第30話 シリグアム皇帝主催のパーティー

 数日後、アリステラとネロは聖人教会へと帰っていった。


 別れは突然ではあったが特に驚くことでもなかった。


 ただ少し恐れていることがある。


 それはアリステラが右腕を失ったことに対してどうなるか、という問題だ。


「だ、大丈夫だよな」


 そんな不安を抱えながらさらに数日後、ミノタウロス討伐の実績がなぜか、シノケスハット家の長男、ライン・シノケスハットが一人やったことになり、多大な評価を受けることになり、その結果、皇帝主催のパーティーが開かれることになった。


「すごいですね、ご主人様」


「こんなに豪勢なご飯、初めて見たっ!」


「そりゃあ、そうだろ」



 変異種であるミノタウロスを単独で討伐したを勇敢な男っ!ライン・シノケスハットっ!!もしかして、新たな勇者の誕生か!?



 なんて記事がアルゼーノン帝国全土に広まり、王城で皇帝主催のパーティーが盛大に開かれることになり、現在に至る。


「ライン様!あの肉食べたいっ!」


「好きにしろ」


「やった~~~~」


 ノータは並ぶ料理に向かって走っていった。


 屋敷でもかなりいいモノ食べさせるように言ってあったんだが、やっぱり、皇帝主催となると、出される料理も豪勢で、一品一品がなかなか食べられないものばかり。


 ノータがあれだけ食いつくのがその証拠だ。


「もう、今回のお祝いはご主人様が主役だというのに」


「別にいいさ。滅多に経験できない皇帝主催のパーティーだ。むしろ、あれぐらい気楽のほうがちょうどいい」


 今回のパーティーはアルゼーノン帝国の皇帝、シリグアム皇帝陛下が自ら開いたパーティーだ。


 なぜ、シリグアム皇帝陛下が自ら開いたのか、その理由は見当けんとうがつく。


 変異種のミノタウロスの単独討伐だ。


「はぁ、まさか、こんなことになるなんてな」


 変異種の単独討伐がどれくらいすごいのか。


 例えるなら、魔王軍幹部を討伐する際、一人で討伐するか、多人数で討伐するぐらいの差がある。


 まぁ単独討伐に関して完全に噓だから少し、心から苦しいが。


「いいじゃないですか。これで、ご主人様の悪名もさっぱり消えるでしょうし」


「だといいがな」


 パーティーが開かれるのはいい。


 だが、一つだけ困っていることがある。


 それは記事に書かれた、あるワード『勇者』について。


 もしかして、新たな勇者の誕生か!?


 という文言だ。


 俺が勇者なわけねぇだろっ!と思いつつもそう思ってしまって記事を書く人たちの気持ちがわかる。


 勇者は誰もが求める光だ。


 期待してしまうのも無理はない。


 それに皇帝がパーティーを開いたのもどうせ勇者である可能性があるからだろうし。


 はぁ、なんか、幸先さいさきが不安するぎるんだが。


 皇帝主催のパーティーは順調に進んでいき、ついにシリグアム皇帝陛下が姿を見せ、全員が頭を下げ、最奥にある席に座るのを待った。


 シリグアム皇帝陛下が座ると、低く重圧のある声で言った。


「みな、面を上げよ」


 その掛け声とともにみんなが頭を上げた。


 最奥にある席で足を組む一人の男。


 あれが、シリグアム皇帝陛下か。


 鋭い目つきに、その場にいるだけで空気が重く感じるほどの覇気。まさしく、皇帝という名にふさわしい風格がある。


此度こたび、変異種であるミノタウロスの単独討伐。その功績はアルゼーノン帝国の歴史に刻まれるほどの偉大な功績であり、帝国にとっては名誉ある功績でもある。それを成し遂げたのは、わが帝国において、三つの山岳さんがくの一つである、シノケスハット家…………その長男、ライン・シノケスハットであるっ!」


 皇帝の声に周りの貴族たちは緊張感を漂わせた。


 それほど、皇帝の言葉に重みがあり、自然と手汗がにじみ出る。


 シリグアム皇帝陛下、原作ではちょぴっとしか登場しなかったけど、さすが皇帝って感じがするな。


「表に出よ」


 その言葉に俺は一人でシリグアム皇帝の前に姿を現し、膝をつき、頭を下げた。


「此度の実績は素晴らしいものだった。まだ12歳という若さでそれほどの才能があれば、今後もこのような機会がたくさんあろう。期待している」


「ありがとうございますっ!シリグアム皇帝陛下!!」


「うむ、それでだ。ただのミノタウロス討伐なら、このような場を設けん。だが変異種であるミノタウロスを単独で討伐した貴殿には相応の報酬を与えねばならない。ライン・シノケスハットよ、汝は何を望む?」


