第7話 ノータの行方とイライラ
都市アルキナの夜は意外と安全だ。
周りの明かりは少ないものの、視線をあまり感じず、殺気もない。
昼間のことが噓のように思える。
「さてと…………」
原作とはかなり違っているじゃないかっ!
っと心の中で叫んだ。
ノータはバエルのボスに母親を殺され、人間を憎むようになる。そう俺は記憶している。
なのに、ノータは母親が元気だと答えた。
おかしいだろっ!原作を変えるなっ!と訴えたい。
気持ち的には原作とアニメで話が違った時と感覚が似ている。
だけど、あの目、あの表情、果たして本当に生きているのだろうかっと疑問もよぎった。
だが、それでも原作から外れていることに変わりはない。
「はぁ…………マジでどうなっているんだよ」
ノータの母親が殺されるのはノータが10歳の時だ。
それが、正しい原作ストーリーであり、そこから復讐するために魔法を独学で勉強し、15歳のころにノータはバエルを壊滅させる。
それが正しい原作ストーリーであり、あるべき形だ。
「このままじゃ、ノータが原作最強の魔法使いにすらなれない可能性だってあるっ!それだけはダメだ!」
胸に残る不安が、胸を締め上げる。
すると。
「ご主人様!!」
「うん?こんな時間になんだ…………」
「ノータちゃんがいなくなりました!!」
「な、なんだと!?」
ノータがいなくなった?
さらわれたのか?いや、だったら、アルルがすぐに気づくはずだ。
「すいません、私が少し目を離したすきに…………」
「謝るな、とりあえず、早く見つけ出せっ!!」
どうして、こうも思い通りにいかないんだ、これじゃあ、前と同じじゃないかっ!
って前とって…………前ってなんだ?
すると、アルルが突然、クナイを構えた。
「ご主人様、囲まれました」
「ん?これは」
忍び寄る足音と、陰から現れる盗賊たち。
まさか、こんな夜中に仕掛けてくるのか。
逃げ場をふさぐように囲む盗賊たち、その中で一人の盗賊が一歩前を歩いて姿を現した。
「お前たちだな。本拠地を荒らした
「ご主人様、後ろへお下がりください。少なくとも20人以上はいます」
「そんなことはわかっている」
「バエルに手を出したこと、そして偉大なるガング様を殺したことを後悔しろっ!みなっ!かかれっ!!」
指示が
どうして、どうして…………。
どうしてっ!思い通りにいかないっ!!
アクシデントの数々、原作の違い。
そのストレスが俺をイライラさせる。
「アルル、こいつらを殺せ」
俺は攻め込んでくる盗賊たちを睨んだ。
すると、一瞬ぴたりと足を止める。
「はい、ご主人様」
ピタリと止まった隙をつき、
その状況に盗賊たちは動揺する。
「どうなってやがる。相手はたったの二人だぞ。なのに、どうして、もう半分もやられてるんだよっ!!」
「一人だけ、生かせ。…………命令だ」
「わかりました」
殺す気でかかるアルルがスピードを上げて次々と正確に殺していく。
バタッ!バタッ!バタッ!
どんどん倒れていく、そして最後の一人。
「頼む、み、見逃してくれ」
尻もちを強く打つ盗賊。
俺はひざを折り、目線を合わせる。
「こいつが最後だな」
「はい」
「おい、お前」
「はいぃ!!」
「ノータはどこにやった?」
「し、知らない…………俺は知らない!!」
「噓をつくなよ、早く答えないと…………」
「ひぃ!?ぼ、ボスのところだ、ボスのところに向かったはずだっ!」
「それじゃあ、ボスはどこにいるんだ?」
「そ、それは…………」
言いにくそうに黙り込む盗賊の姿。
まぁ普通は答えねぇよな。
「アルル、殺せ」
「ちょっーーーーー」
スパッと気持ちよく頭が吹き飛んだ。
「よろしかったのですか?」
「ああ、すでにボスの居場所はわかっている」
バエルのボスは奥手であまり表には姿を見せない。
バエルのボスを見つけ出すことは普通、不可能だ。
だが、俺はリーガーの隠れ蓑をたった今、見つけ出した。
「ノータには念のために俺の魔力を付着させておいたからな。これをたどれば、たどり着けるはずだ」
盗賊がノータの居場所を言った時点で、リーガーの場所は把握できていた。
たく、せっかく情けをかけてやったのに、哀れな奴だ。
「さ、さすがですっ!ご主人様っ!!」
「運が良かっただけだ」
ノータのおかげでボスの居場所まで分かった。
これは運がいいといってもいい。
「だが、その前に確認しておきたいことがある。ついてこい」
「はいっ!!」
□■□
「ここどこなんですか?」
「見てわかるだろ?
