第9話 国王陛下

 今世での殿下とわたしの初めての出会いは、決してうまくいったものではなかったと言えるだろう。


 殿下はわたしと話をしている内に、厳しい表情を少しずつ緩めていっていた。


 しかし、打ち解けるというところまではなかなかいかなかった。


 殿下が前々世のことを思い出すことができれば、殿下との仲は一挙に深まっていくと思うのだけど……。


 あせってはいけない。


 そう思っていると、国王陛下は、


「わたしからも話をさせてもらおう」


 と言って、わたしに対して話をし始めた。


「あなたは聡明と聞いているし、思いやりとやさしさも持っていると聞いている。しかも、今日ここで初めて会って、容姿や立ち振る舞いについても、素敵なものを持っているとわたしは思った。わたしとしては、オディナルッセの婚約者にふさわしいという気持ちはある」


「ありがとうございます」


「オディナルッセとあなたの結びつきは、政略結婚ということになる。あなたには、今まで親密とはいえなかったわが王室とラフォンフィス公爵家の関係を深めていくという大切な役目がある。それは果たすことができると思っている。しかし、それだけではない。結婚をするということは、王室の一員となるということだ、あなたが王室に入るからには、心の底から王室そして王国の為に尽くしてもらう必要がある。特に王太子妃、そして王妃として、オディナルッセを支え、尽くしてもらわなければならない。その覚悟はできているのか? その覚悟がない人は、わたしは婚約者としての資格がないと思っている。わたしにあなたの覚悟を聞かせてほしい」


 国王陛下は、心の底から王室の一員になってほしいと言っている。


 その覚悟を聞かせてほしいと言っている。


 厳しい言葉ではあるが、それだけわたしのことを買っているということなのだろう。


 その思いに応えたい。


「わたしは王室の一員として、心の底から王室、そして、王国の為に尽くしていくという覚悟はできております」


「心の底からの覚悟ということでよろしいな。ここは大切なところだ」


「もちろんでございます」


「その覚悟は受け取ることにしよう」


「わたしの覚悟を受け取っていただき、ありがとうございます。わたしは国王陛下をお父上、王妃殿下をお母上として敬い、尽くして参りたいと思っております。そして、殿下のことを一生愛し、尽くして参りたいと思っております」


 わたしは誠意を込めてそう言った。


「そこまで申してもらえるのはうれしいことだ。わたしはこの婚約を推進したい。お前も賛成してくれるな?」


 国王陛下は王妃殿下の方を向いて言う。


「もちろんでございます」


 王妃殿下は賛同する。


 国王陛下は次に殿下の方を向く。


「わたしとしては、お前とこの女性との婚約を推進したいと思っている。お前はどう思っているのだ?」


 それまで、また厳しい表情に戻り、国王陛下とわたしのやり取りを黙って聞いていた殿下は、


「決して気が進んでいるわけではありません。わたしはこの女性を好きではありません。むしろ嫌いな方に入ります。これからも、この女性を好きになることはないと思います」


 嫌いな方だと言われてしまった。


 先程、少しだけ表情が緩んだ時があったので、好意を持ち始めてくれたのだと思っていたのだけれど……。

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