第18話 仲睦まじいラインとアリステラ

 ミノタウロスが最初に見つかったのはシノケスハット領土から北西方向にある小さな村とのことだった。


 その村で被害者は出なかったようだが、別の村でちょくちょくと被害者が出ているとアルルから報告を受けた。


 全く、どうして親はこのことを黙っていたのか、呆れてしまう。


 まぁシノケスハット家だからしょうがないといえるが。


「荷物はオッケーだな、剣も持ったし、アルルは?」


「はい、私も準備万全です」


「そうか、ノータは…………連れて行くのはやめよう。忙しい時期だしな、アルル、地図」


「はい、こちらに」


 机に広げられた大きな地図、この地図はシノケスハット領土だけを正確に記した地図で、これを見れば、シノケスハット領土のすべてを把握できる。


「北西だから、ここらへんか…………たしか、村の名前は」


「スピタ村です」


「てことは、ここだな。そこから、少しずつ、南下しているんだっけか?」


「その通りです、ご主人様」


 アルルが独自に調べた情報では、ミノタウロスは南下しているとのことだ。


 シノケスハット家の家はシノケスハット領土の中心から南側にある。


 もしかして、この家を目指しているんじゃないだろうな。


 進路方向は完全に南に下っているとみていいし、この可能性は十分に考えられる。


「よし、とりあえず、スピタ村で話を聞いてから、南下して進んでいこう…………ってあの二人はどうした?」


「それがまだ準備中のようですよ?」


「お、遅すぎないか?ちょっと、見てきてくれ」


「わかりました」


 アルルがすぐそこにある部屋に入ると、「きゃーーーっ!」と叫び声が響き渡った。


 俺はすぐに隣の部屋の扉を開けると。


「どうしたっ!!って…………何してるんだ、お前ら」


 視界に広がったのは、下着姿のアリステラと護衛騎士、そして茶色に輝く虫と格闘するアルルの姿。


 俺は一瞬、思考が停止し、頭を横に振って再び前を向いた。


 これ、どういう状況だよ。


「ご主人様!大変です、虫ですっ!虫が出ましたっ!!」


 虫と変なポーズをして対峙するアルルと、顔をリンゴのように染める二人。


 どっちを先に処理すればいいんだ。


 今、俺は人生最大の試練にぶち当たっている。


 本来見ることのできない、アリステラの下着姿。


 一生、見ることができないだろう。


 だが、ここでツッコンでしまえば、虫が襲い掛かりさらにこの状況がややこしくなる可能性がある。


 ここは、虫からだっ!


 パッ!


 と掴み。


 ポイッ!


 と窓を開けて、投げ捨てた。


「ふぅ…………」


 これでひとまず、大丈夫だろ。


 振り返ると、状況は変わっておらず、視線が俺に集中していた。


「あれだ、見られたものはしょうがないし、減るものではないだろ?うんうん、そうだ、減るもんじゃないな」


 っと捨て台詞ゼリフをはくと、アリステラが近くにある護身用の剣を掴んだ。


「あ、ああ、えぃーーーーーーーーーーーーっ!!」


 そして、ためらうことなく勢いよく投げる。


「ヘブシっ!」


 護身用の剣が頭に直撃した。


 よけれたけど、ここでよけたらややこしくなりそうだし、わざとよけなかった。


 それに、原作ファンとしていいもの見せてもらいました。


 ごちそうさまです。


 っと心の中で手を合わせるラインだった。


□■□


 二人の準備が終わり、これからどうするかを説明した。


「つまり、スピタ村で話を聞き、少しずつ南下しながら調べていくってことですね」


「そういうことだ…………いてて」


 わざとよけなかった、とはいえ、思った以上に痛かった。


 おでこが真っ赤に腫れ上がっているのがその証拠だ。


 そんな姿をアリステラがずっと涙目になりそうになりながら心配そうに見つめていた。


「あ、あの…………」


「なんだ?」


「す、すいませんっ!!」


「謝らなくていい、俺が悪かったからな」


「いえ、私たちが虫におびえてしまったばっかりに、本当に聖女としてお恥ずかしいです」


「そんなことはどうでもいいんだよ」


「でも…………」


 ウルウルした瞳で見つめてくるアリステラ。


 あれか、これはお節介さんってやつか。


 別にこれぐらいの傷、すぐに治るし、気にする必要すらないんだが、ここは一言、言わないと場が収まらなさそうだな。


 俺はゆっくり右手を挙げて、アリステラの頭をポンポンっと軽くたたいた。


「へぇ?」


「これでお相子だ。これでいいだろ?」


 すると、アリステラの頭がボッ!って爆発して、頭から湯気が上がった。


「だ、大丈夫かよ」


「だ、大丈夫ですっ!!」


 アリステラは熱くなるほほを両手で押さえながら、視線をそらし、小さく小言で。


「ポンポンって、ポンポンってーーーーそれにあの顔もステキすぎてーーーーあぁ…………」


 その後ろ姿に首を傾げるライン。


 そんな様子に、護衛騎士は意外そうな表情を浮かべた。


「あんな、アリステラ様、初めて見ました」


「案外、これが素なのかもしれませんよ、護衛騎士さん」


「アルルさん…………そうかもしれませんね」


 仲睦なかむつまじい様子の二人に微笑むアルルと護衛騎士。


「あんまり無理するなよ、アリステラ……様」


「ほ、本当に大丈夫ですよ、あと様もいりません」


「でもなぁ…………変なところで、様付けが抜けると困るんだが」


「私がいいと言っているんですっ!い・い・ん・で・す!!」


 ほほをプクっと風船のように膨らませる。


 か、かわいい…………ってそうじゃないっ!


「そ、そうか、じゃあ、これからはアリステラって呼ぶか」


「はい、そうしてください、ライン様」


 俺が呼び捨てで、アリステラは様付けっておかしいと思うが、ツッコミはやめておこう。


「よし、みんなというか、二人は準備できたな」


「はい、大丈夫です」


「準備ばっちりです」


「よし、なら早速、向かうぞ」


 こうして、俺たちはアリステラ様が乗ってきた馬車に乗ってスピタ村へと向かった。



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