第26話 ラインとアリステラ

 アリステラと肩を並べる。


 まさか、こうして、アリステラと一緒に戦うことになるなんてな。


 いまだに噓じゃないかと思ってしまう。


「後方支援と遠距離攻撃は任せてくださいっ!!」


「ああ、頼んだ」


『二人になったところで何も変わらぬ、死ね!』


 赤いオーラが激しくなびきながら、斧を構えた。


 それと同時に俺はミノタウロスに向かって前進する。


 限られた魔力だが、もう惜しまない。ここで全力を尽くすだ。


「はぁっ!!」


『ふんっ!!』


 剣と斧の剣戟が繰り出れ、一撃一撃が地面を削り、木々を切り裂く中で、アリステラはミノタウロスの後ろに回り込みながら、杖を向けた。


「アイス・ショットっ!!」


 氷射出魔法アイス・ショット。


 氷の刃を作り出し、放つ魔法だ。


 だが、その魔法は斧の一振りでかき消される。


『小癪な!この程度の攻撃で我を倒せると思ったかぁ!!』


 ミノタウロスの視線と体がアリステラのほうへと向いた。


「だが、おかげで腹ががら空きだ」


『んっ!?』


 魔法を防ぐためのたったひと振りがミノタウロスに隙が生ませた。


 剣を強く握りしめ、魔力を集中させ、そのまま腹めがけて振るった。


『うぐぅ!離れろっ!!』


 刃がミノタウロスを腹を切り裂こうとする瞬間、斧を俺に向けて振り上げた。


「ちっ…………」


 俺はすぐに後方へ下がったが。


『ぐぅ…………わが皮膚を切り裂くか』


 ミノタウロスの腹に刃が通った。


 やっぱり、魔力を通した剣ならミノタウロスを切ることができる。


 でも、ふところに入りながら、確実に切り裂くための時間がないとミノタウロスを確実に切ることができない。


 俺の体力と魔力量的にも10分も持たないし、アリステラも無理しているはずだ。


「ライン様、私はまだいけます」


 アリステラは全くあきらめていなかった。


 こんな子が隣にいたら、それりゃあ、勇者も頑張っちゃうよ。


「アリステラ、一つ無理をしてもらうけどいいか?」


「はいっ!」


「そうか、じゃあ、お前も前で戦え」


「…………わかりましたっ!」


 即答だった。


 魔法使いはとって、前で戦うことは死も当然だ。


「頼りにしているぞ」


「あ、はいっ!」


 アリステラのほほが少しだけ淡い色に染まった。


 俺とアリステラはミノタウロスに向かって前進した。


『聖女が前に?どういうつもりだぁ!!』


「さぁな、それは結果を見てからのお楽しみだ」


 アリステラを前に出させたのは囮という役割と、魔法を至近距離で撃たせるためだ。


 俺が先陣をきって飛びかかる。


「はぁ!!」


『また同じやり方か!!』


「いや違う」


 剣と斧が重なった瞬間、ミノタウロスの視界からアリステラが消えた。


『あいつはどこに?』


「後ろですよ」


『んっ!?』


 俺が先陣を切り、ミノタウロスの視線を俺に集中させる。


 さらに俺が飛び上がることで、視線が上を向く。


 すると、アリステラが完全にフリーになるわけだ。


「打て!アリステラ!!」


「ヘル・ファイヤーっ!!!」

 

 至近距離から灼熱の炎がミノタウロスを襲った。


『うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』


 斧を左右上下に振り回す中、俺は懐に入り込み、再び剣に魔力を集中させる。


 今だぁ!


 俺は剣を大きく振るった。


『うぐぅっ!?』


 肉を深く切り裂いた感触。


 確実に決まった。


「アリステラ、畳みかけるぞっ!!」


「はいっ!!」


 俺はさらに剣戟を繰り出し、アリステラは魔法を連発した。


 このまま押し切れば、勝てるっ!そう思った。


 すると、ミノタウロスの斧が赤く光りだす。


 何か嫌な予感がする。


「アリステラ、下がれっ!!」


 赤い光をまとう斧をミノタウロスが振り下ろした瞬間、赤い閃光と共に、爆発した。


 俺とアリステラは魔力で身を守ったが、ミノタウロスの体はボロボロだった。


『まさか、ここまで追いつめられるとは、これほど心が躍ることはないな』


 ミノタウロスが笑った。


「さっきまで死ねと殺すとか言ってたくせに」


『ああ、それに違いはない。ただ、これほど命の危機を感じたことがなくてな。おかげで、奥の手を使うことができるぞ』


「奥の手?」


『わが力を極限まで高める秘薬で、われは限界を超える』


 ミノタウロスは瓶を取り出し、そのまま飲み込んだ。


 あれって。


『うぅ…………感じるぞ、奥底から力があふれてくる感覚がぁ!!』


 傷が次々とふさがっていき、毛皮が真っ黒に染まり、赤いオーラが漆黒に包まれた。


「ライン様」


「やばいな」


 肌がひりつくほどの圧に、急激に上昇した魔力。


 さらに、傷までふさがっている。


 ただでさえ、極限状態だっていうのに、さらに強くなるとか反則だろ。


 隣で、アリステラの表情が曇っているのがわかる。


 アリステラはわかるんだろう。勝てないって。


 でも、俺は違う。


 この極限状態でもずっと、ずっと、俺は負けないと思っている。


「アリステラ、まだ俺たちは負けていない。ついてこいっ!」


 アリステラは曇った表情を吹き飛ばすように笑顔で言った。


「…………はいっ!」


 その光景にミノタウロスは高らかに笑った。


『さぁ、殺しあおうぜっ!全力でっ!!』


 俺はライン・シノケスハットだ。


 高スペックでイケメンで、勇者に匹敵する強さを兼ね備え、性格を除けば欠点のない男だ。


 負けるはずがない。


 俺はその自信を胸ににやりと笑ったその表情はライン・シノケスハットそのものだった。

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