第47話 勇者シンとの最後の戦い
自分に待ち受ける未来、原作だと勇者シンの前に立ちはだかる中ボスとして現れ、最後にあっけなく殺される。
それが原作ストーリー、本来の道筋だ。
でも、俺が転生したことでそれは変わりつつある。本来集まることのない原作最強と呼ばれる者たちを集め、存在しない組織を作り、早い段階で聖女アリステラと関わった。
すべて、原作では起こりえなかったことだ。
本当に俺は勇者に殺されないのか?いくら頑張っても死ぬ運命からは逃れられないのか?不安だ、不安で仕方がない。
その不安を拭うように俺は、目を閉じたんだ。
「はぁ!?」
目を開けると、荒れた荒野が広がっていた。空は灰色の雲で覆われ、目の前には勇者シンだけが立っていた。
身長や見た目から、19才ぐらいだろうか。
「ここまです、ラインさん!」
勇者に選ばれた者だけが持てる聖剣ハーレを向けて言い放つ。
「ふぅ…………なるほど」
周りにはたくさんの死体が転がっている。よくみるとラプラスメンバーの正装を着ている。そして、俺の隣には原作最強の仲間たちの死体も転がっていた。
悪夢、なんて言葉がよく似合う。
もし、この状況が未来だと知っていなければ、俺は今頃、取り乱していただろう。
「ラインさん!!そろそろ、決着をつけましょう」
「…………そうだな」
俺も剣を引き抜いた。
どういう状況で、どうしてこうなったのか分からないが、きっとこれはいずれくる未来の一つなのだろう。
しかし、これほどリアルとは。
これが、灰色の魔女の力の一つ、未来共有というやつか。
静まりかえる空間、何の訪れもなく、戦いが始まった。
目にもとまらぬ速さで剣が交わり、いびつな金属音が響き渡る。
「くぅ…………」
「うぅ…………」
お互い一歩も引かない。だが、その差を埋めたのは圧倒的な体力差だった。
勇者の顔色を見るとここまで来るのにかなりの戦いを強いられたことがわかる。
「ふぅん!!」
勇者の聖剣をはじいた後、魔力を全開放した。魔力の貯蓄はマックス、完全にこちらが有利だ。
凄まじい威力の一撃が勇者シンを襲う。
よけるか、素早く聖剣で防ぐか。様子見の一撃をふるうと勇者シンは冷静に唱えた。
「光の盾!!」
勇者シンが叫ぶと目の前に神々しく輝く光の盾が生成され、俺の一撃が触れると帯びる魔力を一瞬で吸収した。
あれが、光魔法、光の盾。触れたすべての魔力を吸収するチート魔法だ。
「光の剣!」
光の剣が八本同時に生成され、射出する。
「ちっ」
光の剣をはじきながら後方へ後ずさった。
巨体のワニと戦った時は別格な強さ。光の剣を同時に八本生成させ、指のように操る魔力操作。
まさしく、勇者の名にたがわない実力、これは俺の知る勇者シンと思わないほどがいいな。
「俺も、本気で殺しにいかないとやられるな」
荒々しくその場をかき乱すほどの魔力が内から外へと吹き出した。
「…………やっぱり、すごいな。ラインさんは」
「急になんだ?」
「なんでもないよ…………私も覚悟を決めたってだけ!」
俺に呼応するように勇者シンからも膨大な魔力が吹き出す。その魔力量は俺の2倍ほどあり、圧倒的差を見せつけられたような気分だった。
これが、勇者の本気か…………笑えない。
この現実が示すことは一つだった。
いくら、お前が努力しようと勇者に勝てない。どれだけ高スペックで天才で強い仲間がいようと勇者の前では無意味だと。
俺はこの光景にそんなメッセージがあるのではないかと、感じた。
「こんな理不尽があるなら、転生しないほうがましだったかもな」
「いくよ、ラインさん!!聖剣、解放!!」
聖剣ハーレから膨大な魔力が放出された。その密度は濃く視認できるほどだった。そこに勇者シンの魔力が交わることで手足のように制御され、聖剣ハーレに黄金の魔力がまとう。
「こいっ!」
光を超える速度の剣戟が絶え間なく繰り出され、一度触れるだけで地面をえぐった。
すべてにおいて勇者シンは俺を上回っている。しかも、触れるたびに精度が上がり、より正確に強く狙ってくる。
長続きすればするほど確実に負けに近づいているのを感じた。
それでも、俺はその場の戦いをやめなかった。
「シン…………強くなったな」
「はい、強くなりました」
まっすぐな瞳、彼女はずっと俺をとらえて剣をふるっている。
ほんと、眩しいよ。その目が、その表情が、そのまっすぐな心が。
これが、灰色の魔女の見せたかったことなのか?なら、期待外れにもほどがある。
「でも…………勇者としては失格だ。その同情がお前を殺す」
「え」
俺の魔力がゼロになったとき、俺は本気になることができる。
ゼロの境地。魔力が限りなくゼロになったとき、一回だけ振るえる一閃。
師匠と一緒に生み出した、俺だけの剣だ。
剣同士がはじかれたとき、俺から魔力が消えた。そのことに、動揺する勇者シンの表情を見て、俺は静かに笑った。
「お前の負けだ」
俺の剣の刀身が真っ黒に染まり、異様な何かが漂う。それが何なのか、勇者シンには理解できず、同時にそれが危険なものであることに気づいた。
「ラインさん、それは!?」
「黒死一閃」
その一言にともに振るわれた一撃は勇者シンを飲み込んだ。大地を割り、触れたすべてのものを灰と化した。
「これで俺の勝ちだ…………うぅ」
刀身は砕け散り、俺は吐血しながら膝をつく。
「はぁ…はぁ…はぁ」
魔力を限りなくゼロにすることを条件に使えるこの一撃は、かなりのリスクがある。
魔力を限りなくゼロにするということはその後、戦えなくなるのは目に見える。それがどれだけのリスクか、戦いにおいて魔力は第二の命。つまり、この一撃で決めなければ負けるということだ。
「これが、お前の見せたかったことなのか…………灰色の魔女!!」
後ろへ振り返るとそこには、興味深そうに眺める灰色の魔女アンノウンが立っていた。
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