第44話 大都市セイカに残った理由
魔族に似た気配がした。
それは間違いなかった。
でも、彼の後ろ姿を見たとき、ふとラインさんの後ろ姿と重なった。
きっと見間違いだと思って、彼を観察するようにした。
巨体のワニとの戦いのとき、こんなところで立ち止まっていはいられないと思った。
自分の成長の限界、その悩みは常にまとわりつき、焦っていたからだ。
そして、ついに限界を知った。
まだまだ私は弱い。周りが私をほめようと、弱いものは弱い。
ここで終わる、そう思ったとき、彼が助けてくれた。
またラインさんと重なった。
違う、この人はラインさんじゃないっ!
自分でそう言い聞かせながら、彼の後ろを姿を見守った。
無駄のない魔力操作、無駄のない剣戟、私とは比べ物にならない強さ。
彼は私よりもはるかに強いことを見せつけられると同時に、その剣を私はどこかで見たことがあるような気がした。
あまりにも無駄ない剣。その剣はまるであの人の…………。
私は首を横に振って、思い直した。
彼以上に強くなると。
この決意と思いは、勇者シンに多大なる影響を及すことになる。
□■□
依頼を終えた俺たちは、冒険者ギルドに立ち寄り、依頼を完了したことを知らせた。
「報酬金は山分けでいいよね?」
「いや、君たちに全部やる」
「なぁ!?半分はあなたの手柄、ちゃんと受け取って」
「お金には困っていないんだ。それにこれから君たちはよりお金が必要になってくるだろ?これは投資だ、勇者様」
「うぅ…………私を馬鹿にしているでしょ!」
「馬鹿にしてませんよ、勇者様」
「その言い方、気にいらない!ちゃんと私にはシン・テラスという名前があるんです!」
「そうですか…………シンちゃん」
「ちゃん付けはやめて!」
なんとも言えない光景にアリステラとアルルは眺めていた。
「仲良くなってよかったですね」
「はい…………」
「そういえば、なんですか?どこかで会いませんでしたか?」
「これで会ったのが初めてです。それにもう会うことはないでしょう」
「そうですか、それは残念です」
「…………アリステラ様、あなたが何を考えているのか私ごときでは測れませんが、下手なことはしないように」
「ど、どういうことですか?」
「そのままの意味です」
勇者と一緒に行動することで、現状の勇者の実力を見ることができた。さらに、少しだけ仲良くなり、俺のことを責めなくなった。
そして、ついにお別れの時間がやってきた。
「まだ疑いが晴れたわけじゃない。でも…………悪い人じゃないと思った」
「わかればいいんだよ」
「その態度…………もう少しどうにかならないの?」
「俺は悪くないし、仕掛けてきたのはそっちだ。それじゃあ、機会があればまた会おう」
「私はもう会いたくない。いこう、アリステラ」
「それではみなさん…………」
勇者シンはアリステラの手を握って一緒に行ってしまった。
その後ろを姿を見届けた後、俺は背伸びをしながら、空を見上げた。
もう日が沈み、夜空が広がっている。
「もう1日が終わったのか…………早いな」
「ご主人様、そろそろ着替えないのですか?」
「そうだ、もともと着替えるために宿を探していたんだったな」
近くの宿に立ち寄り、いつもの服装に着替えた。
今思えば、変なところで時間を使ってしまったけど、ある意味いい時間だったかもしれない。
それにしても、勇者シン…………どこかで見たことがあるような気がしたんだが、結局思い出せなかった。
まぁ、世の中、似ている人なんてたくさんいるし、気にすることでもないな。
「ご主人様…………」
「うん?」
「これから何をするのですか?」
「ああ、そういえば言ってなかったな。魔女に会いに来たんだよ」
「ま、魔女ですか?」
「ああ、魔王に次ぐ厄災、灰色の魔女…………アンノウンに」
「…………ご主人様、灰色の魔女は伝説上の存在ですけど」
「そうだな」
「いる、と思っていらっしゃる?」
「ああ、そうだが」
「…………一度しっかり寝たほうがいいと思います、ご主人様は疲れています」
「おいおい、失礼な奴だな!」
灰色の魔女アンノウン、物語に語られる伝説上の存在というのが一般認識だが、実を言うと実在している。
その身には絶大な魔力と力を有し、呪いを常にばらまき続ける魔女。
「灰色の魔女アンノウンは確かに実在する。自信を持って言える」
「では一体、その灰色の魔女はどこに?」
「アルゼーノン帝国の王城内にある、隠された地下…………そこに灰色の魔女アンノウンはいる。というわけで、アルルの出番だ。修行で身に着けた実力、俺に見せてくれ」
「…………わ、わかりました」
「頼りにしてるぞ、アルル」
とはいえ、王城の地下に侵入するのは難しい。なにより、さっき会談があったばかりだし、ラプラスのメンバーであるとばれるのは一番最悪なパターンだ。
特に心配することでもないかもしれないけど。
「今から侵入しますか?」
「そのつもりだ」
「…………あの一つお聞きしたいですけど」
「なんだ?」
「その灰色の魔女と会って何をするおつもりですか?」
「…………それは会ってからお楽しみだ」
「ご主人様、お楽しみが多いですよ」
「そのほうがワクワクするだろ?」
「私は不安が大きくなりました」
「大丈夫だって、死ぬことはないからさ」
「これも、ご主人様に忠誠を誓った身としての試練…………それでは、さっそく向かいましょう。王城の地下へ」
「そんなに嫌なら、俺一人で行くが」
「いえ、やりますっ!やりますっ!!」
「わ、わかった」
こうして、アルルと一緒に王城に侵入するのであった。
□■□
暗い牢獄の中。
誰もがその場所を知らず、誰も覚えていない禁域。
「はぁ、いつまでこんなところで縛られていないといけないんだろ」
彼女は不満を漏らしながらも鎖に縛れている。
両手両足、そして首、すべてを鎖でつながれ、自由を奪われている。
「…………誰か、来ないかな」
彼女はのんきに暗闇の天井を眺めた。
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