俺たちが訪れたのは人が住むには適さない都市アルキナの外周部にある瓦礫の山。
「やっぱり、そうだよな」
本来ここにはノータと母親が住んでいた家があったはずだ。
なのに、家一つない。
「やっぱり、おかしい」
「…………ご主人様」
「なんだ?」
「あれはなんでしょうか?」
「ん?」
アルルが指さした先には二人の盗賊がいた。
あれは、バエルの盗賊じゃないか。
どうして、こんなところに………なんか、匂うな。
「アルル、あいつらはバエルの盗賊だ、拘束しろ」
「わかりました」
アルルの手により、あっさり拘束された盗賊二人は、俺たちの顔を見て驚愕した。
「なぁ、どうしてお前たちが生きているんだっ!」
「うるさい、口を閉じろ。お前たちはただ俺の質問に答えるだけでいい。そうすれば、命だけは助けてやる」
「俺は何も答えないぞっ!」
「本当に死にたいらしいな、アルル」
「はいっ!」
アルルは二人のうちの一人の右足に思いっきりクナイを突き刺した。
「うぅ!!!!」
盗賊の一人が悲鳴を上げた。
「今のは情けだ。次は殺す。さぁ、質問に答えてもらおう。ここへ何しに来た?」
しかし、沈黙を貫く。
ここまで意志が固いとはな。
「なら…………」
アルルがクナイで左足を突き刺そうとすると。
「まぁ、待ってくれっ!答えたら、助けてくれるのか?」
「それはお前たち次第だ」
「…………ボスの命令である人の状態を確認しに来たんだ」
「ある人?」
「そうだ」
「そいつは誰なんだ?」
「それは…………」
「アルル」
「わかったぁ!!言うから…………ミストン・アルヘディという女性だ」
「んっ!?」
ミストン・アルヘディだって!?
まさか、生きているのか、ノータ・アルヘディの母親、ミストン・アルヘディが。
「ミストン・アルヘディ…………アルヘディってご主人様!!」
「そのミストン・アルヘディはどこにいるんだ?」
「そこの瓦礫の下にある地下通路の先だ」
っと目線でその場所を教える盗賊。
「そうか、ありがとう」
「これで、俺たちはーーーーーーー」
瞬きする間もなく、二人の首が飛んだ。
「俺は命令してないぞ、アルル」
「殺したほうが後処理が楽かと思いまして、すいません」
「いや、お前の判断は正しい。それより、地下通路に行くぞ」
「はい」
こ、こわぁ!?普通にびっくりしたんですけど、なに暗殺者ってあんな簡単に殺せるの?ってそりゃぁ殺せるか。
バエルの盗賊たちが目線で教えてくれた瓦礫の下を確認すると、地下通路があった。
地下通路を覗くと奥深くまで続いてり、進んでいくとそこには、鎖で縛れた女性の姿があった。
「こ、これは!?」
「ミストン・アルヘディだな」
目の焦点が合っていない。
それにこの臭い、おそらく、薬づけにされているな。
「どうして、こんなことを…………」
「おそらく、ノータを利用するためだろうな」
「それにしたって、この状態を見るに、もう、元には」
「ひとまず、外に出そう。ここは異臭が鼻につく」
「そ、そうですね」
ミストン・アルヘディの拘束を解き、外に連れ出した。
そのまま、俺たちは宿に一度戻り、ベットに横たわらせる。
「アルヘディ、ノータちゃんと同じですね」
「おそらく、母親だろう」
原作と違うが、ノータが勝手にいなくなった理由は何となく察がつく。
リーガーは母親を拘束し、ノータを
そう考えるのが
「今すぐ、リーガーのところへ行くぞ」
「はいっ!こんなことをするなんて、容赦しません」
眉を細め、珍しく怒りをあらわにするアルル。
珍しく、怒ってるな。
まぁ、俺も怒っているがな。
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