第2章 訪れるかもしれない未来

第35話 想像以上にラプラスが大きくなっていた件

 月日が流れるのは早いものだ。


 1か月、半年、1年と一瞬で過ぎ去っていった。


 そして、2年ちょっとの時が流れた。


「ほほ、もう2年半ですか…………時が流れるのは早いものですなぁ~~」


「そうか?俺は結構長く感じたけどな」


「若い証拠ですな…………ライン殿」


「まぁ、15歳だからな、ゼノン師匠」


 原作最強の剣士ゼノンを師匠にすることに成功してから、2年ちょっとの時が経った。


 剣術の基礎から魔力への応用。


 鬼のように指導されたが、その結果、師匠のほとんどの技術を学ぶことができた。


 まぁ、ライン・シノケスハットのスペックがあったからだがな。


「そろそろお迎えが来る頃ですな」


 アキバの港で俺たちは待っていた。


 すると。


「おっ、来たようですな」


 地平線の向こうから、大きな影が見える。


 それは徐々に近づき、少しずつ形がはっきりとしてくる。


 大きな船だ。


 港周りの船よりもはるかに大きな船、いや船と呼ぶには大きすぎるほどの大きな船が到着した。


「ボス~~~~~~!!」


「フユナ!?」


「お久しぶりですっ!」


 降りてくる階段を使わず、飛び降りてくるフユナ・ストローグは時代にそぐわない黒い軍服のような服を身にまとっていた。


「ど、どんな服装で来てるんだよ」


「これぞ、ラプラスの正装ですっ!ボスのもちゃんと用意してありますっ!」


 親指を立てて、瞳を輝かせていた。


「俺は遠慮しておくよ」


「いえいえ、ボスとしてそこはしっかりとしてもらわないと」


「うぅ…………それはまぁあとで話し合うとして、よく間に合ったな」


「それはもちろん、大変でしたけど、この2年間で人望を広げて、なんとか…………ラプラスも人員100人を超えましたし、すでに各国で名が広まりつつもありますっ!」


「そ、それはすごいな」


 まさか、ラプラスがここまで大きくなるなんて…………俺ってば天才だな。


 このまま大きくなれば、ボディーガードとかつけて、身の守りを完璧にできるし、今更ながら、あの時の自分の判断は最善だったな。


 心の中でニヤニヤしていると。


「ライン様~~~~~」


「おっ、ノータかって…………え」


 ノータが手を振りながら向かってくる後ろで10人以上の黒い軍服を着た人たちが整列した。


 あれ、全員がラプラスのメンバーってフユナ、どれだけ頑張ったんだよ。


「ふんっ!」


「おっと」


 気が付けば、俺のおなかに顔を埋めるノータ。


 ノータと会うのはちょうど1年ぶりぐらいだろうか。


「大きくなったな」


「ライン様は大きくなりすぎ…………」


「そうか?」


「ほほ、私から見ても立派に成長なさいましたよ。身長もそうですが、口調や表情とか」


「それは、ほぼ半ば師匠が直せっていうから…………」


 頑張って直したんだよ。


 まぁ今でも口調はたまにきつくなるけど、これに関してはしょうがない。


 でもだいぶ柔らかい笑顔は作れるようにはなった。


 ただ師匠はまだ鬼に見えるとかいうけど、俺の努力を否定するとは失礼な師匠だ。


「私もすごくかっこよくなったと思います、ボスっ!!」


「あ、ありがとな」


 そんなに変わったのだろうか。


 たしかに身長は伸びたし、体つきもよくなった。


 その分、顔つきはより悪役貴族っぽくなったけど、正直、俺は変わっているようには思えない。


「そういえば、アルルは?」


「アルルちゃんなら、まだ修行中だって」


「そっか、まぁ入学式前に戻ってくれれば文句ない。ノータもまだ修行しててもいいんだぞ?」


「私はもうやることあんまりないから」


「そ、そうか」


 そんなに胸張って言えるとは、相当実力をつけてきたんだろう。


 アキバに来た頃は一緒にいたアルルとノータだが、途中で別れることになった。


 その理由は各々の実力を伸ばすためだった。


 アルルはミノタウロス討伐の時を引け目に感じていたようで、それを理由に兄のもとへ修行しに行った。


 ノータも魔法使いとして実力をつけるべく、勉強しにアルゼーノン帝国に一度帰還した。


「それじゃあ、久しぶりにシノケスハット領に戻るか」


「そうですね、ボスっ!…………お前らっ!さっさと準備しろっ!!」


 フユナが一声かけると、ラプラスメンバーが大きな声を上げて、赤いカーペット引き、跪ついた。


 そこまでやる必要はないと思うが、気分は悪くない。


「師匠も行きましょう」


「ほほ、そうですね…………てことはあれですな。これからは、ボスと呼ばねば」


「師匠はいつも通りでいいですよ。違和感しかないので」


「それではそうさせていただきます、ライン殿」


 原作最強の剣士ゼノンを師匠にすることに成功した後、俺は貪欲にもこう頼んだ。


『俺の仲間になってくれないか?』


『ほほ、いきなりですな。わしより弱気弱者がライン殿の下につけと?』


『そうだ…………』


『ほほほほ…………いいですよ』


『っ!?』


『驚かれましたか?』


『ああ、正直な』


『そうでしょう…………その理由はいずれわかりますよ』


 結局、理由は最後まで分からなかったが、まぁ原作最強の剣士が仲間になってさえくれれば、理由なんてどうだっていい。


 それに見た目は年寄りだが、原作では魔王討伐後もぴんぴんしているぐらいの長寿だ。


 寿命で死ぬ心配もない。


「さぁ、戻るぞっ!!」


「ライン様…………かっこいい」


「ぜひ、ボス用に仕立て、正装をっ!」


「着ないぞ」


「がーーーーんっ!!」


 こうして、ライン・シノケスハットは2年ぶりにシノケスハット領に戻るのであった。


□■□


 エルザー家が長年修行で使われる秘密の修行場でアルルは裸で滝に打たれていた。


「アルルっ!そろそろ、ライン様が戻ってくる時期じゃないか?」


「もう、そんな時期ですか…………」


 滝から出てきた後、体をしっかりと拭き、髪の毛を整えて、メイド服に着替える。


「これでよし」


「仕上がってるな」


「はい、もう二度とご主人様に失望されるわけにはいかないから。それじゃあ、行ってくる、兄上」


「ああ、がんばれよ」


 ご主人様にあの言葉を言われたとき、心臓をわしづかみされたような感覚だった。


 でも、今は違う。私はもう現状に甘えたりしない。


「久しぶりに会える…………身だしなみは大丈夫だ、ね」


 夜空を照らす月を見て、ライン・シノケスハットの顔を思い浮かべるアルルは頬を淡い色に染めあがっていた。


ーーーーーーーーーー

あとがき


第2章というわけ、よろしくお願いします。

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