第4話 せめて、もう一度だけでもお話がしたい
わたしはマクシテオフィル殿下の意識だけでも戻ってほしいと思っていた。
話したいことはたくさんある。
わたしは殿下のことをもっと理解したい。
そう思うのだけれど……。
マクシテオフィル殿下の意識は戻らないまま一週間が経った。
その日の朝。
殿下の病室には、国王陛下と王妃殿下と主治医、そしてわたしがいた。
主治医はマクシテオフィル殿下の診察を終えると、
「残念ながら、もう後わずかの生命でございます。もし持ったとしても、今日の夜までだと思われます」
とわたしたちに報告した。
「もうこのまま目を覚ますことはないのでしょうか?」
王妃殿下が言うと、主治医は、
「もしかすると、一時的に目を覚ます可能性はあります。しかし、期待はなさらない方がいいと思います。可能性は限りなく低いものです」
と応えた。
主治医の言葉を聞いて、わたしたちはガックリする。
「マクシテオフィル、お前はわたしの後継ぎなんだ。こんなところで倒れてはならない。もう一度声を聞かせてくれ!」
「マクシテオフィル、わたしはまだあなたの回復を信じています」
つらそうな国王陛下と王妃殿下。
わたしもつらい気持ちになる。
それと同時に、疲れが押し寄せてきた。
この一週間、わたしは寝る間も惜しんで看病を続けてきた。
でも、それは何の成果ももたらすことはなかった。
マクシテオフィル殿下はその短い生涯を閉じようとしている。
わたしの殿下を想う気持ちが足りなかったのかもしれない。
いや、きっとそうなのだろう。
殿下がまだ元気なうちに、わたしがもっと殿下のことが好きになり、もっと愛していくべきだった。
そうすれば殿下の力は増すことになり、殿下も倒れることはなかった可能性は強い。
もし倒れたとしても、意識がない状態が続くことはなく、回復したと思う。
そう思うと、自分の想いが足りなかったことが悔しくてしょうがない。
せめて、もう一度だけでもマクシテオフィル殿下とお話がしたい。
そう強く願い続けるわたし。
どれくらい経ったのだろう。
疲れが頂点に達してきて、このままではわたしも倒れてしまいそうだと思った時。
「こ、ここは……」
殿下の声。
「殿下が、殿下が目を覚まされました」
主治医がそう言うと、国王陛下も王妃殿下も、
「マクシテオフィル、よくぞ目を覚ましてくれた」
「よくぞ、よくぞ、意識が戻ってくれました……」
と言って涙を流す。
「父上、母上、ご心配をおかけしています。倒れてしまいまして、申し訳ありません」
「何を言い出すんだお前は。倒れたことについて詫びることはない。今一番大切なことは元気になることだ。
「そうです。わたしたちはお前の健康が一番大切だと思っているのです」
「お父上、お母上のやさしさに涙が出てきます。ありがとうございます」
マクシテオフィル殿下も涙を流し始める。
しばらくの間、三人で話をしていたが、
「お父上、お母上、お願いがございます。リデナリットさんと二人きりで話を少しさせていただけないでしょうか?」
とマクシテオフィル殿下は言った。
「もちろん。二人きりで話をしたいこともあるだろうからな」
「わたしたちはしばらく席を外します。今まで話ができなかった分があるでしょう。体に気をつけて、話をしてください」
「ありがとうございます」
マクシテオフィル殿下はそう言った後、主治医に、
「申し訳ありませんが、あなたも席を外していただけませんでしょうか? 何かありましたらすぐ呼ぶと思いますので」
と言った。
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