 これは試されているのか?はたまた、ただ報酬を聞いているのか。


 わからない。


 けど、ここは正直に。


「でしたら、私に東洋大陸にあるアキバに行く許可をくださいっ!!」


「ほほ、それはなぜだ?」


「東洋大陸にある国は剣術の技術が高いと聞きます。私はそこでさらに技術を高めたいのですっ!」


 商人や外交を除き、貴族や市民が他国に行くにはその他国に許可を取らなくてはいけない。


 そして他国に許可を得るには、自分が住む国の王が許可を出すために動かなくてはいけない。


 それはすごく手間のことで、承認されたとしても許可出るのが1年、10年とかかったりする。


 という設定がある。


 今の身分上、他国に無断で踏み入れるのはリスクがある。


 ここで、許可を得るのが最善の選択だと俺は確信している。


「なるほど、すでに十分な実力をさらに磨き、広めようということか、いいだろう。今週中に許可を出しておこう」


「ありがとうございますっ!!」

 

「ライン・シノケスハットの褒美はここまでとする!かたぐるしいのここまでにしてパーティーを存分に楽しむとよいっ!!」


 こうして、パーティーの大本命が終わり、俺はアルルと一緒に夜風にあたっていた。


「ご主人様、アキバに興味があったのですか?」


「まぁな…………」


「何が目的で?」


「気になるか?」


「気になりますっ!!」


「ミノタウロスの戦いで自分の未熟さを思い知ったんだ。だから、アキバでちょっと腕のいい剣士を見つけて、師匠になってもらおうかなって考えてる」


「ご、ご主人様が師匠を!?じょ、冗談ですよね?」


「冗談なわけあるか」


 俺の中で死なないための方法を自分なりに考えてみたんだ。


 その結論は、自分も強くなりっ!そして仲間も強ければ死ななくね?


 すでに仲間は十分強いが、俺がまだ未熟だ。


 なら学園に入学する前に強くなってしまえば、たとえ主人公でも俺を殺せまい。


 まぁ、最悪の想定を考えての行動だが、別にここまでする必要はないかもしれないが。


 だが、念には念を。最悪な状況を考えてこそ、自分を守ることができる。


「でしたら、許可が出たら、すぐにアキバへ?」


「そのつもりだ。…………言っておくが、アルルとノータもつれていくからな。でも、嫌なら無理してついてくる必要はないぞ」


「いえ、私はご主人様に忠誠を誓った身ですから、どこまでついていきます」


「そうか…………」


 この世界はすでに原作ストーリーから外れている。


 だが、まだ15歳を迎えていない。


 学園編になれば、また何が起こるかわからないわけだし、残りの期間はそれに備えたい。


「パーティーは楽しめたかな?」


「こ、これはシリグアム皇帝陛下!?」


 俺とアルルはすぐに頭を下げた。


「下げなくてよい。なにせ、貴殿は主役なのだからな」


「あ、ありがとうございます」


 シリグアム皇帝陛下は隣に騎士をつれて現れた。


「しかし、まさか、12歳にして変異種であるミノタウロスを単独で討伐してしまうとはな。報告を受けた時は驚いたぞ。さすが、シノケスハット家の長男といったところか」


「お褒めいただき光栄です」


「それでだ。決して、実力を疑っているわけではないが、ここはひとつ、わが自慢の騎士一人と決闘をしてはくれぬか?」


「決闘ですか?」


「うむ、この場には疑っている者やねたうらやみ、何かしら仕掛けてくる者もいるだろう。そこで決闘だ。決闘を行い、自らの力を明確に示せば、誰も貴殿を疑う者はいなくなるだろう。どうだね?」


「わかりました、その決闘、引き受けましょうっ!」


「さすが、変異種のミノタウロスを単独討伐した男だ。決闘で戦うのはアルゼーノン帝国の中でも凄腕の騎士、ミハエルだ」


「よろしく、ライン様」


「あ、はい」


 ミハエルってアルゼーノン帝国の最大戦力だよな。


 まさか、こんなところでアルゼーノン帝国最強の騎士と戦うことになるなんて、不安しかないんだけど。


 こうして、アルゼーノン帝国最強の騎士ミハエルと決闘することになった。


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