第45話 灰色の魔女に会いに行こう
アルゼーノン帝国の王城には簡単に侵入できた。
陰に忍びながら、王城に侵入後、俺の案内のもと無事に隠された地下室を見つけ、周りを警戒しながら、アルルが地下室のカギを開ける。
「開きました」
「よくやった」
俺たちはそのまま地下室に侵入し、階段を下りていく。
いつまでも下に続く階段に頭がおかしくなりそうになりながらも、進んで行く途中、牢獄のような空間が姿を見せた。
「特に扉の向こうには誰もいないようですね」
「そうだな」
昔は牢獄として使われていたんだろう。
整備状況から見るに、もう誰もここに訪れていないことがわかる。
「前に進もう」
俺たちはさらに前へと進むと、真っ黒な扉が見えた。
「ご主人様、この扉の先から嫌な感じがします」
「ああ…………ピンピンだ」
この先にいるのは間違いない。
ただ…………。
俺は真っ黒な扉に触れると、軽くはじかれる。
「やっぱり、封印が施されてるな」
「ノータちゃんを呼びますか?」
「いや、大丈夫だ」
この封印は別に魔法使いが必要なわけじゃない。
たしか、合言葉は…………。
「ふぅ…………”アンノウン超かわいい”」
「え…………」
少しの沈黙の後、真っ黒な扉が普通に扉へと姿を変えた。
「この扉は特定の言葉をキーに封印が解けるようなって…………なんだ、その目は」
「いえ、なんでもない」
「ないなら、いくぞ」
扉を開けてさらに奥へと進んでいく。
そしてまた新たな扉が現れる。
これが最後の扉だ。
「アルル」
「はい」
「魔力でしっかり身を守れよ。少しでも気を抜くと呪われるぞ?」
「じょ、冗談ですよね?」
「本気だ」
アルルはすぐに魔力で体を覆った。
これで大丈夫だな、よし。
「それじゃあ、開けるぞ」
ゆっくりと重い扉を開ける。
その先は真っ暗で何も見えず、何もない。ただ真っ暗な空間が広がっていた。
「ここに灰色の魔女が?」
「…………ふん、いくぞ」
「あ、はい」
俺ただ前に突き進んだ。何も迷わず、寄り道せず、前に進み続けた。
「あれは」
「見つけたぞ」
一筋の光が見えた。それはある一転を指しており、そこには人影が見えた。
この真っ暗な地下で一筋の光。本来ならありえないはずなのに、その不自然さに気づけないほど、その一点に集中していた。
さらに前に進む。ただ一筋の光が差す場所へと歩き続ける。
「あれは…………」
「アルル、彼女が灰色の魔女だ」
一筋の光に照らされる傷一つない可憐な少女。
真っ白な長い髪と白い肌、その美貌は男女問わず虜にするほどだ。
鎖で身動きを封じられ、今すぐに助けたい、そんな気持ちがわいてくる。
「アルルそれ以上動くなよ」
「あ、はい」
アルルが一瞬、灰色の魔女に近づこうとした。
これが魔女特有の呪い。男女問わず虜にする美の呪いだ。
俺はゆっくりと近づき、声を掛けた。
「初めまして、灰色の魔女アンノウン。俺はライン・シノケスハットだ」
するとアンノウンは顔を上げて、こちらを見つめた。
「あなた、呪いが効かないの?」
「ああ、残念なことにな。それにしても、長くここにいて飽きないのか?」
「すごく退屈だよ。でもこの鎖が私を離さない…………」
「そうか、それは不便だな」
「何しに来たの?」
「そうだな、君を助けたに来た…………とか期待した?」
「少し期待したよ…………でも、その気がないことはすぐに気づいたよ。私の眼は人の噓がわかるからね。君は、とても真っ白だ。真っ白すぎるがため気味が悪い…………いったい何者?」
「いっただろ?俺はライン・シノケスハット。ただの貴族だよ」
「そう、それでさっきの質問に答えてくれない?」
「ああ…………灰色の魔女である君に一つだけ聞きたいことがあったんだ。今の俺が全力で戦って魔王に勝てるのか、教えてくれないか?」
「ふん、変なことを聞きに来たね。そんなの戦ってみればわかることだろ?」
「俺は確信が欲しいんだ。今の実力でどこまで戦えるのか、果たして、勝てるのかな」
「…………私を解放してくれた答えてあげてもいいよ」
「わかった。解放してやる」
「…………え、本当?」
少しの間の後、キョトンとした声でそう言った。
「本当だ、噓だと思うか?」
「噓じゃないみたい…………それじゃあ、どっちが先に約束を果たそうか」
不気味な会話だ。
主導権を握られる感覚もなければ、何か仕掛けてくる気配もない。
「それじゃあ、今から解放してあげるよ」
「できるのかな?この鎖はどんな剣でも切ることができないんだよ」
俺は普通に剣で鎖を切った。
「え」
「普通に切れるけど」
「…………どうなってるの!?」
「知らん」
知っている。この鎖は普通の剣では切れない。切れるとしたら、勇者が持つ聖剣か、魔王が持つ魔剣、もしくは高密度の魔力を込めた剣だけだ。
俺は常にうちに魔力をためているから、簡単に高密度の魔力を込めた剣を作り出せる。
ためていたのが功を奏したというやつだ。
「これで晴れて自由だ。灰色の魔女」
「本当に解放してくれるなんてね、君変だよ?」
「変で結構、それじゃあ次は俺の約束を果たしてもらおうか」
「いいよ…………それじゃあ、今できる限り、全力で魔力を解放しようか」
「なるほどね…………いいよ。ただ…………」
「わかってるよ、ちゃんと結界ははるからさ」
灰色の魔女は指を鳴らすと目に見えない結界を張り巡らせた。
強すぎる魔力に一般人があてられると普通に死ぬからな。それだけは気を付けないと。
「これで準備万全だ。さぁ、見せてくれ…………」
「ああ…………」
魔力の全開放。
普通の人は魔力を内にためたりなんかしない。なぜなら、自分の許容量を超えれば、内から爆発して死ぬからだ。
でも、もし勇者と戦うことになった時のために俺は魔力をためている。
デメリットがありながらためる理由、それは単純だ。
この体なら許容できるからだ。
だからこそ、今だけ、ためていた魔力を一時的に開放する。
「ふぅ…………っ!?」
内からせき止めていたものが流れ出す。
荒波のようにあふれ出し、結界内が俺の魔力で満たされていく。
「ご、ご主人様!?」
その場に踏みとどまるアルル。気を抜けば、飛ばされそうなほど勢いよく魔力が流れ出ている。
「へぇ…………すごい魔力量だ。人の身で許容できる量じゃないと思うんだけど」
「それはうれしいね。それで返答は?」
俺はすぐに魔力を抑え込んだ。
ただ開放するだけなのに、ひと汗をかき、息が上がる。
やっぱり、開放するだけは燃費が悪いな。
「う~~~~ん、うんっ!勝てないね」
「なぁ!?」
アルルは驚きの表情を見せた。
あれほどの魔力量があるのに、それでも魔王に勝てない。魔王というのどれほどの怪物なのか、想像してしまう。
「………やっぱり、勝てないか」
「予想していたの?」
「ああ、でも万が一ってことがあるかなって?でも君が言うならそうなんだろう。残念だ」
勇者より先に魔王を倒すのはなしだな。
「それはそうと、今君は誰の前にいるのか認識しているかい?」
灰色の魔女から鋭い殺気を感じた。
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