第5話 いざ盗賊潰し

 都市アルキナ、原作では一回しか登場せず、治安の悪く野蛮な盗賊がはびこり、あの原作最強の魔法使いノータの生まれた故郷で有名だ。


 魔法使いノータは作者公認の最強魔法使いであり、異例の魔族側に立った唯一の人間でもある。


 人間を憎み、世界に絶望した彼女は最後まで魔王に加担し、最後、勇者シンによって殺される。


 それが原作最強の魔法使いノータの最後だ。



 治安が悪く、あちこちで路頭に迷う人たちが徘徊している。


 それが当たり前なのが、都市アルキナであることがこの世界での共通認識だ。


「ご主人様、どうしてそんなところへ行かれるのですか?」


「気になるか?」


「すごく気になります」


「…………都市アルキナには最近、荒らしに荒らしまくる盗賊組織があるらしい」


「バエルっていう組織ですね。最近よく耳にしますが」


「それを潰しにいく」


「え」


「潰すんだよ、徹底的に」


 っていうのは建前で、本当はノータ探しが本命だ。


 正直、もう少し後からでもよかったんだけど、アクシデントが起きた以上、早めに動いたほうがいいと思った。


「な、なるほどっ!ここでご主人様の評判を上げて、今までの噂に上塗りをするってことですねっ!」


「ふん」


「さすがですっ!!」


 なんか、いろいろアルルが誤解しているが、好都合だ。


 なんとしてでもノータを仲間に引き入れ、身の守りを盤石ばんじゃくにする。


 ノータさえ仲間に入れば、魔法に関しては負けなし。たとえ、主人公と対峙したとしても、大いに活躍するだろう。


「準備が整い次第出発する。アルルもいつでも出発できるよう準備しておけ」


「はい、ご主人様」


 ノータはたしか、俺と同じ年齢のはずだから、案外すぐに見つかるかもな。


「それはそうとご主人様」


「なんだ?」


「聖女アリステラ様がまた後日、伺いますと手紙を受け取っております」


「そうか…………うん?な、なんだと?」


 指先に力が抜け、右手に持つカップが落ちた。


 そして、パリンっと割れた。


□■□


 お父様とお母様の許可が下りると、すぐに出発した。


 そして俺とアルルは無事に都市アルキナに到着する。


 原作通り、街並みは薄汚く、路頭に迷う人々が多く見えた。


「こ、ここが都市アルキナですか?想像以上にひどいですね」


「ふん、この都市の管理者が無能なんだろうな」


 都市アルキナがどうしてこんなにひどい状態なのか、その理由は簡単だ。


 食糧不足に水不足、それと盗賊たちの隠れみのに使われているからだ。


「ご主人様、決して私から離れないでくださいね」


「…………心配するな、いくぞ」


「あ、はい」


 殺気に似た鋭い視線。


 貴族をねたみ、うらやむ者たちが多いことは原作で書かれていたけどまさかここまでとはな。


 …………だ、大丈夫だよな。急に襲い掛かったりしないよな?


