第16話 前世の殿下の結婚
「わたしは前世では、王太子として順調に成長した。誰もが名君になって、王国を繁栄に導いてくれる存在になると思ってくれていたのだ。わたしはその期待に応えて、自分磨きを続けていた。そして、二十歳になった時、わたしに縁談が持ち上がったのだ」
「縁談ですか?」
「そうだ」
殿下が二十歳の時ということになると、その時はもうわたしはこの世の人ではない。
わたしがこの世を去ってから五年後のことになる。
前々世のように四十歳まで生きていれば、わたしにもチャンスがあったのに、ということはどうしても思ってしまうことである。
いや、それでも、そういうことは思ってはいけないのかもしれないのだが……。
「相手は隣国ブリュノーラ王国のイゾナランヌ王女殿下。大国の王女殿下だ。政略結婚の最たるものだった。相手の国王陛下の方は、血縁関係でわがボイルラフォン王国を取り込もうとしていたのだろう。忠実な属国として。そして、われわれボイルラフォン王国の方は、これを機にこの大国に軍事的。経済的な援助をしてもらう。両方にとっていい話だったと言うことができる。でも、わたしは気が進まなかった。両国にとってはメリットのある話であっても、わたしにとっては決していい話ではない。好きでもない相手となんで結婚しなければならないのかと。とは言っても、わたしに選択権はない。わたしの意志とは全く関係なく、相手に会うことになった」
「どういう方だったのでしょう?」
「美しい女性だった。もともとわたしも美しい女性だとは聞いていたのだが、想像を越えるほどの美しさだった。さすがのわたしも彼女に恋をしてしまったほどだ」
前世の話だとはいうものの、殿下が他の女性に恋をしたという話を聞くと、少しやきもちをやいてしまう。
「また大国の王女殿下だというのに、つつましい振る舞いをしていた。その点も好意をもっていた。彼女の方もわたしに好意を持っていたようで、話は進み、婚約、そして結婚が成立した。ここまでは、わたしは幸せな思いをしていたし、彼女も幸せな思いをしていたと思う」前世で殿下が他の女性と結婚してしまったということについては、どうしてもつらい気持ちが湧いてきてしまう。
殿下と結婚したかったのに……。
前世のことでどうにもならないのはわかっている。
しかし、心のコントロールは難しい。
それでもなんとかわたしはコントロールをしようと努力する。
少しずつ冷静になってくると、殿下が、
「心が痛くなってしまう話」
だと言っていたことを思い出す。
今までの話を聞く限りでは、前世の殿下は幸せに過ごしていたように思う。
心が痛くなる話にどうつながっていくのだろうか?
結婚した女性との仲が悪くなるということが想像されるが、今の話だと仲が悪くなる理由がわからない。
仲が悪くなった理由についての話になっていくのだろうか?
わたしは殿下の言葉を待つ。
「新婚生活の間も幸せだった。毎日彼女と愛を語り合った。二人の愛はこのまま続くと思っていたのだ。ところが、その愛、そして幸せは長くは続かなかった。これはわたしにとって、大きな誤算だった」
一体、殿下にどういう誤算が訪れたのだろうか?
殿下はまた言葉を一旦切る。
心をもう一度整えているのだろう。
やがて、殿下は話を始めた。
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