第34話 殿下からの話

 わたしたちが本物の夫婦になって、一番喜んでいたのは、国王陛下と王妃殿下だった。


 殿下がわたしとの結婚前も、結婚後しばらくの間も、


「お飾りの妻」


「形式的な結婚」


 とお二人に言っていたので、このまま離婚に進んでしまうのではないか、と心配をし続けていたそうだ。


 お二人には申し訳ない気持ちで一杯だった。


 初めてお二人に謁見をしてから、わたしのことを高く評価してくれたお二人。


 結婚式を挙げた後は、すぐに仲睦まじい夫婦になってくれるだろう、という大きな期待を背負っていたのに、なかなかその期待に応えることはできなかった。


 今はやっと期待に応えることができて、殿下と仲睦まじい生活をすることができている。


「あなたがオディナルッセの妻になってくれて本当によかった。あなたには、心から感謝している」


「あなたほどの素敵な方とオディナルッセが仲睦まじくしてくれて、わたしはうれしくてたまりません。ありがとうございます」


 国王陛下と王妃殿下はそう言って、わたしに感謝してくれている。


 その期待に応える為、わたしは自分磨きにもっと励んでいこうと思うのだった。




 わたしが政略結婚で殿下の妻になったことと、結婚後もなかなか仲睦まじい夫婦になれなかったことで、王室や貴族たちの中には、わたしのことをよく思わない人たちが一定数いた。


 また、殿下と結婚することを夢見ていた女性たちは、


「なんでわたしより魅力のない女性が殿下と結婚するのよ!」


「今からでも離婚して、わたしと結婚すべきだわ!」


 と口々に言って、わたしに対して反感を覚えているようだった。


 そうした声も、わたしたちが仲睦まじくなるにつれて、小さくなっていった。


 まだそういう声はなくなったわけではないが、わたしたちの結婚について、反感を持つ人が減ってきたのは、いい方向ではないかと思っている。




 殿下とわたしがお互いの想いを改めて伝え合った翌日。


 わたしは、昼前、殿下の執務室に呼ばれていた。


「セノーラティーヌさん、今日はあなたに正式な話をしたくてここに来ていただきました」


 公私の区別を厳格にしている殿下。


 ここでは、夜一緒にいる時のような甘い雰囲気は少ない。


 殿下とわたしの間柄なので、ないわけではないのだけど。


 こういう凛々しいところも、わたしは好きだ。


 わたしの方も一生懸命公私の区別をしようとしている。


 しかし、こうして殿下と二人きりでいると、殿下に抱きしめてもらいたいという気持ちが湧いてきてしまう。


 そして、キスがしたくなる。


 さすがに、ここでは二人きりの世界に入るのは無理だと思う。


 といいつつ、心の底には、入っていきたいという気持ちがある。


 そういった気持ちなんとか我慢し、今日の夜に期待をしながら殿下の話を聞く態勢になる。


「あなたは公爵家で、当主であるあなたのお父上の領地経営を助け、大きな成果をあげてきたと伺っています。そして、領民にも慕われていると伺っています」


「大きな成果をあげたということや領民に慕われているということをおっしゃられますと恥ずかしいです。領地経営で成果を上げたのは、父の力によるものです。そして、領民に慕われているのは、父です。わたしは父のお手伝いをしたにすぎません」


「あなたは自分の手柄を絶対に誇ることがありません。そういうところもあなたの素敵なところだと思います」


「褒めていただいてありがとうございます。でも褒めすぎではないかと思います。領地経営についての提案はわたしの方で作成いたしましたが、その提案を細かく検討し、実行したのは父です。父の方こそ、もっと褒められていいのではないかと思います」


「あなたはお父上のことを大切に思っています。そういうとことも素敵ですね」


 殿下は少しだけではあるけれど、微笑みながら言った。

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