第22話 少しずつ変化していく殿下の心
殿下はわたしと以前どこかで会っているのでは、と言う。
しかし、記憶がないと言っている。
そして、わたしに記憶がないか、と聞いてきた。
記憶はもちろんある。
ただし、それは今世ではなく、前々世での話。
そこで、殿下とわたしは婚約寸前まで行っている。
そして、また来世、来々世で会おうとお互いに祈った間柄だ。
とはいうものの、今まではそういう話は一切することができなかった。
そういう話をすれば、荒唐無稽な話をしたということで、さらに嫌われてしまう可能性があると思っていた。
しかし、今日、殿下の方から前世の話があった。
殿下が前世での話をしたということは、わたしが前々世、前世の話をしても、実際に経験をしたことだと理解をしてくれるに違いないと思った。
わたしの方からも前々世と前世の話をしよう。
そう思ったわたしは、
「殿下とわたしは以前、お会いしたことがあります」
と言って話をし始める。
「会ったことがある? どこで会ったのだろう?」
「殿下とは前々世でお会いしています」
わたしは力を込めてそう言った。
どういう反応を示すだろうか?
前世は存在することを理解しているのだから、前々世の存在も理解してくれるはず。
「前々世で? 前世ではなくて?」
殿下は驚いている。
「そうです。前々世です」
「前々世となると、わたしは思い出すことができない。でも前世がある以上、前々世はあるだろう。存在自体は理解しなければいけないと思う」
「その前々世の話をしてよろしいでしょうか?」
「では話をしてもらおう」
「ありがとうございます」
わたしは。前々世での、殿下とわたしのことを中心に話をした。
前々世でのオディナルッセ殿下であるマクシテオフィル殿下とわたしの出会いのこと。
マクシテオフィル殿下とわたしが仲良くなって行ったこと。
婚約を目前としてマクシテオフィル殿下がこの世を去ることになったこと。
わたしは話をしている内に、胸が熱くなってきて、また涙があふれだしてくる。
殿下が少しでも思い出してもらえるとうれしい。
そして、わたしがマクシテオフィル殿下との今生での別れのことを話していた時だった。
「きみとわたしは。来世と来々世でも会いたいと思い、お互いにお祈りをしていた……」
「そうでございます、殿下もわたしも一生懸命お祈りをしておりました。そして、殿下は、『わたしはあなたの幸せを誰よりも願っています』とおっしゃってくださいました。それがどれほどわたしにとってありがたい言葉であったことでしょう」
わたしは涙がこられきれなくなり、目から涙が流れ始めた。
「きみの話の通り、きみとわたしは前々世で婚約寸前まで行った間柄なのだろう。そして、生まれ変わった後も会いたいと思って、お互いにお祈りをしていたという話。今まで、誰かとまた会いたいと思って、一緒にお祈りをしていた記憶がわずかにあったのだが、もしかしたらこの話だったのかもしれない。なぜそういうことに気がつかなかったのだろう……。わたしがきみに親しみを覚えていたのは、前々世できみと接していたからだということは、頭では理解をすることはできる。頭では理解ができるのだが……。できれば前世のように前々世のことをわたしは自分自身で思い出したい。それが今の時点でできないのは残念だ」
殿下はそう言った後、
「それで、前世のきみはどうだったのだろう?」
とわたしに言った。
わたしは涙を拭きながら。
「前世では残念ながら、十五歳の若さでこの世を去ってしまいました。もっと長生きをしていれば、前世の殿下とお会いできたかもしれません」
と言った。
「十五歳……。わたしがきみに前世で会った記憶がないのは、そんなにも若い歳でこの世を去ってしまったからなのか……」
殿下は残念そうに言った。
今までの話で、殿下の心は少しずつ変化しているような気がしていた。
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