第11話 結婚を望んでいない殿下

 わたしは殿下と婚約した。


 しかし、殿下の厳しい態度は変わらないまま。


「きみはお飾りの婚約者。結婚しても、お飾りの妻に過ぎない」


 殿下のところを訪れる度に言われた言葉だ。


 しかし、わたしは殿下のことが好き。


 わたしは殿下にそう言われる度に、


「わたしは殿下のことが好きです。愛しています」


 と微笑みながら言って想いを伝えていた。


 心の底からの想い。


 殿下は、その時だけ少し表情が緩むような気がするのだけど、すぐに、


「わたしはきみのことは好きになれない、なんといっても政略結婚という位置づけだ。好きになれという方が難しい話だ。そんなわたしのことを好きだと言ったり愛していると言ったりするのは、理解ができない」


 と返してくるのが常だった。


 このような対応を取られた場合、人によっては。辟易してだんだん想いを伝える気力がなくなるのかもしれない。


 それどころか、想いが弱くなり、極端な場合は嫌いになってしまう人もいるかもしれない。


 しかし、わたしは一切そういうことはなかった。


 殿下の対する想いを伝える気力がなくなってくることもなかったし、想いが弱くなることもなかった、


 まして、嫌いになることはありえない。


 今世でどんな形にしろ、好きだった殿下に会うことができているのだ。


 厳しい態度を取られていても、前々世でああいう別れ方をしたことを思えば、十分耐えられることだ。


 わたしには希望がある。


 これからも当分の間は、殿下がわたしを拒み続けるだろう。


 でもわたしの想いを伝え続けていれば、きっと前々世のことを思い出し、相思相愛になることができる。


 前々世のことを思い出さないかもしれない。


 しかし、その場合でも、今世で新たに仲を深めていけばいい。


 その希望を持って、わたしは殿下に対し、心の底からやさしい気持ちで接していく。




 わたしは殿下だけではなく、国王陛下や王妃殿下、そして王室の方々にも、心の底からのやさしい気持ちと笑顔で接していくように心がけた。


 王室の人々の中には、政略結婚の位置づけということで、わたしにいい思いを持っていなかった人もいた。


 しかし、そういう人々も、やがてわたしのことを理解してくれるだろうと信じていた。


 国王陛下と王妃殿下は、わたしが参上する度に、わたしに対する信頼と愛情が増してきたようだった。


 二人は、わたしたちの結婚を推進している。


 ありがたいことだと思う。


 その二人に対し、殿下の方は、この婚約が結婚にまで進むことを決して望んではいないように思えた。


 わたしへの好意が強まっていればまだいい。


 でも、そういう様子もない。


 とはいうものの、結婚そのものに反対をすることはなかった。


 ただ、わたしに対して、


「形の上でも、きみと結婚さえしておけば、父上と母上は満足するだろう」


 と言っていたので、結婚したとしても、わたしのことをお飾りの妻にするという方針に変化はなさそうだ。


 できれば婚約中に殿下と相思相愛になりたかったのだけど……。


 それができないまま、国王陛下と王妃殿下の主導で、殿下とわたしの結婚への道は開かれて行った。


 しかし、それでもわたしは、結婚式の後になれば、殿下の姿勢は変化していき、わたしのことを愛してくれるようになるのでは、という淡い期待は持っていた。


 そして、わたしたちは結婚式を迎えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る