第14話 ラプラス結成、そして忘れてころにやってくる

 祭りが終わった次の日、俺たちは都市アルキナの中心部、フユナたちのところへと訪れた。


「ボスっ!おはようございますっ!!」


「お、おお、おはよう」


 相変わらず、元気だな。


 さすがにそろそろ帰らないとお父様やお母様に何を言われるか分からないので、帰ることを伝えに来た。


「俺は、今日帰るんだが、その前にこの組織の名前を付けてないと思ってな」


「そういえば、そうでしたね」


「ああ、そこでだ。本来なら俺がつけるべきなんだろうが、特別に副ボスであるフユナ、お前がつけていいぞ」


「え!?お、俺が!?」


「そうだ」


 本当はつけるのがめんどくさくて、副ボスであるフユナに投げているわけでない。


 それに、理由もしっかりとある。


「一応、ここのボスになっているが、まとめているのはあくまでフユナ、お前だ。なら、お前がつけるのが自然だろ?」


「ですが、俺たちはあくまでボスの意見を参考にしたまでで」


「それがすげぇんだよ。自分たちを卑下ひげにするな。それに、俺は正直、そこまでお前たちにかまってもいられない。貴族という身分がある以上な。だから、一番信頼できるフユナにつけてほしいんだ」


「ぼ、ボス~~~~~~~~わかりました。責任を持ってつけさせていただきますっ!!」


 よしっ!これで、全部こいつ丸投げできるぞっ!


