第27話 それ以上の世界
殿下とわたしはしばらくの間、唇と唇を重ね合わせていた。
前々世でもマクシテオフィル殿下とはキスをしていたので、相思相愛でのキスを経験していなかったわけではない。
しかし、困難を乗り越えた後のキスの味は。その時よりも素敵なものがあった。
このままずっと殿下とキスをしていてもいいくらい、
やがて、殿下は、わたしの唇から自分の唇を離す。
わたしは思わず、
「もう少しキスをしていたいです」
と殿下におねだりをする。
ただ、言った後、強烈な恥ずかしさに襲われた。
はしたない女性と思われてしまったかも……。
殿下は、
「わたしはあなたとキスもしていたいのですけど、それ以上の世界にも入っていきたいと思っているのです」
と恥ずかしがりながら言った。
わたしの心は、うれしさでいっぱいになっていく。
それとともに、心がまた沸き立ち始める。
「それ以上の世界」
前々世でも前世でも、わたしが経験したことのない世界。
そこに殿下はわたしを案内したいと言っている。
しかし……。
知識としてはある程度は知っているので、心と体の準備はしてきたつもりだった。
今までも、いつ殿下がわたしのことを求めてきてもいいように、夜、この寝室で殿下と会う時は、その前に体を念入りに洗っていた。
そして、着る服についても、十分気を使うようにしてきた。
今日も準備をしてきていたので、殿下に求められても、大丈夫だと思ってきたのだけど……。
胸のドキドキが今まで経験したことがないほど大きくなってきている。
そして、今まで経験をしたことのないほどの恥ずかしさにも襲われてきている。
このような状態で、殿下の求めに応じることができるのだろうか、と思ってしまう。
結婚式の当日の夜だったら、そこまでの気持ちにならなかったかもしれない。
結婚式から一か月経っていて、こういう状況がくるのをその間ずっと待っていたわたし。
その間に期待がどんどん膨らんでいったことが、胸のドキドキと恥ずかしさを大きくしていったということが言えるのかもしれない。
わたしは返事ができないままでいると、殿下は、
「今日はまだ心の準備が整いませんか? 心の準備が整わないのであれば、明日にすることにしましょうか?」
と言ってきた。
明日?
いや、わたしは今日、殿下と二人だけの世界に入りたい。
せっかくキスまで進むことができた仲。
一気にそれ以上の世界に進みたい。
心のコントロールができなくなってきていて、殿下に思うような返事ができていないけれど、このままではいけない。
「わたしとあなたは夫婦になってまだ一か月ほどです。しかも。わたしはあなたに対し、今世では、出会ってからというもの、ずっと傷つけるようなことをしてしまいました。これでは、いくら前々世で相思相愛になっていたとしても、わたしのことを心と体の全部で受け入れるのは難しいのだと思います。わたしも二人だけの世界に入るということが、愛の究極的な形の一つだということは理解しています。キス以上のことですので、それだけのことを二人でする為には、あなたとわたしの心が、お互いへの愛の想いで満たされ、心の準備ができていなければなりません。なければならないと思います。その点、今世では、あなたに酷い仕打ちをしてしまったわたしですから、そこまでの心の準備ができていないのも仕方のないことだと思っています」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます