最終回 原作ストーリー、そして訪れる春
灰色の魔女が俺の後ろで立っていた。
「見せたかったこと…………というのは違うよ。ただこれは、君が待ち受ける可能性の一つ、ただそれだけ」
「…………そうか」
「しかし、意外とすんなりと殺すもんだから、驚いちゃったよ。もしかして、君…………結構、冷たいね」
「ああ、そうだな。俺は意外と冷たい…………何よりこれのせいで、改めて自分の抱いているものに気づかされた」
「おかしいことじゃないよ。誰だって死は怖いものだ。それこそ、私もそうだしね」
胸を張って言い張る灰色の魔女。
俺は溜息を吐きながら、訪れるかもしれない結末の光景を眺めた。
たくさんの死体、荒れた荒野、これがもし本当に訪れるのだとしたら、最悪な未来だ。
「こうなった原因はもちろん、君と勇者にもあるけど、それ以上に大きくかかわったのは魔王だよ」
「魔王?」
「そう、魔王アルマール、彼女は最後の最後で君たちを戦わせるきっかけを作り上げた。まぁ、理由は知らないけどね」
「全然、話が見えてこないんだが?」
「だよね、知ってた」
「…………頭でも打ったか?」
「ひどいなぁ…………私は正常だよ」
「ならいいが」
「ふふ、ねぇ、一つ質問してもいいかな?」
「おい、話を逸らすなよ」
「いいじゃん、もしこの質問に答えてくれたら、教えてあげるよ」
「…………わかった」
「ふふ、物分かりがいいね…………ライン、君はいったい何者?普通じゃないのはわかってる。だからこそ、それを踏まえて答えてほしい、君はいったい何者なのかな?」
彼女が見透かすように俺を見つめてくる。
灰色の魔女、彼女は原作ストーリーの裏ボス的な存在だ。はるか昔に生まれ落ち、世界を飲み込む程の強大な力をもって、世界の半分を支配した。
それは数千年後、魔族の地となる。ゆえに、彼女は魔女という名と、同時にこうも呼ばれることがある。
始まりの魔王と。
彼女を信頼してはいけない。彼女に恋をしてはいけない。彼女と目を合わせてはいけない。彼女とかかわってはいけない。
それが灰色の魔女であり、始まりの魔王なのだ。
「ふん…………」
なんて答えればいいのだろうか。
普通に転生者だと答えるべきだろうか。でも、それを信じてもらえる自信がない。たとえ、それを信じたとしてその後の彼女がどう動くのか。
灰色の魔女、今は9割ほど力を失っているが、それでも未来を見せるほどの力はある。なら、ここは当たり障りのない感じで答えるべきだ。
「ねぇ、まだかな?」
これ以上考えてもよけいに悩むだけだ。なら、ここは…………。
「俺は自分が待ち受ける未来を知っている。それこそ、自分の結末を…………だからこそ、俺は必死にもがいている。だから、君の質問に対してこう耐えるのが正解だ。俺はライン・シノケスハットだ」
「…………なるほど、わかった」
「満足したか?」
「満足したよ…………そして楽しみになった」
「やっぱり、お前は魔女だな」
「うん?なんのことかな?」
全くもって理解できない灰色の魔女。だけど、彼女からは敵意は感じないし、それに、そろそろこの空間が崩れるころだ。
空を見上げてみるといびつな亀裂が見える。
「そろそろ終わりみたい。それで、最後に君が知りたいことだけど、答えを言っちゃうと面白みがないし、これだけ言っておくよ…………魔王アルマールは君が何者かを知っている」
「んっ!?」
「それじゃあ、また会う機会があったら、優しくしてほしいな…………柊周人君」
「っ!?今なんて!」
そこで視界が闇に包まれた。
□■□
目が覚めると、アルルが俺の寝顔を覗いていた。
「何してんだ」
「え、ただ見守っていただけですが?」
「そうか」
ゆっくりと体を起こすと、灰色の魔女の姿はなかった。
あいつ、最後に最後に…………、まぁいいか。
窓を見るとまだ暗く、感覚的には2時間ほどだった。
「俺はもう寝る。アルルも寝ていいぞ」
「さっきまで寝てたじゃないですか」
「また眠くなったんだ」
俺はかけ布団に身を包み、目を閉じた。
「わかりました。それではお休みなさいませ、ご主人様」
アルルはそのまま部屋を出た。
□■□
春が訪れた。それは入学式の季節といっても過言ではない。
そう、俺は今、原作ストーリー序章の舞台であるアルゼーノン学園の正門前に立っている。
「今日で俺も学生か…………」
「考え深いですね、ご主人様」
「ああ…………」
ここまで来るのに長いようで短かったような気がするけど、ここからが本番だ。学園入学から2年後、俺は勇者と戦うことになる。その未来がどう変わり、果たして灰色の魔女が見せた未来になるのか。
不安はたくさんあるけど、その不安をかき消すたびにたくさんの仲間を集めた。
俺に怖いものはないはずだ。
「よし、行くか」
「はい」
こうして、ライン・シノケスハットはアルゼーノン学園に入学するのであった。
そこで、数々の苦難とぶつかり、時には勇者と敵対し、時には協力し、そして一緒に魔王と戦うことになる。
それはまた別のお話。
ーーーーーーーーーー
あとがき
これにて完結!です。
ここまで読んで下さり本当にありがとうございました♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます