第16話 ラインと護衛騎士の決闘

 ミノタウロス、勇者シンが最初にぶち当たる壁として登場する魔物。


 茶色い毛皮を身にまとい、片手に斧を携えた獰猛な獣。


 たしか、苦戦の末にギリギリ勇者シンが勝ったんだっけな。


「ど、どうして俺なんかが?」


「ライン様がかなりの実力ということ、そして私と護衛騎士の二人で太刀打ちできないと判断したからです。どうか、ライン様の力をお貸しください」


 その瞳はまっすぐ、真剣な眼差しで俺を見つめいた。


「いや、でもまだ12歳ですし…………」


「ライン様の実力はよく知っております。巧みな魔力操作は魔法使いに引けを取らず、格闘術にも精通している。覚えていますよ、ライン様がウルフをこぶし一発で倒したところを」


 懐かしむように語るアリステラはまるで夢を語る少女のようだ。


「え…………あ」


 アリステラやつ、あの泉のことを言ってるよな。


 反論しずらい。だって実際に見られているし、彼女の瞳は噓を見破るかもしれないからだ。


 それにかたくなに断れば、逆に怪しまれる可能性だってある。


 仕方がない、最悪こっちにはアルルやノータだっているし、俺が死ぬことはないだろう。


「お待ちください、アリステラ様!!」


 しかし、そこで隣に座るアリステラの護衛騎士が声を上げた。


「私は正直、ライン様をミノタウロス討伐に連れて行くのは反対ですっ!!」


 おっ!ここにきての反対意見。


 そうだよ、アリステラが例外なだけで、ライン・シノケスハットは悪名高く、冷酷非道な貴族だ。


 噂だって知っているだろうし、そんな信頼できないやつなんかに背中なんて預けられない。


 一緒にミノタウロス討伐なんてごめんなはずっ!


 そうだもっと反対してくれっ!!


「どうしてですか?」


「正直、アリステラ様の言葉は信じられません。なにせ、あのライン・シノケスハットですから…………なので、決闘を申し込みますっ!」


「へぇ?」


「もし私に勝てたら、実力を認め、ミノタウロス討伐の参加に同意します」


 なんで、そうなるの?ねぇ、なんで?


 そのまま反対意見をたくさん言って、アリステラを押し切ってくれよ。


「…………わかりました。討伐においてお互いの不安は払拭ふっしょくすべき。ライン様…………」


 冗談じゃない。


 どうして、決闘なんてしないといけないんだ。


 いや、ここでむしろわざと負ければ、いいのでは?いやだめだ。そんなことしたら、それこそ怪しまれる。


 決闘は受けたくないけど、受けなければ怪しまれる。


 受けて、わざと負けても怪しまれる。


 これあれだ、ミノタウロス討伐強制イベントってやつだ。


「わかりました。その決闘、受けましょうっ!」


「ふん、心構えは立派なようだな」


 ああ、最悪だ。


 っと心の中で涙を流すラインだった。


□■□


 シノケスハット家の庭に訪れた俺たち。


 そんな中で、決闘が行われようとしていた。


「ルールは単純、『参った』と言ったらそこで終了です。よろしいですか?お二人とも」


「問題ありません」


「こっちも、問題ないです」


 初めて、剣を握った。


 重くのしかかる金属の塊、こんなもので人を殺しているのかと思うと、恐ろしく感じる。


 ただ、握ってみてわかったことは、俺は剣を自在に使えるということ。


 確信なんてない。


 多分、ライン・シノケスハットは剣を使った戦闘スタイルが原作で描かれた戦い方だから、多分、あらかじめなじめるようになっているんだと思う。


「どうした?ビビっているのか?」


「いえ、ただ剣が重いなって?あはははは」


「持つのは初めてなのか?」


「初めてですよ」


 っと言いながら軽く剣で空を切った。


 その動きはなめらかで美しく、初めてとは思えなかった。


「よし、大丈夫そうだな…………ってどうかしました?」


「あ、いや、なんでもない」


 驚いた表情、やっぱり、この体は剣によくなじんでいる。


 これなら、余裕で勝てそうだな。

 

「それでは、はじめっ!!」


 可愛らしいアリステラの声で決闘が始まった。


 鋭い瞬発力で、地面を蹴って迫る。


 読み合いなんて関係なし、正面から叩き潰すってことか。


 …………それにしてもすごい殺気だな。


「覚悟っ!!!!」


 正面、近くで大きく剣を横に振る。


 俺は後方へ下がり平然とよけるが、合わせるように相手はもう一歩踏み出し、次は縦に剣を振る。


 鋭くそして恐れない不動の心。


 この護衛騎士、相当、死線を潜り抜けているな…………って俺が言うことじゃないけど。


「これで終わりですっ!!」


「いや、終わらない」


 響き渡る金属、護衛騎士が切ったのは俺ではなく、俺が持つ剣だった。


「うぅ…………思ったよりやりますね」


「そうですかね?ありがとうございます」


「決闘でお礼なんて、舐めないでくださいっ!!!」


 重なり合った剣をはじき返し、今度は冷静に剣を構えた。


 あの構え、見たことがある。


 たしか、アルゼーノン帝国の騎士戦術の型だったけな。


 一撃瞬殺いちげきしゅんさつを掲げ、一振りで敵を倒すことに特化した剣術。


 今のは本気ですらなかったってことか。


「よかったよ」


 もしこれが本気だったら、正直、弱いなって思っていたから。


「何がよかったですか、騎士をなめすぎですっ!!!!」


 魔力が込められた一太刀が迫る。


 よけるのは簡単だ。


 だけど、ここでよけたところで決闘は終わらない。


 それに、騎士戦術の型がどれほどのものか見てみたい。


 好奇心、これはただの好奇心だ。


 俺も剣に魔力を込める。


「これで終わりっ!!!!!」


 剣と剣が交わり、衝撃が地面にまで伝わっていく。


 重いけど、まだまだ、だな。


 俺は流れる滝のようになめらかに横へ受け流した。


「え…………」


 その光景にアリステラは驚きの表情を浮かべた。


 たしかに、強力な一撃ではある。まともに食らえば、たとえ魔力で身を守っていたとしても、ケガでは済まない。


 だけど、俺はスペックだけは高いライン・シノケスハットだ。


 魔力で剣の強度を上げて、あとは体が勝手に相手の攻撃を受け流す。


 まるでそれが自然の行動かのようにこの体は12歳にして、やってしまう。


 俺が強いんじゃない、この体が強いんだ。


「これで終わりだ」


 受け流された護衛騎士はそのまま重心が前にかたより、バランスを崩す。


 俺はそのまま後ろへ回り込み、峰打みねうちを首にくらわし、そのまま護衛騎士はバタっ!と倒れた。


「す、すごい…………」


「ご主人様なら、当然ですよ、アリステラ様」


「本当にすごいです…………」


 あまりのもあっけない決闘ではあったが、アリステラにとってどう映ったのか少し気になるところだが、あの表情を見れば十分だな。


「アリステラ様」


 俺は振り向き、目線を送ると。


「こ、この決闘、ライン様の勝ちですっ!!」


 アリステラの声とともに決闘に決着がついた。

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