第27話 俺がライン・シノケスハットになった日

 我にとって戦いは楽しい遊戯だ。


 全力と全力でぶつかりった火花は美しく死んでも悔いはないと思える。


 だからこそ、我に奥の手を使わせたあの二人との戦いはまさしく至高しこうの戦いだ。


 我はこの時のためにこうして生まれなおしたのだと心が躍った。


 ありがとうと感謝しよう。


 命と隣り合わせの戦いに身を置けることを。


□■□


 俺が先陣を切って前進し、アリステラは俺の後ろで魔法を打つ準備を始めた。


『こいっ!!』


 振り上げれた斧を剣で防ぐと、今までにない重みが襲う。


「うぅ…………」


 思った以上に重いな。


 でも、俺は一人じゃない。


「フォール・ダウンっ!」


 後ろからアリステラが唱えると重力魔法でミノタウロスを動きを止める。


『ぬるいっ!!』


 斧で剣をからめとり、俺を後方へ吹き飛ばしながら、アリステラに斧を向けた。


 ミノタウロスのスピードは確実に上がっているけど、それ以上に魔法に対する耐性が上がっているようだ。


「こっち見ろよ、ミノタウロスっ!!」


 吹き飛ばされながらすぐに残っている木の側面に着地した。


 そしてすぐに、ミノタウロスに向かって駆け上がる。


 その声に一瞬、ミノタウロスがこっちを覗き見ると。


 その隙を見て、アリステラは唱えた。


「ヘル・ファイヤーっ!」


 灼熱の炎がミノタウロスを襲ったが、斧の一振りでかき消された。


『もう我に炎は効かんぞ』


「だが、おかげで追いつけた」


 アリステラの魔法に気を取られたおかげでミノタウロスを懐に入るこむことができた。


 魔力が奔流する剣をミノタウロスに向ける。


『…………無駄だ』


 素早く、斧で俺の剣を防いだ。


「うそ」


 すぐに後方へと下がった。


 思った以上に隙がない。


 これじゃあ、今までのように隙を見ての攻撃は難しいかもしれない。


 俺はとある型で剣を構えた。


『そう来なくては、奥の手を使った意味がないわっ!!』


「ライン様、その構えは…………」

 

 アルゼーノン帝国の騎士戦術の型。


 一撃瞬殺いちげきしゅんさつに特化した剣術だ。


 隙を見てダメなら相手をほふるほどの一撃でミノタウロスを倒すしかない。


 一歩を踏み出すと同時に、ミノタウロスの懐に入り込んだ。


『同じてはくわんぞっ!!』


 ほぼ同じタイミングでミノタウロスは斧を振るう。


 すると俺はアルゼーノン帝国の騎士戦術の型を崩し、アルゼーノン帝国の防御戦術の型に切り替える。


 何回、原作を読んでいると思っているんだ。


 アルゼーノン帝国の型は多く存在し、何かしらに突出した型が多い。


 その一つにアルゼーノン帝国の防御戦術の型というものがある。


 これは完全に身を守る型だ。


 原作知識とそれを完ぺきにこなすこの体があれば、どうなことでもできる。


 剣をわざと斧に押し当て、川が流れるように受け流した。


『なぁ!?』


 その光景にアリステラは驚きを隠せなかった。


 アルゼーノン帝国の型は騎士にならなければ、学ぶことすらできない技術。


 驚くのも当然だ。


 そしてすぐにアルゼーノン帝国の騎士戦術の型へと流れるように戻し、剣をふるった。


 すると、ミノタウロスは自ら背を向けた。


「んっ!?」


 ミノタウロスの背中を切り裂いたが、感触に違和感があった。


 確かに切ったはずなのに、手ごたえがない。


 その数秒の考えが隙になってしまった。


 ミノタウロスは体をねじりながら俺をとらえて斧を横に振るう。


「しまった…………」


 すると。


「ライン様っ!!」


 聞き覚えのある声と一緒に。


 トンっ!


