第41話 偶然にも勇者シンと出会う

 魔力、それは一人の実力を見る指標にもなっているほど、この世界において重要な位置づけだ。


 少なければ、魔法使いとしての実力は低いとみなされ、多ければ、ある程度の実力があるとみなされる。


 他の職業の人たちも同じだ。魔力量の多さでできる幅が広くなるため、多ければ多いほど得をする。


 それがこの世界だ。


 故にたいていの人は魔力量を見て、顔色をうかがうのだ。


□■□


 魔力を解放した瞬間、結界内にいる全員に今までにない重圧が襲った。


「うぅ…………」


「こ、これは!?」


「これが俺の魔力の一端です」


 魔力感知を使わずとも、感じられるほどの魔力量。そして、その魔力に充てられるだけで鉛のように体が重くなる。


 その感覚はまさに絶対的強者への畏怖だ。


「どうですか?これで理解しましたか?」


「くぅ…………」


「おっと、苦しいですよね。すいません」


 俺はすぐに開放した魔力を抑え込んだ。


 すると、感じられた鉛のような重圧がなくなり、身軽になった。


 シリグアム皇帝陛下は一汗ぬぐった後、呼吸を整え、再び目線を合わせた。


「ルンゲ殿の実力はわかりました」


「それはよかった。実は少し心配していたんですよ。俺のようなものが一体、どれほどの実力なのか。果たして、アルゼーノン帝国の騎士とどれくらい張り合えるのか」


 シリグアム皇帝陛下の表情が曇っている。


 これで、ラプラスにちょっかいをかけることはないかな。とはいえ、少しやりすぎたかも。


「さてと、そろそろ終わりにしませんか?聞いたところ、お互いに利害は一致してますし、むしろ敵対するのではなく、一緒に魔王討伐に向けて、協力するとか?どうですか?」


「そうだな、確かに利害は一致している。敵対はむしろお互いに不利益だろう」


「それはよかった。実は少し心配していたんですよ。もし敵対してしまったら、戦争になりかねないですし、本当に…………よかった」


 俺の言葉節々に動揺と恐怖を感じられる。


 いい刺激になったみたいだ。


「それでは俺たちはこれで…………また何か話がありましたら、俺の副ボスであるフユナに連絡してください」


「わかった。ミハエル…………この方々を正門まで」


「わ、わかりました」


 会談が無事に終わり、俺たちは正門まで見届けられた。


「ふぅ…………終わったな」


「さすがですっ!ボスっ!名前のセンスはとにかく、その場の雰囲気を一瞬で飲み込むような風格、シリグアム皇帝陛下なんて度肝を抜いていましたよっ!」


「おい、大きな声でしゃべるなっ!あと、名前のセンスってお前、もしかして馬鹿にしてる?」


「い、いえそんなことは」


「ライン様、かっこよかった。特に『気を張ってほうがいいですよ?お二人とも』なんてしびれた…………妊娠しそう」


「おい、何言ってんだ、ノータ」


「ほほほっ、これぞ、組織を引っ張る者の宿命というやつですかな」


「ゼノン師匠、別に笑うところじゃあ」


「ボス、すごかった」


「私は別に…………」


「ごほんっ!みなさん、正門で立ち話するものではありません」


「アルルがまともなことを、熱でもあるのか?」


「ご主人様、いくら私でも場と空気を読みますよ?」


「そ、そうか、とにかく会談は終わったことだし、ノータ、転移魔法を頼む。それと、俺とアルルはここで居残りな」


「ボス、何か用事でもあるのですか?」


「少しな。というわけで、アルル以外全員、帰って仕事だ」


 転移魔法でみんなが帰っていく中、ノータだけ少し不機嫌そうだった。


 帰ったら、何かしてあげないと殺されそうだ。


 俺とアルルだけになると、着替える場所を確保しに宿屋へと向かった。


「それにしても、この姿は目立つよな」


「かっこいいと思いますよ?どの国でもこの服装はありませんし、それに風格もあります」


