第14話 殿下はわたしと話をし始める

 殿下はしばらくの間黙っていた。


 やがて、


「セノーラティーヌさん、きみと話がしたい」


 と言ってきた。


「なんでございましょう?」


 わたしはだんだん緊張してくる。


 殿下の次の言葉を待った。


 すると殿下は話をしはじめた。


「きみはわたしに対して毎日『好き』『愛している』とわたしに言ってくるのだが、それはどのような意味で言っているのだろう? きみの心の底からそう言っているのだろうか? それとも婚約、そして結婚と進んだので、義務的に仕方はなく言っているのか? わたしにはそれがわからないのだ。わたしはきみにずっと『好きではない』と言い続けてきたし、『お飾りの婚約者』『お飾りの妻』でいいと言い続けていた。普通ならそう言われれば。どこかでわたしから離れていくものだろう。それなのになぜきみはわたしから離れようとしないのだ? それほど王太子妃、王妃としての地位がほしいということなのか?」


 殿下は厳しい表情で言ってくる。


 普通だとこのように言われたら、緊張が高まってしまい、返事が難しくなってしまうかもしれない。


 しかし、わたしは逆に緊張がやわらぐ方向になった。


 わたしときちんと向き合って話をしようとする殿下の姿勢。


 それが伝わってきて、わたしはうれしい気持ちになっていた。


 わたしもその殿下の姿勢に、きちんと対応していかなくてはならない。


「殿下、わたしは地位とかそういうものがほしいから、義務的に殿下に申しているのではありません。わたしは殿下のことが好きで、愛しています。そして、殿下の為に一生尽くしていきたいと思っているのです」


 わたしがそう言うと、殿下は厳しい表情が急速に変化し、苦しみ始めた。


 そして、つらそうにしながら、


「どうして、どうして、きみはそこまでわたしに言うことができるのだ。わたしはきみに酷いことしか言ってこなかったのに……」


 と言った。


 どうしたのだろう?


 今までわたしの前で苦しい表情をすることは全くなかった殿下。


 いつもわたしの前では厳しい表情しかしてこなかった殿下。


 その殿下が苦しい表情をしている。


 もしかすると前々世のことを少し思い出したのかもしれない。


 それで、心の苦しみが生まれてきている可能性はある。


 しばらくの間、殿下は苦しんだ後、


「わたしの話を聞いてくれるかな? 今まで。なぜわたしが異性を遠ざけていたかということと、きみを嫌っていたということを」


 と言った。


 これは、想定していなかったことだ。


 今までわたしが一番殿下に聞きたかったこと。


 でも今までは話をしてくれなかったこと。


 それを今から殿下は話そうとしている。


「はい。聞かせていただきたいと思います」


「これからの話は、場合によっては荒唐無稽なことだと思われるかもしれない。わたしはそのように思われるのが嫌で、今までは誰にも話をしたことはなかった。でも、きみならばきっと荒唐無稽なこととは思わずに、理解してくれると思う」


「殿下の言うことならば、理解できると思っております」。


 殿下が、前々世のことを少しでもいいので思い出してくれて、その話もしてくれると、すぐにはラブラブになるのは無理だとしても、お互いの距離が縮まるかもしれないとわたしは思っていた。


「それでは話をすることにしよう」


 殿下は苦しみを抑えながら、語り始めた。

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