 内心、相当ビビっていた。


 周りを見渡しながら、都市アルキナの中心部に近づいてく俺たち。


 中心部に近づいていくにつれて、視線は不思議と減っていった。


「どこへ向かわれているのですか?」


「…………ついてこればわかる」


 しばらく進むと。


「おい、ここは通行止めだぞ」


 腰に剣を携える男が声をかけてきた。


「なんですか、あなたは?」


「俺はここの門番だ。悪いことは言わねぇ、さっさと引き返せ」


 強い言葉で引き返させようとする男。


 いると思ったよ。


「ご主人様、どうしますか?」


「そんなに見られたくないものがこの先にあるのか?」


「ああ?なんだ、小僧?俺の話が聞こえなかったのか?」


「はぁ、話が通じないやつだな。やっぱり、生まれが悪いと会話すらまともにできないのか?」


「お、おまえっ!調子に乗りやがってっ!!」


 男は鞘から剣を引き抜き、振るった。


 だが。


 カキンっ!と金属が鳴る。


「ご主人様には指一本触れさせません」


「なぁ!?」


 クナイで簡単にはじかれ、腹に足蹴りをくらい、男は無残にその場で倒れ伏した。


「よくやったぞ、アルル」


「ご主人様を守るのは当然ですから」


「進むぞ」


「あの男はほっておいてよいのですか?」


「気にする必要はない」


「わかりました」


 さらに進んでいくと今度はたくさんの盗賊が姿を現した。


「どこから入ってきやがったぁ!?」


「そんな知るか!さっさと殺しちまえっ!!」


 群がる盗賊の雑音。


 もし、本物のライン・シノケスハットならこう言うだろう。


「うじ虫が、ぎゃーぎゃー騒ぎやがって…………アルル、やれ」


「ご主人様の仰せのままにっ!!」


 10人以上いた盗賊をアルルは無傷で無力化した。


 やっぱり、強いなアルルは、さすが原作最強の暗殺者。


「あの一つ聞いてもいいですか?」


「今度はなんだ?」


「私たちはどこへ向かっているのですか?」


「…………ふん、ここまで来てわからないのか。いいだろう、答えを教えてやる。俺たちが向かっているのはの本拠地だ」


「そ、それを早く教えてほしかったです、ご主人様。早く教えていただければ、わざわざのに」


 声色にただならぬ殺気を感じた。


「ここで本気になられても困るがな。それより先に進むぞ」


「あ、はい」


 こ、怖かったぁ。なに、あの表情、一瞬殺されるかと思ったわっ!


 でも、アルルのやる気は十分みたいだし、このまま流れで、見つかるといいな。


 さらに中心部に近づくと、ガタイのいい男と隣で体を小さく震わせる少女がフードをかぶって立っていた。


「ご主人様、下がってくださいっ!」


「貴様らだな、侵入者は」


「そうだが、なんだ?」


「これは最後の警告だ。ここで立ち去れば、命だけは助けてやる」


「小さな女の子を連れている時点で覇気がないな」


 あれば、盗賊組織バエルの幹部、ガングだ。


 特徴的なのは顔に大きくできた傷跡。


 盗賊組織バエルの幹部の中で、かなり腕が立つ男だ。


「警告はしたぞ」


「アルル、相手してやれ」


「はい、ご主人様」


「ふん、女を使うとは腰抜けだな」


「おいおい、そんなこと言っていいのかよ。戦いはすでに始まってるんだが」


「なに?…………んっ!?」


 気がつけばアルルが姿を消していた。


「あの女はどこにいったぁ!?」


 彼女は元暗殺者だ。常に視線を気にしながら、殺す隙を狙う。


 つまり俺と会話をした時点で、アルルが一気に優位に立ったのだ。


 陰に潜んだアルルを殺すのは至難の業だぞ、バエルの幹部ガング。


「ちっ!いったいどこに…………」


「隙ありですよ」


「んっ!?うがぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 見事に背後を取り、背中を切った。


「思ったより、硬い」


 たしかに、隙をついた一撃だったが、致命傷は与えられなかった。


 だが、ガングは背中を抑えながら、膝をつくと、震えている女の子のほうへと視線を向ける。


「く、くそ、おい、小娘っ!魔法を使え、命令だっ!!」


 あの子、原作では見たことないけど、念のため。


「アルル、あの子の魔法に注意しろっ!!」


「ヘル・ファイヤー」


 彼女の人差し指から、建物を溶かすほどの炎が放たれた。


「くそ、外したか」


「すごい威力」


 アルルはぎりぎりでかわし、俺の元まで戻ってきた。


「どうしますか?ご主人様」


 ヘル・ファイヤーは火炎魔法の中でも習得困難の魔法の一つだぞ。


 そんな魔法を使えるやつが、都市アルキナにいるとは思えない。


 つまりだ。


「ビビりやがったなっ!だがもう遅い。俺は警告したからな」


「ふふふ、ふふふふふふふふふふふふ」


「な、なに笑ってやがるっ!」


「ご、ご主人様?」


 確かめる必要がある。


 だが、アルルに俺の事情を伝えるわけにもいかない。


 ならここは。


「アルル、ここからは俺がやる、下がれ」


「で、ですが」


「二度も言わせるな」


「申し訳ございません」


 あの少女が本物のノータか、確かめる。


 俺は、自分のためなら命だってかけられる男だ。


「気色悪い奴だ。やれっ!」


 少女は再び人差し指をこちらに向けてきた。


「こいよ、魔法使い」


 俺は今日、一番の最高の笑みを浮かべた。


「ヘル・ファイヤー」


 周囲を焼き尽くす炎が迫る。


 実に素晴らしい、魔法だ。


 ぜひにとも、俺のためにふるってほしいものだ。


 よける動きもせず、炎に飲み込まれる姿をアルルは見た。


「ご主人様っ!!」


「あははははははっ!バカめっ!調子に乗った罰だぁ!!」


 高らかに笑うガング。


 少女はガングの顔色をうかがう様子を見せる。


「お前、あんな奴に使われていいのか?」


「へぇ?」


 少女が後ろを振り向くと、そこには炎に焼かれたはずのライン・シノケスハットがいた。


ーーーーーーーーー

あとがき


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