第31話 アルゼーノン帝国最強の騎士ミハエル・バーゲンとの決闘

 アルゼーノン帝国最強の騎士ミハエル・バーゲン。


 原作では最後までアルゼーノン帝国のためにシリグアム皇帝陛下とともに魔王軍と戦った騎士として描かれていた。


 実力は原作最強の剣士に劣るものの、それを除けば一二いちにを争うぐらいに強いと原作では表現されているが、実際はどんなものかは知らない。


「皆のものっ!これより、シノケスハット家の長男、ライン・シノケスハットと騎士ミハエルの決闘を行うっ!勝敗はどちらかが負けを認めるまで続くものとする」


 皇帝の声に貴族たちがざわざわし始めた。


 決闘場所はパーティー会場のすぐ隣にある円状の場所。


 貴族たちはすぐに俺たちを囲んだ。


「緊張しなくて大丈夫ですよ」


「緊張はしていないので大丈夫です」


「そうか、つまり、決闘の経験があるんだね」


「あ、まぁ…………」


「隠さなくてもいいが、うん。あまり深く聞かないでおこう」


 騎士ミハエル、不気味な騎士だ。


 優しさに満ち溢れた笑顔はイケメンで一部の貴族が「きゃーーーーミハエル様!」っと盛り上がっているほどにだ。


 だけど、それ以上に何を考えているのか、底が知れない。


「それでは、決闘…………はじめっ!!」


 シリグアム皇帝陛下の掛け声とともに決闘が始まった。


「お互いによき決闘にしよう」


「そうですね」

 

 互いに剣を鞘から引き抜くが、そこから一歩も動かない。


 やっぱり、最初は動かないか、ならこっちから行かせてもらおう。


 足に力をためて、一気に前へ攻めた。

 

 その速さに周りの貴族やシリグアム皇帝陛下が驚きの声を上げた。


「早い!?」


 それはミハエルも一緒だった。

 

 懐へ簡単に踏み入れた俺は手加減せずに剣をふるった。


「想像以上の強さだ」


 剣で簡単にいなされ、ミハエルは後方へ後ずさった。


 完全に意表を突いたはずなのに、完璧に防がれた。


 さすが、アルゼーノン帝国最強の騎士ミハエル・バーゲン。


 だけど、俺はまだ本気を出していない。


 今でも覚えているんだ。ミノタウロスと戦っていた時、ずれていた部分がぴったりとはまった瞬間、この体が持つ本来の力を発揮できたことを。


「かかってこい、ミハエル」


「なるほど、なめていたのは僕でしたか」


 ミハエルは構えを変え、騎士戦術の型に切り替えた。


 ここからが決闘の本番ということか。


 そして、今度はミハエルが地面を強く蹴って、迫る。


 繰り出される剣戟をさばきながら、白熱した血統が繰り広げられる。


 その光景はまさしく、歴戦の騎士の決闘のようだった。


「これほどまでの実力とは」


「ふぅ…………」


 感覚はミノタウロスと戦った時と似ている。


 だが、死と隣り合わせのような緊迫感はなかった。


 長引くと面倒だし、そろそろ終わらせるか。


 お互いに一歩も譲らない中で、状況が動き始める。


 俺はさらに一歩を踏み出し、タイミングを見て、ミハエルの剣をはじいた。


「なぁ!?」


 さらに、一歩を踏み出し、隙をみせたミハエルに剣をふるうと、簡単に防がれてしまう。


 あの構えは防御戦術の型か。


 切り替えタイミング完璧だし、さすがアルゼーノン帝国最強の騎士だ。


 そして、防いだタイミングと同時にすぐに騎士戦術の型に切り替え、一気に距離を詰める。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 早いけど、防御には間に合う。


 だが、そこで俺は腕を止めた。


「んっ!?」


 ミハエルの一撃で俺の剣を弾き、そのままの勢いで、しりもちをついた。


 見上げれば、首元に冷たい剣先が当たる。


「ま、参りました」


「この決闘!勝者は騎士ミハエル・バーゲンっ!」


 そう宣言されたとき、見ていた貴族たちのほとんどが大声をあげて沸いた。


 それぐらい、外から見たらすごい決闘だったのだろう。


「ライン様、あなたは」


「いや、さすがミハエルさんだ。さすがです」


「あ、いや…………」


 何か言いたげそうにすると、シリグアム皇帝陛下が立ち上がり、大きな拍手を送った。


「素晴らしい決闘だったぞ二人ともっ!」


「あ、ありがとうございます」


「ありがとうございます、シリグアム皇帝」


「ラインよ、おしいところで負けてしまったが、よき経験となったはずだ。今後も磨くとよい」


「はいっ!」


「さぁ、パーティーの続きだっ!みな、会場内に戻るのだっ!」


 続々と会場内に戻っていく中、ミハエルさんが俺の前に立った。


「今の一撃、わざと防がなかったのか?」


 真剣な眼差しを向けられる。


「何を言っておられるのですか?私は正々堂々と戦い負けたんです。わざとなんて、シリグアム皇帝陛下の前でするわけがないじゃないですか」


「そ、そうだよな。うん、疑ってすまない。もしまた会う機会があれば、また剣をまじえよう」


「はいっ!!」


 二度とごめんだね。


 ミハエルと戦って感じたことは特に学ぶことないということだった。


 というか、相性が悪すぎるんだ、ミハエルと俺では。


「ご主人様」


「うわぁ!?びっくりした」


 去っていく背中を見ていると、アルルが背後に突然現れた。


「わざとですよね」


 じっと見つめてくるアルル。


 さすがにアルルの目はごまかせなかったか。


「…………まぁ、アルゼーノン帝国の騎士が12歳の若者に負けたら、それはそれで大変そうだろ?」


「たしかに」


「それに勝っても負けても俺に得なんてないし、だったら一番楽なほうを選ぶ。さぁ、俺たちもパーティー会場に戻ろう」


「そうですね」


 こうしてパーティーは無事に終わり、俺はシノケスハット家にとっても、アルゼーノン帝国においても期待の星として宣伝された。


 パーティーが終わった次の日はシノケスハット家内のみでの祝杯を上げた。


 思ったことはただ一つ。


 もういいよ…………だった。


 そして、気づけば1週間ほど過ぎた。


「ご主人様、シリグアム皇帝から許可が下りたとのことです」


「そうか」


 これでアキバに行くことができる。


「早速準備だ、アルル、ノータ!!」


「わかりました」


「は~~いっ!」


 こうして俺たちはアキバに行く準備を始めるのだった。


「その前にしっかりと、お父様、お母様に許可を取ってくださいね、ご主人様」


「そんなことはわかっている、子ども扱いするな!」


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