 押された。


 そして、アリステラは斧に吹き飛ばされ、持っていた杖が落ちる。


 何度も体を強く打ちつけながら、アリステラは地面に倒れ伏した。


『まさか、かばうとはな』


「アリステラっ!」


 俺はすぐにアリステラのもとへ駆け寄った。


「はぁ…………無事で何よりです、ライン様」


 魔力で体を覆っていたからか、出血は抑えられているものの。




 杖を持っていた右腕が斧よって切断されていた。




「どうして、かばったんだ!」


「…………仲間として助けるのは当然でしょ?」


「バカが、それで命を落としたら元もこうもないだろ。自分の命を優先しろよっ!俺なんかのために命を懸けるな…………そんなことをしたって、意味がない」


「意味はあります。ライン様がいなければ、ミノタウロスを倒せません」


「期待しすぎだな」


「期待しているんです、私は…………」


 痛みにこらえながら、笑顔を崩さないアリステラ。


 表面上を取り繕っても、瞳の揺れぐらいで我慢していることがわかる。


 痛いはずなのに、泣きたいはずなのに、その笑顔は決して崩れない。


 どんだけ、聖女しているのやら。


 そこで、カチッと何かはまる音が聞こえた気がした。


「なら、そこで見ていろ。俺が勝つところを」


「はい…………」


 俺はゆっくりとミノタウロスのほうへと向く。


『話は済んだか?』


「わざわざ待っててくれたのか?」


『われは嗜好の戦いを求めるっ!その会話で嗜好の戦いがより極まるのなら!いくらでも待つ!』


「嗜好の戦いね。待ったところで何も変わらないと思うが」


『気づいておらんのか?今のお前からはほとばしるほどの怒りと脅威を感じるぞ』


「そうか、それじゃあ、そろそろ終わらせよう」


『われはもっと楽しみたいがな』


 透き通るほどに心は冷静なはずだ。


 なのに沸き立つほどの怒りを感じる。


 アリステラの表情を見たからかな。


 そろそろ、終わらせよう。これ以上の戦いは無意味だ。


『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 ミノタウロスが斧を振り上げた。


 だが、その攻撃はひらりと簡単によけられる。


 その動きにミノタウロスは違和感を感じた。


『今、何をした?』


「ただよけただけだが?」


『よけただけだと…………くぅ!!』


 さらに連続して斧が襲い掛かるも簡単によけられる。


 別人のような動きにミノタウロスは動揺する。


「どうした?」


『くぅ…………はぁぁぁぁぁぁ!!』


 斧の一撃を俺は軽々とはじき、ミノタウロスの腹をいともたやすく剣で貫いた。


『ぐはぁ!?ど、どうなっている』


「…………なんだ、簡単じゃん」


 なぜか、ずっとミノタウロスの動きがゆっくり見えた。


 だがその理由は簡単だった。


 俺は今、本当の意味でライン・シノケスハットになっているんだ。


 俺はライン・シノケスハットであって、ライン・シノケスハットではない。


 その感覚のずれがぴったりとはまった瞬間、この体がもつ本来のスペックを発揮できる。


 貫いた剣を引き抜き、アルゼーノン帝国の騎士戦術の型で構えた。


「終わりだ」


 ミノタウロスは動かなった。


 腹を貫いた剣はミノタウロスの背骨せぼねを砕いたからだ。


 故に立つことすらできなかった。


 だが、それ以上にライン・シノケスハットの瞳に目を奪われた。


 あれは人の目ではない。


『化け物が』


 ラインの剣がミノタウロスを真っ二つに切り裂いた。


 最後はあっけなく、ミノタウロスを殺した。


 まるで、今までの戦いが噓かのようにあっけなく。


 ほら言っただろ?俺は負けないってさ。


「ふぅ…………ふぅ…………ふぅ…………」


 集中力が切れたのか、視界がぼやけて、体がふらつく。


 急に来た体力と魔力の限界。


 気を抜けば、一瞬で意識を失いそうになる。


 ダメだ。まだアリステラの応急処置をしないと。


 魔力で出血を抑えているとはいえ、あの状態でほっておくのは命に関わる。


「だ、ダメだ…………」


 ふらふらしながらそのまま、意識がプチっと途切れ、バタッと倒れた。


ーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


ミノタウロス討伐完了。



 

 


 

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