第28話 後もう少しで二人だけの世界に入る

 わたしは殿下に、二人だけの世界に入っていきたいと言われた。


 うれしい気持ちでいっぱいになる。


 しかし、前々世でも前世でもそうした経験のないわたしは、殿下に対してすぐに承諾の返事をすることができなかった。


 心と体の準備はできていたはずなのに……。


 いざとなると、なぜ笑顔ですぐ承諾の返事ができないのだろうか?


 とはいっても、胸のドキドキは大きくなる一方だし、恥ずかしさも抑えることができない。


 殿下も言っているように、二人だけの世界に入るということは、愛の究極的な形の一つ。


 キスまでならば、前々世で経験があるので、進むことができたわたし。


 しかし、それ以上の経験がない為に、殿下がせっかく誘ってきてくれているのに、満足に返事をすることができない。


 わたしは殿下に、


「わたしは殿下のことが好きです。愛しています」


 と言い続けてきた。


 わたしはその言葉を、心の底から言ってきたつもりだった。


 でも、二人だけの世界に入らない間柄のままで、心の通じ合った夫婦になることができるのだろうか?


 もちろんキスも心を通じ合う手段の一つだと思う。


 二人だけの世界に入らなくても、キスで心が固くつながるのであれば、それは一つのラブラブな夫婦の形だと思う。


 また、そういう体のつながりがなくても、心で固く結びつき合っていれば、それも一つのラブラブな夫婦の形だと思う。


 ただ、殿下とわたしの間については、だけではまだ心が固くつながっているとはいえないと思っている。


 二人だけの世界に入ってこそ、殿下とわたしの場合は、心が固くつながっていくのだと思っている。


 しかし、ここまで理解をしていながら、わたしは殿下に返事ができない。


 その間に、殿下は、わたしが心の準備ができないものと思いこみ始め、


「また明日にしましょう」


 と言ってきている。


「前々世と前世と違い、わたしたちは健康に恵まれています。ということは、まだまだわたしたちには時間があるということです。明日と言わず、あなたの心の準備ができるまで、待ちたいと思っています」


 殿下はそう言って、微笑んだ。


 なんとやさしい方なのだろう。


 今の殿下は、前々世のマクシテオフィル殿下そのものだ。


 いや、今世の殿下も、もともとそういうお方なのだ。


 前世で大変つらい思いをしてしまった為に、そういう経験は二度としたくないと思った。


 その思いが、


「一生独身でいたい」


 という言葉になり、わたしに厳しい表情を向けてくるという対応になってしまったのだ。


 今の殿下は本来の殿下の姿。


 わたしはこの殿下のやさしさに応えていかなくてはならない。


 殿下だって、わたしともっと心を固くつながっていきたいと思っているはず。


 その為に、殿下は、わたしと二人だけの世界に入っていきたいと言っているのだと思う。


 殿下は、明日でいいと言っている。


 しかし、もし明日決断をして、承諾をしたとしても、結局のところこの一日は無駄になってしまうことになる。


 逆に、


「どうせ決断したのだから、なぜ一日を無駄にする必要があったのだろうか?」


 と後で後悔することにもなってしまうと思う。


 殿下のお誘いを受けなければ、殿下に申し訳ない。


 そして、わたしの殿下への想いをもっと熱くしたい。


 その為にも、殿下と二人だけの世界に入っていきたい。


 わたしは殿下が好きなのだから。


 もう殿下に返事をすべきだ。


 わたしは決断をしようとしていた。

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