第15話 聖女アリステラ・リーン再びっ!来た理由とは?

 聖女アリステラ・リーンは神の神託に耳を傾け、それを頼りに勇者を探す。


 神託は絶対であり神の声。


 そう教わった。


「今日は、シノケスハット家に向かわれるのですよね?」


「ええ、前に訪れたときは急用ができてしまってので…………」


「その、とても失礼だと思いますが、そんなに気になるのですか?あの悪名高い、シノケスハット家の長男、ライン・シノケスハットが」


 護衛の女騎士が不安ながら、そう言った。


 無理もない。なんて言ったって、あのライン・シノケスハットなのだから。


 ほしいものは奪い、気に食わないものは死刑に処したなど、悪い噂は常にはびこっているほどで、一部ではシノケスハット家、最大の汚点なんてひどい言われ方もしている。


 だけど、私はそう思わない。


「気になりますよ、彼が…とても」


 神託によれば、勇者は大陸の端にある田舎町にいると受けたが、今はこっちを優先している。


 本当は一刻も早く、勇者を見つけ出し、導きかなくてはいけないはずなのに。


「早く会いたいです…………ライン様」


 その瞳からは危うい、聖女として危うい何かを秘めていたが、そのことに聖女アリステラ・リーンは気づかずにシノケスハット家に訪れることになる。



□■□


 朝を迎え、カーテンから日差しが差し込む。


 しかし、それでも起きない俺にアルルがニヤリと笑い、そして。


「起きてくださいっ!!!」


 振り上げられる拳がおなかを貫く。


 ような痛みに襲われる。


「うぅ、おいっ!!」


「なんでしょうか?」


「もっと、マシな…………マシな起こし方あるだろっ!!」


「だって、起きないじゃないですか?それにご主人様なら、殴っても傷一つつかないし、ね」


「ね、じゃねぇよ」


 最初は優しく起こされていたものの、今では遠慮もなくなり、どんな手を使ってでも起こしにくる。


 たしかに、この体はちょっとやそっとじゃ、傷つかない。


 ただ、痛いものは痛い。


 それにアルルは普通の一般人ではなく、原作最強の暗殺者、殴る力も伊達じゃない。


「それに、今日は聖女アリステラ様が来るんですから。早く正装に着替えてください」


 お前は俺の母ちゃんかって言いたいが、そう、今日は聖女アリステラ・リーンが来る日だ。


 変な起こされた方をされ、少し不機嫌そうな表情を浮かべながら、正装に着替える。


「よしっ!」


 鏡を見て、しっかりと着こなせていることを確認している後ろで、アルルがにやにやとしながら笑みを浮かべていた。


「な、なんだ?」


「似合ってますね」


「…………お前、最近、俺に対して態度が軽くないか?」


「そんなことはありません。ただ、ご主人様の寝顔や仕草、口調を観察し、眺め、脳内に焼き付けているだけですっ!!」


 本気で引いてしまったラインだった。



 階段を下りて、食卓に向かおうと、ノータが頑張って掃除をしていた。


 こちらに気づくとテコテコっと近づき、頭を深く下げた。


「あ、え~~~と、お、おはようございます、ライン様っ!」


「おはよう、ノータ。今日も頑張ってるな」


「はいっ!今日も朝からしっかりと!!」


 メイド修行は大変そうだが、なんやかんや慣れてはきているみたいだな。


 すると、遠くのほうから。


「ノータちゃんはいる?ちょっと手伝ってほしいんだけど」


 っと声が聞こえてくる。


「あ、はいっ!!それでは、ライン様」


「ああ…………アルルよりメイドらしいな」


「そうですか?私のほうがメイドらしいと思いますけど」


「よく言うよ」


 食卓に行き、家族と朝食をとった後、聖女アリステラ様が訪れるまで暇を持て余した。


 そして、お昼ごろ、ついにその時が来た。


「ライン、聖女アリステラ様がお見えだ」


「はい」


 門の前に立ち、待っていると馬車が近づく音が聞こえてくる。


 覗いてみると、白と金で色塗られた馬車が奥のほうから見える。


 前の時とは違って、馬車できたのか。


 まぁ、前の時は一人で来てたし、むしろこれが普通か。


 馬車が門を通過すると、俺たちの前で止まり、扉が開く。


 甘酸っぱい香りが広がり、長い金髪の髪が揺らめき、その姿を現した。


「お久しぶりです、ライン様」


「わざわざ遠くのほうからありがとうございます。アリステラ様」


「むん、そこはお久しぶりです、でしょ?」


「あははははは」


 聖女アリステラが馬車を降りると同時に女の騎士も姿を見せる。


 彼女が聖女アリステラの護衛騎士か。


 原作では見たことないけど、聖女アリステラの護衛に選ぶほどだ、きっとかなりの実力だろう。


「わざわざ、わがままを聞いてくださりありがとうございます、皆様」


「いえ、むしろ我々は歓迎でございます、聖女アリステラ様。ではこちらに…………」


 お父様の案内の元、とある一室に聖女アリステラと護衛騎士、そして俺と専属メイドであるアルルが椅子に座った。


「それでは、存分にくつろぎください」


 いくらお父様でも、聖女アリステラの前では頭も上がらない。


 これぞ、聖女アリステラの権力と力を示しているも当然。


 ここは穏便に平和に過ごして、帰ってもらう。


 そのために俺がとる方法は一つ。


 何もしないっ!とにかく受け身とって、相手に合わせるっ!これしかないっ!!


「ライン様」


「なんでしょうか?」


「気楽にしてくださって大丈夫ですよ」


「気楽にしていますよ?」


「いえいえ、気楽にしていません」


 沈黙。


「これでも気楽に」


「いえ、してません」


 沈黙。


「ライン様、私は本当のあなたが見たいのです」


 青い瞳が俺を見透かすように見つめた。


 たしか、設定で聖女アリステラには噓見抜く瞳を持っているかも?みたいな設定があったけ。


 もしかしたら、その設定は本当だったのか?なら、まずいな、下手なことを言ったら、それこそ、トラブルになりかねない。


 だが、ここで口調を戻すのは護衛騎士に刃を向けられる可能性がある。


 ならここは遠回し、それとなく聖女アリステラに。


「アリステラ様、世の中には隠さなければならないことだってあるはずです。それは貴族として当然のことであり、それをさらすことは弱点をさらけ出すのと同じ、お分かりですよね?」


 そんな挑発口調に護衛騎士が声を上げた。


「貴様っ!?聖女アリステラ様の前で、何たる無礼な口調をっ!!」


 えぇ!?これでもダメなのっ!!


 できる限り、気を触らないように言ったつもりなんだけど。


「そうですか、たしかにその通りです、ライン様。無粋な詮索をお許しください」


「聖女アリステラ様!?」


「でもやはり、私の勘違いではなく、あなたからは特別なものを感じます」


「特別だなんて、俺はただの貴族ですよ」


「ふふふ、実はですね。今日訪れたのには、理由があるんです」


「理由?」


「はい…………」


 なんだろう、理由って?


 聖女アリステラがわざわざ運ぶ理由…………ま、まさか!?


 勇者パーティーの勧誘。


 これしかない。だって今の時期、聖女は神の神託を頼りに勇者を探しているはずだ。


 冗談じゃない。そんなの死地へ自ら飛び込むと同じじゃないか。


 どうにかして断らないと…………。


「ライン様、どうか、ミノタウロス討伐についてきてはくださいませんか?」


「ーーーーーーーえ?」


 み、ミノタウロス討伐?


 作っていた表情が崩れていくのだった。



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