第23話 アリステラsideー迫る危機
少し時間がさかのぼる。
ライン様とアルルさんと別れ、南西側を探すことになったアリステラとネロ。
木々の間を進んでいきながら、淡々と周りを捜索していた。
「今のところ、気配はありませんね」
「そうですね、ですが、気をつけてください。いつ、どこで、襲ってくるかわかりませんので」
「あまり、神経質になりすぎると、持ちませんよ?」
「アリステラ様のお命が第一ですので」
「あ、はははは」
乾いた笑い声に、全く気付かず、ネロはアリステラの護衛に神経を研ぎ澄ませていた。
ネロが周りを警戒しながら、アリステラは探知魔法でミノタウロスを探すも全然見つからず。
「特に魔物の気配はありません」
「もしかしたら、ライン様のほうかもしれませんね。それに、まったく魔物が探知魔法に引っかからないのも気になります」
探知魔法というのは、魔物か人かを見分けながら、位置を探る魔法。
探知範囲は魔力量によって異なり、多ければ多いほど活躍する便利な魔法だ。
特に名前は付けられておらず、魔法使いなら日常的に使える基礎魔法とも呼ばれていたりもする。
「シノケスハット領土はたしか、魔物が生息しているはずですが」
「…………もう少し進んでみましょう」
さらに奥へと進んでいくと、異臭が鼻につき、足を止めた。
「アリステラ様、私の後ろに…………私が先頭に立ちます」
「気をつけてくださいね、何か嫌な予感がプンプンです」
ネロを先頭にさらに先へ進むと。
「これは!?」
「ひどい…………」
人と魔物の死体だけで積みあがった山があった。
ネロはそっと近づき、確認した。
「まだ腐敗が進んでいないところを見ると、つい最近できたものでしょう」
「一体、どんな目的で」
「アリステラ様、お気を付けください。近くにいる可能性がーーー」
「わかっています、でも、まだ探知魔法には反応はないのでたぶん、大丈夫だと思います。とりあえず、一旦、離れましょう。ここは少し危険な気がします」
「わかりました。アリステラ様」
私達は死体の山から少し離れた場所まで移動した。
「…………ひとまず、このことはすぐに報告しましょう。おそらく、この近くにミノタウロスがいます」
それはほぼ確信に近かった。
探知魔法に引っ掛かりはしないものの、南西側にいるのは確実。
ミノタウロスはすぐそこにいる。
「ひとまず、ライン様たちに合図を送りましょう」
「でしたら、私はここで回りを警戒しておきます」
「お願いします」
私は右手に魔力を集め、合図を送る準備を始めた。
その時。
「アリステラ様っ!?」
「え…………」
『うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
獰猛の雄たけびが木々を大きく揺らした。
「どうしてーーーーー」
突然、現れた赤い毛皮のミノタウロスは斧をアリステラに向けて振りかぶったが、ネロが瞬時に反応し、アリステラを突き飛ばした。
「アリステラ様っ!!」
ネロはミノタウロスの一撃を剣を盾にして防ごうとするも斧に触れると同時に砕け散る。
そのまま浅くではあるが斧で切り裂かれ、流れるまま、背中に木を強くぶつけ、吐血した。
「うぅ…………ネロちゃん!?」
視界にとらえたのは血だらけのネロの姿。
私がミノタウロスに気づけなかった?
いや、そもそも探知魔法に引っかからなかった。
もし、ネロが私を助けてくれなかったら、今頃、あの斧で…………。
「ぐぅ………」
ネロはぽたぽたと血を流し、斧で軽く切り裂かれた腹部を抑えていた。
するとミノタウロスはアリステラのほうへと体を向ける。
「なるほど、探知魔法に引っかからなかったのは、魔力がないからですか」
そう、ミノタウロスには魔力がなかったのだ。
故に私たちは気づかなかった。
近づいてくる脅威に、その元凶に。
「狙いは私のようですね」
ネロはもう戦える状態じゃない。
でもここで合図を送れば、ライン様たちが来る間の時間が稼げない。
なら、今できる私の最善の選択は。
「ネロ、ここは私が囮になります。あなたは、今すぐにライン様たちにこのことを伝えてください」
「ですが…………」
「ネロちゃんっ!…………お願い」
「アリステラ様…………わかりました。必ず、ライン様たちに」
ネロは後ろへ振り返り、血を流しながら東側へ走り抜けた。
「さて、今の私にこの怪物とどこまで戦えるのか、少し聖女して血が騒ぎますね」
魔力がないとはいえ、一撃があまりにも重すぎる。
ここでは距離を取りながら、魔法でけん制するのが一番、時間を稼げる。
「聖女としての大仕事、もとより死ぬ覚悟は聖女の身においてからできています。来なさいっ!!」
『ふんーー』
ミノタウロスが笑ったような気がした。
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