 俺はまだまだやることあるし、それに15歳になったら、大本命の学園生活が待っているんだ。


 こんなところで時間をつぶせないし、それにフユナなら悪くはしないだろう。


「ごほんっ!それでは、今日からボスを筆頭に!!『』と!!」


「ラプラス?意味はあるのか?」


「…………とくにありません」


「ないのかよ」


「でも、かっこよくありませんか?」


「まぁ、そうか?」


「私はかっこいいと思いますよ、ラプラス」


 アルルが便乗びんじょうすると、ノータも。


「かっこいいと思うっ!!」


 っと目を輝かせた。


「じゃあ、それでいいんじゃないか?」


 こうして、組織名は『ラプラス』と名付けられた。


 かっこいいなんて安直な理由でつけられた名前ではあるが、そんな気軽さがちょうどいいのかもしれない。


「今後とも、頼んだぞ、副ボス」


「はいっ!必ずや、この組織を大きくし、世界に多大な影響を及ぼす組織にして見せますっ!!」


「頼もしいことだな」


 この時の俺はまだ知らない。


 この組織がいずれ、世界に揺るがす大きな組織になることを。



 組織名が正式に決まり、俺たちはすぐに都市アルキナを後にした。


 帰る際にはたくさんの元バエルの盗賊、いや、ラプラスのメンバーが盛大に見送ってくれた。


 成り行きでできてしまったが組織だが、案外、数年後には大きくなったりしてな。


 なんて思いながら離れていく都市アルキナを眺めた。


「長いようで短かったな」


 少し悲しさを覚える俺だったが、傍らで二人のうるさい声が聞こえてくる。


「ノータちゃん、どうして、ご主人様の膝で寝ているんですかっ!離れなさいっ!!」


「ライン様との既成事実を作る」


「ノータちゃんにはまだ早いですっ!!」


「早くないっ!」


「早いですぅぅ~~~!!」


 この2人、うまくやっていけるのか少し不安だ。


「喧嘩するならさっさと、降りろよ、おまえら」


 今日はなんか、もう怒る気力も出ない。


 思い返すと、ノータを仲間にするのにいろいろあった。


「ライン様?どうかしたの?」


「うん?いや、なんでもない」


「い、いつまで、ご主人様の膝の上にいるんですか~~~~~っ!!」


 アルルの声は少し離れた都市アルキナまで届いた。


□■□


 久しぶりの我が家、シノケスハット家に帰ると執事とメイドが参列した。


「お坊ちゃま、おかえりなさいませ」


「出迎えにこの数は多すぎる。次から少なくしろ」


「わかりました。お荷物をお持ちします…………その子は?」


「ああ、今日から雇うことになった。お父様には今から報告するから。こいつに食事と風呂を用意してやれ、いいな?」


「わかりました」


「アルルはノータを護衛しろ」


「承りました、ご主人様」


「ノータは、魔法がいつでも打てるように準備しておけ」


「うん、わかったじゃない…わかりました、ライン様」


 俺はすぐにお父様の部屋に訪れた。


「お久しぶりです、お父様」


「おおっ!ライン。数日見ないだけで随分ずいぶん見違みちがえたな。それでなんのようだい?」


「実は都市アルキナでまれに見ない才能を持つ魔法使いを見つけました。ぜひ、我が家で雇いたいのです」


「ほほ、それは本当なのか?都市アルキナはかなり治安が悪いと聞く。そんな魔法使いを本当に見つけたのか?」


「それはお父様の目で確かめるとよろしいかと」


「なるほど、息子がそれほどの自身があるなら、見ないわけにはいかないな。それじゃあ、庭に行こうか」


「はいっ!!」


 シノケスハット家の大きな庭にお父様と俺、そしてノータが訪れた。


「君が、ノータだね」


「あ、はい」


「我が息子が君を絶賛していてね。ぜひ、君の魔法を見せてほしいんだ」


「わかりました」


 ノータは手慣れた手つきで人差し指を天に指し、そして唱えた。


「ヘル・ファイヤー」


 人差し指の先から灼熱の炎が集まり、勢いよく放射された。その威力はそびえ高くどこまで灼熱の炎がとどろいた。


「こ、これほどとは、さすがだ。ラインっ!!」


「彼女はまだまだ発展途上、これからさらに成長するでしょう。そうなれば、シノケスハット家の最大の利益が見込めます」


「よくやったぞ、ライン。これでさらにシノケスハット家は栄えるっ!!ぜひ、雇わせてもらおう」


「雇用上は、俺の専属メイドということでお願いしますね、お父様」


「わかっている。まったく、息子がシノケスハット家を継いだ後が恐ろしいよ」


 こうして、ノータはシノケスハット家のメイドとして雇われることになった。


□■□


 それから1週間、ノータはメイド修行でつまづいていた。


「難しい、メイド、難しい…………」


「そうですか?私は1週間もかからずにマスターしましたけど」


「アルルちゃんがおかしい、私みたいのが普通」


「う~~ん、むしろできないほうがわからないというか」


「アルルちゃん、うざい、話しかけないで」


「え~~~~そんなこといわないでよ、ノータちゃん」


 メイド修行で壁にぶつかるノータの姿は現在、執事、メイドの癒しになっている。


 皿を割ったとき、上目遣いで謝る愛らしさに、不器用に掃除するところや、みんながノータを甘やかす。


 実によくない状況だ。


 だが、俺もそんなノータがかわいいっ!と思ってしまった。


 とはいえ、ノータが躓いたのはメイド修行であって、魔法に関してはものすごいスピードで成長している。


 おそらく、並大抵の魔法使いにはもう負けないだろう。


「そういえば、そろそろあの人が来ますね」


「あの人?」


「ほら、後日また来ますって言ってた…………そう、聖女アリステラ様ですよ」


「え…………」


「都市アルキナに行く前に言ったじゃないですか。まぁご主人様が、忘れているわけないですよね。たしか、また手紙が来てて、明日訪れますって書いてあります」


「聖女アリステラってだれ?」


「勇者を選定する聖女様です。かなり身分が高い、というかご主人様よりも身分が高いので、様付けはしてくださいね。しないと下手したら、死刑ですから」


「わかった。ちゃんと様付けするっ!!」


「その意気ですっ!楽しみですね、ご主人様!!」


「…………」


「ご主人様?」


「そ、そうだな」


 わ、わすれてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!


 そういえば、そんなことをいってたようないっていなかったような。


 せっかく、平和なひと時を楽しんでいたのに、どうしてこうもまたっ!!!


 仕方がない、前みたいにやり過ごさないとって怪しまれているんだったな。


 いっそのこと、逃げようかな。いや、逃げたら、逃げたら、後々問題になりそうだ。


 腹をくくって、会うしかないか。


「…………今日もきれいな空だな」


 最悪、俺には原作最強の暗殺者に原作最強の魔法使いだっているし、大丈夫か。


 何も起きないことを俺は願った。


「曇りですけどね」


「うるさい」


 今日も俺は、平穏なひと時を過ごしたのだった。

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