第5話 二人きりでの話

 主治医は、


「わかりました。それではマクシテオフィル殿下、リデナリット様、病状が少しでも悪化するようでしたらすぐ呼んでください」


 と応える。


 国王陛下と王妃殿下、そして主治医は、隣の部屋に移っていった。


 マクシテオフィル殿下とわたしは二人きりになる。


 目を覚ましたとはいうものの、顔色は決してよくはない。


 主治医の言う通り、もう生命は尽きかけているのだろう。


 わたしはそれでもマクシテオフィル殿下の回復を信じたい。


 夫婦として一緒に、これからの人生を歩んでいきたい。


 そう思っていると、マクシテオフィル殿下は、


「もうわたしの生命はここまでです。最後にあなたに伝えたいことがあって、二人きりにさせていただきました」


 と苦しそうに言った。


「何をおっしゃいます。殿下は今まで意識を失っていましたが、こうして目を覚まされました。これはお体が良い方向に向かっているということだと思います」


「リデナリットさん、お気づかいありがとうございます。でもわたしの体はもう持ちません。意識が戻ったのは、多分、お父上とお母上、そして、あなたと最期の別れをする為だと思います」


「そんなことはおっしゃられないでください。わたしはマクシテオフィル殿下とこれからずっと一緒にいたいのです」


 わたしの目から涙が出てくる。


「ありがとうございます。リデナリットさんは心の底からやさしい方だ」


「そう言っていただいてありがとうございます」


「わたしはあなたのことが好きです。できればわたしもあなたとずっと一緒にいたかった。その気持ちは同じです」


 マクシテオフィル殿下の目からも涙がこぼれてくる。


「わたしもマクシテオフィル殿下のことが好きです。このまま婚約をして、結婚したいです」


「わたしもあなたと婚約して結婚したかった。せめて、婚約式だけでも行いたかった……」


「マクシテオフィル殿下……」


 マクシテオフィル殿下は疲れてきたのだろう。


 声がだんだん弱々しくなってきている。


 言葉を紡ぎ出すのも大変そうだ。


 殿下は少し沈黙した後、


「リデナリットさん、だんだん苦しくなってきました。もう後少ししか持ちそうもありません。いよいよ最期の言葉になりそうです」


 と言った。


「最期の言葉だなんて、おっしゃられないでください。わたしはマクシテオフィル殿下とここでお別れはしたくはありません」


 涙がますますこぼれてくる。


「申し訳ありません。でもあなたにこれだけは伝えておきたいのです」


 マクシテオフィル殿下は、一旦言葉を切った後、続ける。


「あなたはまだ若い。そして、わたしとの婚約はまだ正式に成立していません。ですから、わたしがあの世に旅立ったら、わたしのことは忘れて、素敵な方と結婚してください。そして、幸せになってください」


「マクシテオフィル殿下……、そんなことはおっしゃられないでください。わたしはマクシテオフィル殿下一筋の人生を歩んで行きたいと思っていますのに……」


「その気持ちだけで充分です。ありがとうございます。しかし、あなたのこれからの人生は長く続くのです。あなたはわたしのことなど忘れて、幸せにならなくてはなりません。わたしの望みは、あなたが幸せになることなのです」


 マクシテオフィル殿下の言うことは理解ができないわけではない。


 でもわたしにはマクシテオフィル殿下しかいない。


「わたしの幸せは、マクシテオフィル殿下と一緒にずっと過ごしてこと、それしかないのです」


「リデナリットさん……」


 マクシテオフィル殿下は疲れ切ってしまったようだ。


 次の言葉がすぐに出てこない。

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