第13話 仲が深まっていかないわたしたち

 わたしたちが結婚してからあっという間に一か月が経った。


 通常であれば、熱々でラブラブな新婚生活が展開されるところだ。


 王太子と王太子妃という立場でも、それは同じだと思う。


 いや、そういう立場だからこそ、なおさら仲睦まじいことが要請されるのだと思う。


 夫婦仲がいいということは、王国自体が幸せに包まれることになるからだ。


 わたしは前々世と前世で結婚することができなかったので、なおさら結婚生活、特に新婚生活というものにあこがれを持っていた。


 もちろん夫となる方は殿下以外にはいない。


 殿下と仲睦まじく毎日を過ごす。


 殿下と唇を重ね合い、二人だけの世界に入っていく。


 思うだけで恥ずかしくなってくるが、そういう経験を重ねていきたかった。


 また王太子妃として、そしていずれなっていく王妃としてふさわしい女性になる為、自分磨きを一生懸命行っていた。


 この点でも殿下に認められることを目指していた。


 しかし……。


 これだけ時間が経っているのに、殿下は手さえも握ろうとしない。


「形だけの夫婦。お飾りの妻」


 白い結婚の状態のままだ。


 一生独身という方針が貫けなくなったので、今はこのことを貫きたいと思っているようだ。


 なぜそこまでわたしのことを拒むのだろうか?


 わたしは毎日殿下に自分の想いを伝えていた。


 殿下に求められれば、いつでも応じる準備はできている。


 そろそろこの想いが殿下に通じてもいい頃だと思っていた。


 でもまだ通じていない。


 もちろん異性に対しては、昔から最小限の話しかしない方だということは聞いている。


 わたしもそれは感じているところだ。


 殿下は、異性と話している時は、やさしい気持ちを込めているように思う。


 ところが、その機会自体を極力少なくしている。


 わたしのことだけを拒んでいるわけではないということを理解はする。


 しかし、だからと言って、このままでいいわけがない。


 わたしは殿下にとって一番身近な異性であるし、友達ということではなく、妻なのだ。


 殿下と本当の意味での夫婦になっていきたい。


 わたしの最大の願いだ。




 結婚式が終わって、一か月が過ぎたある日のこと。


 夜、いつものように殿下とわたしは夫婦の寝室にいた。


 とはいうものの、相変わらず殿下はわたしに触れようともしない。


 このままいつものように隣の部屋に行ってしまうのか、と思っていたのだけど……。

 いつもと様子が違う。


「セノーラティーヌさん」


 とわたしに呼びかけたと思ったら、そのまま黙ってしまった。


 何かわたしに言いたいことがありそうだ。


 わたしに何を言いたいのだろう?


 もしかすると、離婚の申し出だろうか?


 いや、それはないと信じたい。


 前々世で、婚約はできなかったとは言っても、お互いに好意は持っていた。


 いくら殿下が前々世のことを思い出せないと言っても、心の底ではわたしに対する好意を残していると思うし、何よりも今世では、わたしは殿下にその想いを伝えてきた。


 わたしをここで捨てることはありえないと思う。


 思うのだけど……。


 離婚まで進むことはないと思うのだけど、別居ということはありえる話だ。


 しかし、そうなってしまったら、殿下との仲を深めていくのは絶望的となる。


 心配はせざるをえないところだ。


 でも、ここで心配をしてもしょうがない。


 何を言われたとしても、わたしは殿下に尽くしていくだけだ。


 わたしは殿下の次の言葉を待った。

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