第10話 婚約の成立

 殿下は話を続ける。


「それにわたしは、一生独身のままでいたいと父上に申しておりました。そのことはお聞き届けいただけないのでしょうか?」


 国王陛下は、


「なぜそういうことを言うのだ、『一生独身』ということは、今は王太子で、これから国王となるお前に許されることではないのだ。そしてわたしには、お前がこの女性を嫌う理由がわからない。わたしはお前にふさわしい女性だと思ったのだ。きっと好きになっていくと思っている」


 という。


「いや、それは無理だと思います」


「それではこの話を断りたいのか? これほどの女性はもう現れないかもしれんのだぞ?」


 国王陛下はだんだん怒ってきているようだ。


 しかし、殿下は平然としている。


 そして、


「一生独身でいようと思っていましたので、この女性のこと以前に、話そのものをお断りしたいところです。しかし、父上が婚約を進めるということであれば従うしかありません。婚約の話を受けたいと思います」


 と言った。


 どこか他人ごとのように聞こえる。


 それでも、それを聞いた国王陛下はホッとした表情になる。


「よし、これでオディナルッセの婚約に向けて動くことができる。オディナルッセにも伴侶ができることで、これからより一層政務に励むことができるだろう。


 国王陛下は満面の笑みを浮かべた。


 王妃殿下もうれしそうにしている。


 しかし、殿下は複雑な表情をしていた。


 わたしとの婚約を嫌がっている。


 それはわたしにとってはつらいことだった。


 わたしと前々世で会っていたことさえ思い出してもらえれば。わたしに好意を持ってもらえるのに、と思う。


 でも、それは現状無理なので、この状況を受け入れるしかないのだろう。


 とにかく国王陛下と王妃殿下がわたしのことを気に入ってくれたおかげで、殿下と婚約に向けて進むことができるようになった。


 婚約をした後、愛を育んでいき、結婚するまでに相思相愛になっていきたい。


 わたしはそう強く思うのだった。




 その後、殿下とわたしの婚約式が行われ婚約が成立した。


 わたしにとっては、大きな前進だ。


 好きな方と。前々世では婚約前で別れることになってしまった。


 それどころか、前世では会うことさえもできなかった。


 それが、婚約まで到達したのだ。


 うれしさは格別だった。


 しかし、喜んでいるだけではいけない。


 殿下と結婚して、一緒に幸せになっていくという目標がある。


 わたしは婚約成立後、殿下のところに毎日通うになった。


 殿下はわたしが来る度に。


「わたしはきみに毎日通うようにお願いをした覚えはない。一週間に一度、しかも短時間でいい。それぐらいしか会う気はない。きみはお飾りの婚約者なのだから」


 と厳しい表情で言う。


 でもわたしは決してめげない。


 前々世のことを思い出す様子はなく、わたしには厳しい言葉で対応する殿下ではあったが、前々世のマクシテオフィル殿下がオディナルッセ殿下に生まれ変わって、毎日会えるということは、それだけでもわたしにとってはうれしいことだ。


 わたしは殿下が好きなのだから……。


 しかし、それだけだとやはり寂しい気持ちになることはある。


 相思相愛になりたい!


 それにはまずわたしが殿下への想いをますます熱いものにし、それを殿下に伝えていく必要がある。


 そこでわたしは、殿下と会う度に。


「わたしは殿下のことが好きです。愛しています」


 と言って、自分の気持ちを伝えることにした。

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