第7話 前世の記憶

 マクシテオフィル殿下がこの世を去った後、わたしはしばらくの間、悲しみにくれていた。


 一日中泣いている日もあった。


 やがて、涙はおさめるようになったものの、生きる気力が湧いてこない。


 両親は、そんなわたしを元気づけたいと思ったのだろう。


 マクシテオフィル殿下がこの世を去って一年が経った頃から、縁談をすすめてくるようになった。


 しかし、


「わたしは殿下のもの」


 と思っていたわたしは、すべての縁談を断った。


 両親には申し訳ないことをしたと思っている。


 また、せっかくマクシテオフィル殿下は、わたしに他の男性と結婚することをすすめてくれたのにも関わらず、その意志にも応えることはなかった。


 マクシテオフィル殿下にも申し訳ない気持ちで一杯になる。


 しかし、マクシテオフィル殿下とは来世と来々世で会うことをお互いに祈っている間柄だ。


 わたしとしては、その間、誰とも付き合いたいとは思わない。


 それが、殿下への愛だと思っていた。


 そして、その想いはきっとマクシテオフィル殿下に通じるだろうと思っていた。


 わたしは、殿下一筋でいる為、そして殿下の冥福を祈り続けようと思った。


 そこで、二十五歳で修道院に入ることにした。


 両親は反対していたし、周囲の人たちも全員反対していた。


 わたしが幸せな結婚をするのを望んでいたのだと思う。


 しかし、その反対を押し切って、わたしは修道院に入った。


 それからはマクシテオフィル殿下のことのみを想い続けた後、四十歳でこの世を去った。


 わたしが想い続けた男性。


 わたしが愛し続けた男性。


 その男性であるマクシテオフィル殿下こそ、今世でわたしと結婚をしたオディナルッセ殿下だったのだ。




 前々世の記憶の一部が流れ込んできた後は、前世の記憶の一部が流れ込んできた。


 わたしは前世でもマクシテオフィル殿下の生まれ変わりの男性と会えることを期待していた。


 前々世で、お互いに会えることを祈っていたので会えるものと思っていた。


 前々世では婚約もできなかったので、前世では結婚まで進み、幸せな家庭を築いているものと思っていた。


 しかし……。


 なんとわたしは、わずか十五歳であの世に旅立っていたのだった。


 前々世や今世と違い、前世のわたしは病弱だった。


 ボトルントン公爵家令嬢で、ルディラーヌという名前のわたし。


 親族の異性以外とはほとんど話す機会がなかった。


 そして、マクシテオフィル殿下の生まれ変わりと思われる男性に会うことはできなかった。


 前々世(ルディラーヌの立場では前世)のことも思い出すことはできなかった。


 ただ、もし思い出せたとしても、病弱な体ではどうにもならなかったとは思うけれど……。


 いずれにしても、わたしの前世で思い出すことができるのは、自分の経験をしたことだけなので、マクシテオフィル殿下の生まれ変わりの方がどういう人生をおくっていったのかは、わたしにはわからない。


 前世でも一緒に人生を歩んで行きたかった……。


 その短い人生を終え、わたしは今、セノーラティーヌとして生まれ変わっている。


 オディナルッセ殿下はマクシテオフィル殿下の生まれ変わりだ。


 やっと、やっと会うことができた。


 前世では会えなかった男性。


 わたしが想い続けた男性とやっと会うことができたんだ……。


 そう思うと目から涙が流れてくる。


 しばらくの間、うれしさに包まれた後、わたしの意識は今世に戻って行った。


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