第21話 失望したぞ、アルル
暗殺者とは本来、表で戦うことがない。
そのため、訓練は基本、気配の遮断、闇に紛れ、時間をかけずに殺すやり方をひたすらに鍛える。
けど、その暗殺者はよくて二流だ。
私は違う。
暗殺者という生業は時にして
もし、周りに隠れる場所がなかったら、もし敵を仕留めそこなったら、あらゆる不祥事に対応できてこそ、真の暗殺者だ。
そう、この私のように。
「ふん、ちょこまかと、攻撃してきやがって」
アルルは距離を置きながら、クナイを投げて攻撃していた。
おそらく、相手の出方や癖を観察しているんだ。
「これだから、暗殺者は…………だが、これじゃあっ!!」
鋭く投げられたクナイを平然とした顔で掴み取った。
「負けるのはお前だ、暗殺者」
シャルガーの言うとおりだ。
これはもはや、長期戦。
動いていないシャルガーと動き続けているアルルのことを考えれば、圧倒的にアルルが不利だ。
「バカなんですか?あなたは、私がずっと何も考えずにクナイを投げていたとでも?」
「あ?はったりか?」
「下を見なさい」
「下だぁ?…………んっ!?これは」
下を見ると札がついたクナイがシャルガーを囲んでいた。
「起爆」
アルルがそう言うと、クナイが閃光を放ち、爆発した。
だが。
「…………やっぱり、この程度では死にませんか」
「あったりめぇだ、俺を何だと思ってやがる」
煙幕が晴れると服だけボロボロになったシャルガーが平然と立っていた。
「さてと、ウォーミングアップはここまで、それじゃあ、今度は俺からいかせてもらうか」
アルルは完全に気配を遮断し、姿を消している。
しかし、シャルガーはにやりと笑い、剣を構えた。
そして、何かを感じ取ったのか、即座に後ろへと振り向き、空を切り裂くほどの斬撃を繰り出した。
「ふんっ!!」
キンっ!と鳴り響く金属音。
そこにいたのはクナイでシャルガーの攻撃を防ぐアルルだった。
「ん…………」
「見つけたぜ、暗殺者」
「ど、どうして…………」
「どうして?ただの勘だが?」
元バエルの幹部、シャルガーはガングと違い、戦闘における勘が、ずば抜けて冴えている。
勘というのは理不尽で、いくら気配を消そうといくら陰に潜もうとわかってしまう。
アルルにとって相性最悪な敵かもな。
「でりゃぁ!!」
シャルガーが力で押し切ると、アルルは後方へ下がった。
「お前の動きは大体わかった」
「わかったような口を」
「わかったさっ!もう、お前は俺に勝てねぇ」
アルルが不機嫌そうな表情を浮かべた。
「いいでしょう、なら正面から叩き潰してあげる」
「できねぇよ、おまえごときじゃ」
「くぅ!?」
地面を蹴り上げ、一瞬で懐に入り込む。
「動きがワンパターンだぜっ!!」
読んでいたのか、足を止めたのとほぼ同時にシャルガーの剣が迫る。
しかし、そこで札がついたクナイがシャルガーの目の前を通り、起爆した。
「うぅ!?」
シャルガーの視界が煙で遮られ、まっすぐに迫ってきた剣が鈍ったところを見計らい、シャルガーの腹部にクナイを突き刺す。
「ぐぅ!?小癪なぁぁ!!」
すぐに真横に振られた剣は見えていないはずなのにアルルをとらえた。
アルルは高く飛びながらシャルガーの攻撃をよけ、後ろへ下がりながら、数本クナイを、シャルガーに向けて投げこむ。
見事にすべて直撃し、シャルガーは膝をついた。
「くぅ、急に俊敏になるじゃねぇか」
「ふぅ…………速さには自信があるので」
アルルが汗を拭った。
その意味は俺は深く受け止めた。
アルルの限界、いや、俺から見たアルルを一言で表すなら。
『弱くなった』だ。
おそらく、ずっと暗殺者として活動していなかったことが彼女の実力を著しく落としてしまったんだ。
断言しよう。今のアルルは原作最強の暗殺者とはいいがたいことを。
「だが、この程度じゃあ、俺を殺せねぇ、ふんっ!!」
シャルガーが力を入れると、突き刺さったクナイはこぼれ落ちる。
「かすり傷だな」
「…………まだまだ戦いはこれからです」
アルルは慎重に動いているが、シャルガーのあの余裕そうな顔はきっとまだ何かある。
これ以上の戦いは無意味だ。
「ふん…………はぁぁぁぁぁぁ!!」
アルルよりも早いスピードで間合いを詰め、よける暇も与えずに剣をふるう。
ぎりぎりのところで反応し、咄嗟にクナイで防ぐも後方へ吹き飛ばされ、後ろの木に強く背中をぶつけた。
「速さに自信があるんだったけ?それにしては…………俺よりおせぇじゃねか」
「うぅ…………」
表情が崩れた。
今、完全にシャルガーの独断戦場と化した。
俺は溜息を吐きながらボソッと呟いた。
「もう見ていられないな」
木にもたれかかるアルルは、立ち上がろうとする前にシャルガーが正面に立ち、剣を構える。
「これで終わりだぜ、暗殺者っ!!」
振り下ろされた剣に思わず、アルルは目を閉じた。
ここで終わりだとそう思った。
だが、鳴り響いたのは暗殺者の悲鳴の叫びではなく金属音だった。
「あん?」
「ご、ご主人様!?」
シャルガーの一撃をラインは剣で防いだ。
「離れろよ」
軽くシャルガーの剣をはじき、素早く腹にめがけて足蹴りをくらわした。
みぞおちに食い込みシャルガーは後方へ吹き飛ばされる。
「も、申し訳ございません」
顔を伏せて、アルルらしくない声でそう言った。
まぁ今回は相性が悪かったし、しょうがないといえるが、それではこいつのためにはならない。
なら今、投げる言葉は決まっている。
俺はアルルを見下し、冷たい声で言った。
「失望したぞ、アルル」
「うぅ…………」
アルルは顔を上げず、こちらを見ようとしない。
彼女は今どんな表情を浮かべているのだろう。
腹を抱えて、ゆっくりと立ち上がるシャルガーに俺は視線を向けた。
「くぅ、みぞおちとはな。効いたぜ、今のは」
「そうか、それはよかったな」
「しかし、まさか介入してくるなんてな、仲間思いでいいことだっ!!」
「…………だろう?こう見えても
「はははははははっ!お前、本当にライン・シノケスハットか?」
「それは、どういうことだ?」
「俺が知るライン・シノケスハットは冷酷非道、仲間なんて作らねぇし、容赦もしねぇ。なのに、お前は守った…………お前、誰だよ?」
「お前が知る、ライン・シノケスハットだ。ふざけたこと言ってないで、さっさと剣を構えろ、俺が相手してやる」
「笑えねぇぞ、その冗談はよ」
「いっただろ?アルルに勝てないようじゃ、俺と戦う権利すらないって、お前はアルルに勝った。だから戦ってやるんだよ」
「小僧が、いいぜ、お前を殺して、ボスの手向けにしてやる」
「できるといいな?」
たかが12歳の俺が、勝てるか勝てないか。
結論、勝てる。
なぜかって?
それはもちろん、負けると思っていたら、最初っから逃げているからだ。
見せてやるよ、勇者に引けを取らないライン・シノケスハットのスペックを。
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