第40話 シリグアム皇帝陛下との会談

 アルゼーノン帝国の大都市セイカ。


 それはアルゼーノン帝国の中心地であり、皇帝陛下が住まう王城が中央にそびえたつ最も栄えた都市。


 まさしくアルゼーノン帝国の象徴だ。


 俺たちは、王城の正門に転移してきた。


「ここが、王城か」


 すごく大きいな。さすが皇帝陛下が住まう城。


 その大きさがまるでシリグアム皇帝陛下の風格と器の大きさを表しているようだった。


「な、何者だっ!貴様らは!?」


 突如現れた仮面をつけた集団に動揺する騎士たち。


 まぁ、突然、現れたらそういうリアクションになるよな。


「貴様!!誰に向かって刃を向けているんだ!!」


 剣を向けてくる騎士たちにフユナが声を上げた。


「このお方はラプラスを仕切る偉大なるボスだぞっ!その刃を今すぐおさめろっ!!」


「な、なんだそれは?聞いたことないぞっ!」


「なんだっ!お前たちのほうから申し出てただろうが!!」


「おい、フユナ。ケンカなんて情けないぞ。それにどうやら、お迎えが来たみたいだ」


 正門が開き、そこから立派に武装した一人の騎士が姿を見せた。


「これは、ミハエル様!!」


「君たちは下がりなさい。我が騎士がご無礼を、私が案内します。ついてきてください」


 とても淡泊な言い方だが、これぞ騎士って感じだな。


 俺たちは騎士ミハエルの後ろへついていった。


 徐々に上へと上がっていき、最上階、その一室に案内された。


「ここで座ってお待ちください、それでは」


 騎士ミハエルが部屋を出て行った後、俺たちは座りながらシリグアム皇帝陛下が来るのを待った。


 ここまで来てしまったが、正直、逃げ出したいほど緊張している。


 シリグアム皇帝陛下とは会ったことがあるけど、それはライン・シノケスハットとしてだけで、きっとこうした会談では違う一面を見せてくるはずだ。


 ああ、怖いな、きっと自分のお父さん並みに怖いよな。


 だけど、ここで弱いところを見せると周りにどんな目で見られるか、ここはうまくいかなくても堂々としてないと。


 しばらく、沈黙しながら待っていると、扉が開く。


 シリグアム皇帝陛下とその騎士ミハエルだ。


 ゆっくりと横を通りながら、シリグアム皇帝陛下は椅子に座った。


「私は、アルゼーノン帝国の第14代皇帝、シリグアムである。まず、会談に応じてくれたことに深く感謝申し上げる」


「こちらこそ、私は、ラプラスのボス。特にこれと言って名前はないが、そうだな。とでも呼んでくれ」


「わかった」


 少々、皇帝陛下の顔色が暗いな。


 あ、この仮面のせいか。そりゃあ、仮面をつけた集団を見たら、顔色も暗くなるか。


「ではルンゲ殿、早速本題に入ろう。ラプラスはここ最近、都市アルキナを発展させただけでなく、各国に手を伸ばしているな。いったい何が目的だ」


 いきなり、聞いてくるとは、強気だな。


 普通はもう少し雑談を交えるものだと思っていたけど、仕方がない。


 しかし、目的か。別に俺がラプラスを動かしているわけじゃないし、ここはフユナが答えるのが適任だろう。


 言っておくが決して、答えるのが怖いだとか、そんなんじゃない。この質問に対してはフユナが適任というだけだ。


「フユナ…………」


「はいっ!我々の目的は至って単純、魔王の討伐です!」


「ほほう…………」


「今の時代、世界は勇者を求めている。だが、勇者に頼っていては守れるものと守れないものが生まれるっ!我々ラプラスは実力のあるものを集め、魔王の対して対抗策を用意しています」


 き、聞いてないんですけど!?


 なに、ラプラスってそんな方向性で動いてたの!?いや、まぁフユナに任せっきりだったから、文句は言えないけどさ。


 でも、魔王討伐って普通に勇者に任せればいいのに…………。


 いや待てよ、いっそのこと、魔王を倒せばハッピーエンドなのでは?


「それは、本気なのですかな?」


「ボス…………」


 なるほど、ここは俺が言ったほうがいいということだな。


 その目線の意図、しっかり伝わった。


「ああ、本気だ。むしろ、シリグアム皇帝陛下は何をしておっしゃるのかお聞きしたい。魔王軍は遅くても3年後には攻め込んでくるでしょう。なのに、いまだ行動一つしていない。しているとしたら、聖人教会に属する聖女のみでしょう。まさか、あなたたちは勇者にすべてを丸投げするわけではありませんよね?」


「貴様、シリグアム皇帝陛下に向かって、なんという口の利き方をっ!」


「よせ、ミハエル」


「しかし…………」


「ルンゲ殿は私たちが何もしておらず、のんきに生きている、そう思われているのですか?」


「ふん…………まぁ考え方的にはそうだな」


「ならば、その言葉は訂正させてもらおう」


「なら、何秘密裏に動いていると?」


「ルンゲ殿もご存じだと思いますが、変異種であるミノタウロスを単独討伐をなした男がいることはご存じですな?」


「ああ、知っている」


 だって張本人が目の前にいるしな、それに噓だし。


「私は彼を英雄と宣伝し、士気力を上げ、魔王に対抗するつもりだ」


「なるほど、愚策だな」


「そうでもないぞ。かつての魔王との戦いでは、勇者が前に出れば、騎士含めた全員の士気力が上がり、結束力を高め、ともに魔王と戦った。という話がある。我はそれを勇者である必要はないと考えている」


「なるほど、シリグアム皇帝陛下は個の力ではなく、全体の力を上げようとしているわけですか、ですが、果たして、その変異種であるミノタウロスを単独討伐をなした男は英雄となってくれるのでしょうか?シリグアム皇帝陛下は少々、考えが甘い」


「き、貴様!たかが、一介の組織ごときが!!」


「口を閉じるのだ、ミハエル」


「しかし、このままではシリグアム皇帝陛下としての」


「ミハエル!?この場はルンゲ殿と私の会談だ。口をはさむな」


「も、申し訳ございません」


「それでは、逆にお聞きする。ルンゲ殿、あなたたちは完璧であるといえるのですかな?」


 なるほど、そうきたか。


 自分の考えを逆手にとって、お前はそうなのではないか?っと突き付けている。


 これは明らかな挑発だ。


 なら、俺がとる選択は一つしかない。


「ノータ」


「はい」


「そうだな、この会談室に結界を頼む。できるだけ強固にな」


「わ、わかりました」


 ノータが杖を掲げると、会談室に結界が張り巡らされた。


「な、なにをする気だ?」


「いえ、少し見てもらいたいものがありまして」


 俺は常に魔力を感知されないように、うちで魔力を練って小さく固めている。


 表現が難しいが、簡単に言えば、内から外へ漏れ出ないようにしているのだ。


 理由の一つは、実力を隠すため。相手に実力を錯覚させ、隙をついて殺せるようにするためだ。


 そしてもう一つ理由がある。


 それは。


「気を張ってほうがいいですよ?お二人とも」


 その言葉にシリグアム皇帝陛下とミハエルは目を見開いた。


 ニヤリと俺が笑った後、一瞬、王城が揺れた。


「な、なんだ!?」


 そして俺は、内にとどめていた魔力を解放した。

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