第23話 縮まっていく距離

「きみの前々世。前世の話は理解した。話をしてくれてありがとう」


 殿下はそう言って頭を下げる。


 殿下がわたしに頭を下げたことは、今までほとんどなかったので、驚いた。


「普通であれば、荒唐無稽な話として受け取られても仕方のないところです。聞いていただいただけでもありがたいことです」


 わたしも殿下に頭を下げる。


「それはわたしが言うべき言葉だ。きみの方こそ、わたしの前世の話を信じてくれた。これほどありがたいことはない」


「わたしも前々世と前世のことを思い出していたので、殿下の前世の話を理解することができました」


「ただ……」


 殿下は少し憂鬱な表情になる。


 厳しい表情が柔らかい表情に少しずつ変化していたので、この変化は心配になっていたのだけれど……。


「わたしは今まではきみのことを避けてきたし、酷いことも言ってきた、『お飾りの妻』とまで言っていた。前世で失敗したことに、いつまでも影響され続けていた。その為、きみのことをきちんと評価することができていなかった。きみとは前々世で、生まれ変わったらまた会いたいとお祈りをしていたというのに……。わたしはそのことについてはわずかな記憶しか持っていなかった。きちんと思い出していれば、きみに迷惑をかけることはなかったと思う。申し訳ない気持ちで一杯になっている。きみにはそのことについて謝らなければならない」


 殿下はそう言うと、再び頭を下げる。


 殿下はわたしに対する敵意を捨ててくれたようだ。


 ありがたいことだと思う。


「殿下、もうそれは過ぎたことです。これからは、少しずつで構いませんので、殿下とわたしの距離をもっと縮めたいと思います。わたしは夫婦なのですから」


「夫婦……」


「まだ前世の心の痛手は残っていると思います。わたしはそれを癒していきたいと思っているのです」


「ありがとう。わたしも心を入れ替えて、きみを大事にしていきたいと思っている。わたしたちは、きみの言う通り夫婦なのだからな」


 殿下は少し微笑んだ。


「やっと少し笑顔を見せてくださいました。うれしいです」


 わたしも殿下に微笑む。


「とはいっても、できれば前々世のことを思い出したい、そうすれば、きみへの理解はもっと深まっていくと思うのだが……。それはやっぱり残念に思っているところだ」


「こうして夫婦として過ごしていれば、いずれ思い出すこともあるかもしれません。あせることはないと思います」


「それはそうだと思う」


「それに、前々世のことも大切だとは思っていますが、今ここで生きている時をもっと大切にしたいと思っています。わたしとしては、殿下とは夫婦になっているのですから、今よりももっと仲を深めていきたいと思っています」


「わたしもこれからはきみとの仲を深めたいと思っている」


 わたしたちはお互いに微笑みあった。


 今日ここまでで、わたしたちは、夫婦としての形ができてきたと思う。


 できればわたしとしては、この後、殿下に抱きしめてもらい、キスをしてもらいたいと思う。


 今日はそこまで進んでもらえるだろうか?


 進んでもらえるとうれしい。

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