「まぁ、そうだが…………」


 周りからひそひそ話がすっごく聞こえるのが、精神的にきつい。


 しばらく歩いて、宿に向かっていると、吞気に鼻歌を歌いながら横を通り過ぎた女の子。


 その瞬間、後ろからとてつもない殺気を感じ取り、後ろを振り向いた瞬間、刃がすぐそこまで迫っていた。


 そして、いびつな金属音が大都市セイカに鳴り響いた。


「何のつもりだ」


 反射的に剣で一撃を防いだが、その刃には亀裂が入っていた。


 なんて強烈な一撃だ。魔力で補強しなかったら、確実にやられていた。


「あなたからは、いやな気配がする」


「誰だ?」


 この子、ついさっき、鼻歌を歌いながら横を通り過ぎた女の子じゃないか。


「勇者様!?一体、何をなさっているのですか!!」


 速足で駆け寄ってくる金髪の女の子。


 俺はこの子を知っている。


 どうして、こんなところにアリステラが?いや、さっき勇者様って言っていたな。まさか、こいつが。


「アリステラ!こいつから嫌な気配を感じたんだ。魔族に似た気配、それに見た目もすごく怪しい」


「失礼な奴だな!!」


 俺は軽々とはじき返した。


「ごしゅじーー」


 そこで、俺はアルルの口を閉じさせた。


「今はルンゲと呼べ、アリステラにばれるぞ」


「る、ルンゲ様」


「…………急に襲ってくるとは無礼な奴だな。何者だ?」


「私は勇者シン!いずれ、魔王を倒し、世界を救う者ですっ!」


「ちょっと、勇者様!?そんな大声で言わないでください」


 アリステラが焦っているが、おそらくここに訪れたのは、シリグアム皇帝陛下に勇者が見つかったことを知らせるためか?


 そうとしか考えられない。


 それに、なんだろう。勇者シンに違和感を感じる。たしか、勇者は男設定のはずだ。なのに、どうして…………胸が、いやどう見ても女の子だ。


 いやいや、まさか…………女の子だ。


 何度見ても女の子。それは変わらない事実であることに目を見開いた。


 これはあれか、もしかして、本当は性別が女子だったのか?


 自分の記憶を疑い始める俺だったが、とりあえず、その場の流れで口を開いた。


「ふん、一目見ただけで、襲い掛かるとは礼儀がなっていないな」


「私の勘はよく当たる。もし何もないのなら、その仮面を外して」


 この雰囲気にアリステラは動揺していた。


 これはあれか、アリステラが止めに入ってくれないやつか。ここで大ごとになれば、それこそ勇者のイメージを損なうと思うが…………。


 しかし、もしここで勇者を殺せば、俺は晴れて自由になれる。


 もう死ぬという未来は一生訪れない。


 だが、そんなことを今ここでしたら、指名手配されて、人生バットエンドだ。


「生憎と、顔を見られるのが恥ずかしくてね。それは無理だ。それにそもそも君が勇者である証拠であるのかな?」


「あるよ、これが勇者の証だ」


 そう言って手の甲を見せた。


 勇者の証、勇気の文様が刻まれていた。


「なら、逆にこうした無理強むりじいはお勧めしない。周りのみんなを見てみろ。今この状況、どっちのほうが悪者に見える?」


「そ、それは」


「先に仕掛けてきたのは勇者、君だ。もし俺と話したいのなら…………そうだな。どうだ、一つお茶でも?」


「うぅ…………わ、わかりました。いてぇ!?」


 その瞬間、勇者シンの後ろからアリステラが勢いよく叩いた。


「な、何するの!?」


「それはこっちの話です。あれほど言いましたよね?目立たないでくださいって!!もう…………」


 アリステラも苦労してそうだな。


「それじゃあ、一緒にお茶でもしようか。お二人とも」


 ここは俺だとばれないよう、シリグアム皇帝陛下の会談のように演じるんだ。


 こうして、俺たちは近くのお店に訪れた。




 

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