表情は少し曇っていた。


「あいつらのこと、許せないか?」


「うんうん、むしろ感謝してる。だけど、やっぱり、お母さんと離れたくないなって」


「そうか、泣きたかったら、泣いていいんだぞ。まだ12歳なんだし」


「ラインだって、12歳」


「俺は、貴族だし、教養だってあるし、同じ12歳でも全然違うんだよ」


「泣かない。それより早くいこ」


「そうだな」


 地下室に出向き、最後までミストンさんを見送った。


「しばらく、会えなくなるからな」


「うん」


 極寒の中、ノータは氷の中のお母さんを眺めた。


「よし、じゃあ、俺たちは戻るぞ」


 ノータを置いて、俺たちは地下室を出た。


 きっと、ノータにも一人の時間は必要だろう。


「それではボスっ!俺たちはこの辺で!!」


「ああ、しっかり休めよ」


「はいっ!それじゃあお前らっ!撤収っ!!」


「「「はいっ!!!!」」」


「変わりましたね、とても元バエルの盗賊に見えない」


「心を入れ替えたってことだろう、多分」


「それより、ノータちゃんは大丈夫でしょうか」


「大丈夫だろ」


「まだ12歳なんですよ、ノータちゃんは!」


「それいったら、俺はどうなるんだよ!!」


「ご主人様は、特別ですっ!」


「特別って、俺だってまだ12歳なんだけどな」


「12歳はそんなに口調くちょう悪くないですし、強くありません。つまり、特別です」


「うぅ…………」


 たしかに、俺は転生者で正直、少しずるしている。


 だがその代わり俺に待つ未来は死だけ。


 すると、地下室への入り口が開き、ノータが姿を見せた。


「終わったか?」


「うん」


「そうか、ならこれからどうする?一応、ミストンさんが雇ってやってほしいというから、雇うこともできるが、別にそれ以外の選択肢もあるぞ?」


「私は…………ラインについていくっ!」


「いいんだな?後悔しても知らないぞ?」


「後悔するか決めるのは私だよ、ライン様」


「そうか…………え、様?」


「お母さんから学んだ。雇い主は様をつけるようにと、あと既成事実作っておきなさいと、これからよろしくお願いします、ライン様」


「あ、ミストンさん、ノータに何を吹き込んだんだ」


「ノータちゃんっ!歓迎しますよっ!!」


 アルルは抱き着き、顔をこすりつける。


「うん、アルルちゃんもよろしく」


「はいぃっ!!!」


「まぁ、いいか」


 星々が輝く夜空の下で、一人の少女が新たな一歩を踏み出した瞬間。


 これから、ノータが待ち受けるは未知の未来。


 原作からかなり外れたけど、大丈夫だよな?


 そんな不安がほんの少しだけ胸を締め上げた。


ーーーーーーーーーーー

あとがき


これにて、ノータ編、完結です。


次回から聖女アリステラとミノタウロス討伐編!!

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