第18話 短い生涯だった前世の殿下

 殿下の前世の話は続く。


「『いくら大国の王女でも、浮気をしていいということにはなりません』とわたしは彼女に反論した。もう怒りが爆発寸前だったが、それはさすがにできないので、歯を食いしばって怒りを何とか抑えていた。しかし、そんなわたしの気づかいは、彼女には通じない。彼女は、『先程も、これからはわたしの自由にさせてもらいますと言ったではありませんか。浮気だってこれからはし放題なのです。わたしはこの方を思う存分愛します』と言うと、貴族令息を抱きしめた。そして、お互いの唇と唇が近づいてくる。わたしの目の前でそれだけはしないでくれと思っていたのだが……。でも二人はわたしの思いもむなしく。無情にも唇を重ね合わせた。先程は抱きしめ合うところまでだったが、今度はキスまでわたしに見せつける。わたしは呆然としてしまい。しばらくは言葉が出なくなってしまった。心の打撃が大きすぎて、一気に心が沈んでしまったのだ。もう怒るどころではなくなってしまった。少し経った後、やっと、『わたしの前で何をしているんです』と言ったのだが、それは弱々しい言葉でしかなかった」


 わたしは殿下の話を聞いていて、涙が目にたまってきた。


 わたしは前世で殿下を助けることは何もできなかった。


 こんなつらい思いを前世でしていたなんて……。


「彼女が愛人を持つことは認めざるをえなかった。いや、認めさせられたのだ。もし嫌だといえば、彼女の実家である大国からどんな難題が降りかかってくるかわからない。それだけブリュノーラ王国の国王陛下は彼女の言うことならなんでも聞く方だったのだ。それからの彼女は、わたしにまったく気兼ねをすることなく、愛人を呼ぶようになった。それだけでなく、わがボイルラフォン王国の政治にも介入してくるようになった。それが有益であればよかった、しかし、増税をし、その分を自分の贅沢に使うとともに、自分の実家の大国に送るようになった。こうなると、ボイルラフォン王国の国民たちは困窮し、不満はたまってくる。しかし、父国王陛下も母王妃殿下も改革をしようとする意志はあったのだが、年老いていて、対策を取ることができない。わたしにもどうすることもできなかった。周囲の人々は、彼女の機嫌を取ることしか頭にない。改革をしようにも賛同するものたちがいない。いくらわたしがその意志を持っていても、一人では何もできない。落胆したわたしの心は壊れていき、体も壊れてしまった。結婚してから一年半ほどでそういう状態になり、それ以後は病床にあった。そして、結婚してから二年目を迎える寸前のところで、わたしは短い生涯を閉じた。一旦は、幸せをつかんだと思ったのに、最後の方はつらく苦しい人生となってしまった。われながら悲しい人生だと言わざるをえない。今思うと、彼女と結婚しなければよかったと思う。そうすれば、この若さで心も体も壊れることはなく、もう少しいい人生を歩むことができたのだろうし、王国の国民にも、父上や母上にも迷惑はかけることはなかったのではないかと思う」


 殿下は彼女に浮気をされただけでなく、それが原因で、心も体も壊してしまい。短い生涯で終わってしまっていた。


 わたしはますます悲しくなり、涙が目にあふれてきていた。

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