第19話 浮気をした人の、みじめなその後

 殿下の話はさらに続いていく。


「これがわたしの前世の話だ。前世は存在しないと思っている人からすれば、ただの夢物語なのかもしれない。しかし、今までの話は全部わたしが実際に体験をしたことだ。きみならそれは理解してくれるだろう」


「今の話は殿下が前世で経験したことだと理解いたします」


「その点はありがたい」


 殿下がわたしに感謝の言葉をかけてくれることほとんどなかったので、うれしいことだ。


 少しうれし涙がまじる。


「ただ、せっかく前世の話だと理解してもらったというのに、われながら情けない話しかできなかったと思う。前世の話ということになれば、もっと活躍したことが中心になってきてもいいはずだ。きみだってそういう話が聞きたかったことだと思う。しかし、残念ながらわたしには、活躍したと言えるほどの話はない。そことは申し訳なく思う」


 わたしは前世の話を通じて、殿下への理解が深まったと思っている。


 殿下がつらく苦しい思いをしてきたことに対して、目から涙がこぼれる寸前まできていた。


「ちなみに彼女のその後のことだが、わたしが今世で前世のことを思い出してからしばらくした後、ボイルラフォン王国の歴史についての本を読んだ。すると、次のようなことがわかった。彼女は、次の王太子殿下を擁立することになった。父上が持っていたその権限は、ブリュノーラ王国の圧力で、彼女に移されていたからだ。普通であれば、わたしに近い親族が擁立されることになる。しかし、わたしには子供はいなかった。そして、祖父上に子供は父上一人しかいなかったし、父上にはわたししか子供がいなかった為、わたしに近い親族はいなかった。そこで、彼女は王室の一員である人々の中から、自分が気に入った人物である五歳の男子を擁立した。幼い子供を擁立することによって、自分が実権を握っていこうと思っていたのだろう。しかし、わたしがこの世を去ってから二年後、実家のブリュノーラ王国の国王陛下はこの世を去った、その息子であった王太子殿下が継いだのだが、この方は父親とは違い、堅実な政治をする方だった。この方は、ボイルラフォン王国に影響力を持ちたいとは思っていた。しかし、彼女がボイルラフォン王国の国民を困窮させていることを苦々しく思っていたそうで、後ろ盾になることを止めた。すると、今まで彼女のやり方に不満を持っていた人々の怒りが爆発し、彼女を修道院に送れと要求した。彼女は実家のブリュノーラ王国に救けを求めたが、救けが来ることはなく、『浮気をしなければこんなみじめな思いをすることはなかったのに』と彼女は泣き叫びながら修道院に送られてしまった。愛人だった貴族令息も修道院行きになった。王太子殿下になった方は、やがて成長していき、堅実な政治をしていたブリュノーラ王国の国王陛下の娘と結婚したのだが、わたしの時とは違い、その後、国王陛下と王妃殿下になってからも夫婦円満で過ごすことができたそうだ。彼女が浮気をするような女性でなければ、わたしだけでなく、父上も母上も、そして国民も苦しむことはなかったし、本人も修道院に行くことはなかった」


 殿下の言う通りだと思う。


 彼女にとっても、浮気をしたことは結局いいことではなかった。


 そうした人に苦しめられてしまったのだと思うと、涙を抑えることは難しくなってくる。


 それでもわたしはなんとか涙がこぼれてくるのを我慢する。


「まあ、この話はここまでにしよう。わたしは前世でつらい思いをした。その思いは今世でわたしが成長しても、小さくなるどころか大きいものになっていった。毎日心がきりきりと痛んでつらくて苦しかった。しかし、わたしは今世でもその内、縁談がくるだろう。もし、婚約、結婚というところまで進んでしまったら。またその相手に浮気をされて苦しまなければならないかもしれない。そのような苦しみはもう二度と味わいたくはない。そう思ったわたしは次第に、一生独身でいたいと思うようになったのだ」


 殿下は一生独身でいたいと思うようになったのは、前世でのつらく苦しい経験があり、そういうことを繰り返したくないからだと言っている。


 今までは殿下が、


「一生独身でいたい」


 と言っていた意味が理解できていなかった。


 しかし、今の殿下の言葉でようやく理解できるようになった。


 前世でこのような経験があったことがあったことを思い出せば、一生独身でいたいと思うのも無理はないと思う。

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