第15話 前世の殿下
「きみは、前世というものが存在していると思ったことはあるのかね?」
殿下はわたしに聞いてきた。
「前世ですか?」
もちろん前世は存在している。
わたしは殿下と初めて会った時に、前世を思い出したからだ。
しかし、そのことをここで言っても信じてもらえるだろうか?
いや、それ以前になぜ殿下は前世の話をし始めたのだろう?
わたしが殿下の言葉にどう反応したらいいか困惑していると、殿下は、
「世の中のほとんどの人々は、人生は一回限りで前世など存在しないと思っている。それどころか、前世の存在があると思っていると言うと、荒唐無稽なことを言っているという人々もいる、あなたも前世は存在しないと思っている人ではないかと思っていた。しかし、きみはわたしに前世という言葉を言われて、反応に困っているところを見ると、前世というものを少なくとも存在しているかもしれないと思っているようだね。だとすれば話がしやすい」
殿下は一度言葉を切り、心を整えた後、話を続ける。
「わたしは物心がついてしばらくの間は、前世というものの存在は信じていなかった。人生というものは一度きりだと思っていた。先程も申した通り、そこのところはほとんどの人々と変わるところがあったわけではない。ところが思春期を迎えたある日、前世の記憶が流れ込んできた。生まれてからこの世を去るまでの全部の記憶ではないが、かなりの部分を思い出すことができたように思う」
わたしは驚いた。
前世の記憶が殿下にも流れ込んでいたとは……。
「わたしの前世はボイルラフォン王国の王太子シャルルリックスだった」
ボイルラフォン王国。
わたしの前世はボトルントン公爵家の令嬢だったが、そのボイルラフォン王国に属している家だった。
前世でも殿下とわたしは比較的近いところに生まれていたのだ。
そして、わたしはシャルルリックス殿下の名前も知っていた。
年齢も同じ。
これは前々世と前世と同じだった。
前々世と今世と同じく、ハンサムで凛々しいと評判で、女性からのあこがれの的だった。
とはいっても、十五歳の若さでこの世を去ってしまったわたしには、全く縁のない話だった。
話をしたどころか、会ったことさえもないままになってしまった。
前世の殿下が、わたしもその名を聞いていたシャルルリックス殿下ということがわからなかったのは、会ったことがなかったからだ。
もしわたしが長生きしていれば、殿下とは、少なくとも会って話すことはできたと思う。
前々世でまた会いたいとお互いに祈っていたのだから。
そして、前々世では婚約や結婚までの約束はしていなかったが、今世でここまで来ることがきたということを思うと、婚約して結婚することも夢ではなかったかもしれない。
前世でもう少し長生きしたかったという思いが強くなってくる。
「わたしが自分でいうのもなんだが、前世のことを思い出すまでは、男性も女性も分け隔てなくやさしく接することのできる人間だった。しかし、前世のことを思い出したからは、女性を敬遠するようになってしまったのだ」
そこでまた殿下は話を一旦切る。
殿下の顔色がだんだん悪くなってきているように思う。
「これから話すことは、話をするだけで自分の心が痛くなってしまうことだ。わたしがこのことを思い出した当初は、食欲が全くなくなったほどだった」
「それほどの話ならば、無理に話そうとはなさらないでください。体調が悪くなっているように思いますので」
「いや、それでも話をしなければならない。きとのこれからの関係の為にも」
殿下はそう言った後、続きを話し始めた。
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