第17話 浮気
「わたしと彼女との仲は、結婚してから半年ほどは順調だった。ところが半年を過ぎた頃から、次第にすきま風が吹くようになった。どういうことがきっかけでそうなったのかはわからないが、ある時から。彼女はわたしと話すのを嫌がるようになったし、別々の部屋で寝るようになっていった。わたしは彼女にその理由を聞いたのだが、『気分がさえませんので』としか言わなかった。彼女は大国の出なので、わたしも言葉使いは気をつけていて、ていねいな言葉を使っていた。『わたしのことを嫌いになったわけではないですよね?』と聞いても、『殿下のことは愛しています』と言ってくれるので、わたしのことを避けているのは一時的なものだと思っていた。時が来れば、いずれまた仲良くできると思っていたのだ。しかし、それは、わたしの甘さでしかなかった」
殿下の表情は厳しさを増してきている。
「結婚後一年経った頃だった。その頃には、彼女と話すことは公務関係のことぐらいになっていて、一緒に寝ることもなくなっていた。寂しい気持ちになっていたが、何の手も打たなかったわけではない。プレゼントもしたし、『好きです』『愛しています』という言葉もきちんとかけるようにしてきた。キスも二人だけの世界にも誘ったのだが、『わたしも殿下のことを愛しています』と他人事のように言うだけで、一切応じることはなくなっていた。そんな時、彼女が若い貴族令息たちの何人かと会っているという話が聞こえてきたのだ。しかもそれぞれ二人きりで。貴族令嬢ならばともかく、貴族令息となると二人きりで会うこと自体、決して好ましいことではない。万が一、そこで二人だけの世界に入ってしまっては、浮気ということになり、大きな問題になってしまう。とはいっても、わたしは彼女を信じたかった。二人だけであっているのは、王国の為だろうと思っていたのだ。しかし、それは無残にも砕かれてしまった。よりによって、わたしたち夫婦の寝室で、彼女が貴族令息と抱き合っていたのを見せつけられてしまったのだ。信じたくはなかった。少なくとも結婚後半年の間は仲睦まじくしていたわたしたたちだ。それが、浮気をされてしまうなんて……」
殿下は口惜しそうに話す。
わたしの方も、その話を聞いて驚いた。
殿下ほどの素敵な方の前で、浮気をするなんて……。
わたしも腹立たしい思いがしてくる。
「わたしはそれでも彼女のことを愛していた。それで、『これは何かの間違いだろう。今回のことは許しますから、この男とは別れてください』と言った。ところが彼女は開き直って、『わたしは大国の王女。今まではあなたに対してつつましい態度をとるという演技をしてきましたが、もう演技はしないことにしました。これからはわたしの自由にさせてもらいます。今まではあなたに遠慮して、この方の出入りは制限してきましたが、これからはわたしの愛人として、自由に出入りをしてもらうことに決めました』と言ってきた。わたしは、『わたしときみは夫婦です。愛人などいていいわけがありません』と怒りを抑えながら聞いたら、彼女は、『わたしはこの方が好きになったのです。愛しているのです。でもあなたとの婚姻関係は続けなくてはいけません。だからこの方を愛人にすることにしたのです』と言ってきた。わたしは、『そんな自分勝手なことが許されません』となんとか怒りを抑えながら言ったのだが、彼女は、『わたしは大国の王女だと言ったではありませんか。あなたのような小国の王太子はわたしの言うことをすべて聞けばいいのです』とわたしをあざ笑いながら言ってきた」
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