第20話 わたしの想いが理解できない殿下
殿下は一旦言葉を切った後、続ける。
「しかし、父上と母上は、『一生独身でいたい』というわたしの意向を聞き届けてはくれなかった。わたしが二十歳になるのを前に、縁談を持ってくるようになった。お二人の心がわからなかったわけでは決してない。ありがたいとは思っていた。でもわたしには、結婚する気は全くない。紹介される女性はもちろん全員それぞれ魅力はあり、好意を持った女性がいないわけではなかった。しかし、すべてわたしは断った。お二人はその度に悲しい表情をしていたが、前世のような女性と結婚した方がよほど悲しくつらい思いをさせてしまう。こういうことは実際に結婚してみないとわからない。前世の彼女だって、初めて会った時は、美しくてつつましやかで、魅力的な女性だと思った。そして、一生夫婦仲良くしていけると信じていた。それがものの見事に壊されてしまったのだ。こうして受けたわたしの心の傷はまだ治ってはいない。それほどのつらい経験だった。わたしが結婚すれば、またそうなる可能性がある。それを防ぐには、独身を貫き通すしか方法がないと思っていた。それで縁談を断り続けていたわたしだったのだが、やがて、きみとの縁談が持ち上がってきたのだ。きみの評判はいいものだった。才色兼備で心の底からやさしい女性だということだった。お二人もこの人ならよさそうだと言っていた。しかし、わたしには前世の経験がある。前世の彼女だって、最初はそういうイメージだったのだ。それが結婚後半年ほどで覆ってしまった。今回だって、そうならないとは限らない。わたしは今までも縁談を断り続けていたので、もう縁談の相手に会うのも嫌になっていた。お二人も最初は、ラフォンフィス公爵家とは疎遠だったので、そこまで乗り気ではなかったのだが、先程も申した通り、きみの評判がいいということで、次第にわたしに対して縁談をすすめるようになった。それで仕方がなくきみと会うことにしたのだ」
殿下はわたしと会うのが最初は嫌だったようだ。
それは仕方のないことだと思う。
でも国王陛下と王妃殿下がわたしと会うことをすすめてくれなければ、殿下とわたしは結婚できなかったかもしれない。
改めて、お二人には感謝したいと思う。
「きみと初めて会った時、わたしはその美しさに魅了された。わたしの理想の容姿を持っていたのだ。その点は前世の彼女と同じだったが、心の底からのやさしさも伝わってきたという点は前世の彼女とは違っていた」
殿下がわたしのことを評価してくれていたのはうれしい。
またうれし涙が少しまじってくる。
「しかし、わたしの心の中には、『この女性に心を許してはならない』という思いが浮かんでいた。そして、前世の彼女と同じようになるのでは、という思いがわたしの中に湧いてきていた。それで、わたしはきみとの縁談を断ろうとしていたのだ。しかし、お二人は予想以上にきみのことを評価していた。わたしは結局、父上と母上のお二人に押し切られる形で縁談を承諾することになった、そして、きみとは婚約、結婚へと進み夫婦となった。しかし、きみとは結婚した後も、わたしは積極的にきみとの仲を深めようとしてきたわけではない。それどころか、結婚をする前から別れたいと思って、酷いこともたくさん言ってきた。普通だったら心が痛むところだろう。そして、わたしのことを嫌いになるだろう。嫌いになってくれればよかったと思う。それなのに、きみはそれに心が動かされることはなく、それどころかいつもわたしに心の底からやさしく接してくれている。きみがわたしのことを想ってくれる気持ちは伝わってきていた。でもなぜわたしのような人間にそこまでの想いを持ってくれるのか? わたしがきみに聞く度、『殿下という方そのものが好きなのです』と返事をしていたが、それがわたしには理解ができないままでいる」
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